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『上級国民/下級国民』を読む Part3

引き続き、橘玲『上級国民/下級国民』から気付きを残していきます。今日はPart3 "世界を揺るがす「上級/下級」の分断"です。

5. リベラル化する世界

農業革命が人口爆発を起こしたとすれば、産業革命は「ゆたかさの爆発」を引き起こしました。(P150)

18世紀半ばの産業革命によってゆたかさの相転移(ある系の相が別の系に変移すること)が起き、20世紀の半ばに価値観の相転移が起きて、「自由な社会」が誕生したという訳です。世界は、自由化=リベラル化が進行しています。私達が自分の人生を自分で選択できるのが普通と考えられるようになったのは、つい最近の出来事なのだと気付かされます。

自由な社会は、ある意味残酷な世界であり、能力の差が自己責任として如実に現れます。もともとの能力がショボいのは勿論、持っている能力が発揮出来なくて、燻っているのも自分の責任ということになってしまうからです。何でもかんでも自己責任というのはとても疲れます。「ポイ捨てされる人間」というキーワードも心に響きます。

「液状化」した後期近代(リキッド・モダニティ)はひとびとが自由に生きられることができる素晴らしい社会ですが、つねに誰かを排除しつづけなくては「秩序」を保つことができません。人類史上未曾有の繁栄の陰では「余分な」ひとたちが廃棄処理場に送られ、リサイクルされ、ゴミの山にポイ捨てされているのです。(P172)

無茶苦茶危険な世界です。とはいえ個人で嘆いていても仕方がないのです。能力の劣る人間、社会的な評価を得られない人間は、雑魚扱いされ、容赦なく切り捨てられるという厳しい現実と向き合って、折り合いをつけながら生き抜いていくしかないのだと気持ちを新たにしました。

6. 「リバタニア」と「ドメスティックス」

この章の解説はとてもクリアで、大変納得感があります。内容的にもとても面白い。

知識社会の勝者である新上流階級を象徴するのは、知識社会化・リベラル化・グローバル化であり、ポイ捨てされる新下流階級の特徴はその反動とも思える反知性主義・保守化・排外主義です。

でもなぜか、アメリカでは、ボボスとかサイバーリバタニアンと称される最上流の層と、プアホワイト、ホワイトトラッシュと侮蔑される最下流の層が、トランプ大統領を支持しているという不思議な現象が起こっています。分断されている筈の層が同じ思想に落ち着くという奇妙な現象ですが、著者はこの理由を簡潔に説明してくれています。

知的好奇心がそそられる一方で、自分の立場に置き換えて読みました。この本はお奨めです。

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