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私の好きだった曲①:『ラジオ・スターの悲劇』

このたび、私が以前に好きだった曲の思い出を綴るシリーズを立ち上げることにしました。記念すべき第一回は、バグルス(The Buggles)の『ラジオ・スターの悲劇 Video Killed the Radio Star』(1979)です。

何年経っても思い出される名曲

この曲は、バグルスの1979年発売のデビュー曲で、1979年10月に全英チャートNo.1を記録しています。1981年8月1日に開局したMTVの記念すべき一曲目のミュージック・ビデオとしてオンエアされたことでも有名な一曲です。音楽をビデオと共に楽しむ時代の到来を宣言する同局のPRにもぴったりな楽曲でした。

バグルスは、後に音楽プロデューサーとして大成功を収める鬼才トレバー・ホーン(B, Trevor Horn, 1949/7/15- )、エイジア(Asia)やイエス(Yes)での活動で知られるジェフ・ダウンズ(Key, Geoff Downes, 1952/8/25-)、ブルース・ウーリィ(G, Bruce Woolley 1953/11/11-)の三人によって、1977年にイギリスのロンドンで結成されています。

バグルス名義で二枚のアルバム『ラジオ・スターの悲劇 The Age of Plastic』(1980)『モダンレコーディングの冒険 Adventures in Modern Recording』(1981)を残していますが、一般的にはこの曲のイメージが強烈過ぎるせいか、他の楽曲はあまり知られていません。

テレビの出現により仕事を奪われてしまったスターが、ラジオ全盛時代を賛美する歌詞は今聴くと切ないものがあります。複雑なコード進行と大胆なシンセサイザーの多用、女性コーラスは斬新で、ホーンの類稀な才能を感じさせる一曲です。後に多くのアーティストによってもカバーされています。

聴き流しても、聴き込んでもOK

私のこの曲との初対面はMTVです。出会ってから30年以上になりますが、今も冒頭のシンセサイザーを聴くと新鮮で、気分が高揚します。

洋楽を聴き始めた14歳の私は、アメリカの一部のバンドの押し出す、マッチョな感じ、脳天気なレッツ・パーティ感、そこはかと臭うビジネス感、が、ちょっと肌に合わないかも…… と思っていました。インテリっぽく社会を斜めに見て、屈折感や退廃的な雰囲気を漂わせるイギリスのバンドの楽曲の方が格好いい!という印象を抱いていました。この曲は、そんな私の嗜好に見事に刺さった一曲です。

当時は意味がよくわからなくて聞き流していた歌詞にも、年齢を重ねた今なら味わい深く感じて聴き込むことができます。『ラジオ・スターの悲劇』という邦題も見事にフィットしています。

They took the credit for your second symphony.
Re-written by machine, a new technology.
And now I understand the problems you can see.
I met your children,
What did you tell them
---------
In my mind and in my car
We can't rewind, we've gone too far

今また歴史が繰り返そうとしている

私と同じように、テレビを観て育ち、MTV全盛時代に映像と共に音楽を聴いて楽しんでいた世代の人の中には、好きな楽曲をDLして聴くのが主流の今の音楽シーンには、違和感を感じる人もいるのではないかと思います。

この曲の生い立ちをWikipediaで確認して出会った解説を引用します。

グループメンバーのトレヴァー・ホーンはJ・G・バラードの短編「音響清掃」に影響を受けた曲だと語る。この短編は、世界中の音楽を吸い取る音響清掃人が、下水道でオペラ歌手と出会う話である。彼は「時代は過ぎようとしている」とも感じた。このように曲の主題はノスタルジーであり、曲の雰囲気にも反映されている。歌詞では1960年代の技術革新、過去を忘れたくないという願望と、現代の子供達に過去の良さがわからないことへの落胆に触れる。1950年代、そして1960年代初めにはラジオは貴重なメディアであり、そこから「スター」が生み出されていた。

Wikipediaより引用

”YouTube Has Killed the TV Star”は、どんなに時代感覚に鈍い層でも、今では認めざるを得ない現実でしょう。1980-90年代は、テレビが娯楽の王様に君臨し、そこから「スター」が続々と生み出されていた時代です。

しかし2010年代になってからは、お金がテレビ業界からインターネットメディアへと分散されています。今、時代の流れに敏感な人で、情報収集をしたり、トレンドを把握したりすり軸を、テレビに置いている人は少なくなってきていると思います。

テレビで流されている情報の正体が、忖度され、人工加工された二番煎じの古臭いものであることに我慢できなくなっています。もっとリアルで、踏み込んだものを見せてくれる代替メディアの存在を知っているからです。

とはいえ、今後テレビが完全になくなることはないでしょう。既に十分な実績を積み上げたトップクラスのTVスターは、これからもしばらくはテレビにポジションを確保続けられるでしょう。伝統芸能、過去の遺産の貯蔵庫、タイムマシーンとして、テレビの価値と役割は残り続けるでしょう。

しかしながら、時代感覚が鋭敏な優れた人は、面白い場所を求めて絶えず動き続けるので、テレビが時代の最先端を捕らえる役割は担えないし、マス人気の獲得も難しくなっていくことでしょう。

間を繋ぐものが果たすべき役割

タレントをマネジメントする大手芸能事務所にとって、我が世の春を謳歌したビジネスモデルの斜陽が顕著になってきたのはごく最近のことです。数十年前の『商社不要論』と、構造的には同じでしょう。仲介手数料を「中抜き」するビジネスモデルが台頭してくるのは、飽くなき効率が追求される資本主義社会の宿命です。

総合商社という業態は、ビジネスモデルをフロー(手数料)からストック(投資家)へと軸足を変え、今も生き長らえています。特定の機能をブラッシュアップして強化した結果、フローの分野でも力を得て、存在感を維持している専門商社だってあります。

次々に露わになっていく芸能業界の古い体質にもメスが入るのは、そこに身を置く人々にとってもプラスかもしれません。風向きが変われば、しんがりを走る人が逆にトップに出るかもしれません。

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