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第34回出雲全日本大学選抜駅伝競走 観戦記

2022/10/10(月)に行われました大学駅伝の開幕戦、第34回出雲全日本大学選抜駅伝競走(6区間 45.1㎞)をレビューします。

毎年白熱している印象

2022‐2023年の大学駅伝シーズンがいよいよ開幕です。私の駅伝観戦歴は、40年を超え(42年目)ており、大学駅伝を熱心に研究し始めてからでも20年以上になりますが、毎年、この時期が来るとワクワクします。

今季は各校の実力伯仲で、大混戦が予想されています。特に開幕戦となるこの出雲のレースは、全六区間45.1㎞と距離が短く、どのチームが勝ってもおかしくありません。

優勝候補として注目されるのは、昨シーズンの出雲・全日本2位、箱根の優勝校で、選手層が飛び抜けて厚い青山学院大学と、今夏のオレゴン世界選手権10000m日本代表も経験した、大エース・田澤廉選手擁する駒澤大学です。駒澤大学には、昨年中長距離三種目の高校記録を塗り替えた超大物ルーキー、佐藤圭汰選手が加わり、強力な布陣です。さらには、3000m障害の世界的ランナーに成長した三浦龍司選手を核に、選手層が整ってきた順天堂大学、かつての名ランナー・藤原正和監督の地道な強化が実り、吉居兄弟を中心に名門復活の期待が高まる中央大学、ロードに強い選手が揃う國學院大学の前評判も高そうです。昨年、初出場初優勝の快挙に沸いた東京国際大学は、超大砲のイェゴン・ヴィンセント選手の欠場が決まり、戦力低下は否めません。

近年の学生長距離ランナーの走力向上には目覚ましいものがあり、駅伝強豪校ならば、5000m13分30秒、10000m28分30秒を切る自己ベストタイムを持つ選手でもメンバー漏れしているのが現実です。

第1区(8.0㎞)出雲大社正面鳥居前 ~ 出雲市役所・JAしまね前

出雲大社前の出発地点を、20チームがスタートしていきます。

今年の箱根1区を区間新記録で制した中央大学の大エース、吉居大和選手が追い風と下り坂を利して飛び出し、最初の1㎞を2分37秒のハイペースで突っ走ります。唯一付いてきた第一工科大学のアニーダ・サレー選手を3㎞過ぎに振り払うと独走に入ります。このままどんどん差を拡げていくかと思われましたが、後続集団もそれ程は引き離されずに追走していきます。

残り1㎞を切ってからは、駒澤大学・花尾恭輔選手、青山学院大学・目片将大選手、順天堂大学・野村優作選手ら優勝を狙う有力校や、関東勢崩しを狙う関西学院大学の守屋和希選手が懸命に先頭を追走しますが、吉居選手は更にギアチェンジしてペースアップし、区間記録に後2秒と迫る好タイムで区間賞を獲得しました。中央大学にとっては、狙い通りの展開です。

2位の9秒差に駒澤大学、3位の13秒差に青山学院大学と有力校が上位を占め、大健闘の関西学院大学が4位、2区に三浦選手を置く順天堂大学は19秒差の5位につけ、以下法政大学、國學院大學、東京国際大学と30秒差以内で中継しています。

区間賞 23’32” 吉居大和(中央大学)

第2区(5.8㎞)出雲市役所・JAしまね前 ~ 斐川直江

最短区間ですが、順位変動の目まぐるしい重要区間です。先頭の中央大学は、エース格の千守倫央選手を起用。対する駒澤大学のスーパールーキー、佐藤圭汰選手はぐんぐん追い上げ、1㎞で首位交代すると大きなストライドで前に進みます。後方からは、注目の順天堂大学・三浦龍司選手が、関西学院大学、青山学院大学を抜いて、ぐいぐいと上がってきますが、佐藤選手はその上をいく快走を披露し、従来の区間記録を20秒も更新する15分27秒の区間賞獲得で、鮮烈な大学駅伝デビューとなりました。

2位は中央大学・千守選手が区間3位(区間新)の好走で死守。順天堂大学・三浦選手は14秒差の3位で中継。洛南高校の後輩・佐藤選手に4秒及ばず、区間2位(区間新)に終わりました。青山学院大学・横田俊吾選手は、区間4位(区間新)で粘り、19秒差の4位をキープしました。5位には、山本歩夢選手の区間6位(区間新)の走りで、國學院大學が上がり、関西学院大学は依然6位と健闘。1区で10位と出遅れたものの、3区に大砲、フィリップ・ムルワ選手を持つ創価大学は、2区の葛西潤選手の区間5位(区間新)の力走で先頭から55秒差の7位まで順位を戻してきました。

強い追い風にも恵まれ、6人が従来の区間記録を更新しました。

区間賞 15’27”=区間新 佐藤圭汰(駒澤大学)

第3区(8.5㎞)斐川直江 ~平田中ノ島


前半の勝負所、エース区間です。5秒差の首位でタスキを受けた、駒澤大学の大エース、田澤廉選手に対し、2位の中央大学・中野翔太選手も前半はほぼ互角に渡り合います。本調子ではなかったとも言われる田澤選手ですが、それでも中盤から徐々に後続を引き離し、区間記録に4秒と迫る区間2位で走破しました。20秒差の2位には、青山学院大学のエース、近藤幸太郎選手が田澤選手と1秒差の区間3位の走りで進出してきました。3位は中央大学、4位は順天堂大学(伊豫田達弥選手)です。

後方では昨年区間賞を獲得した創価大学のフィリップ・ムルワ選手が今年も快走を見せ、区間新記録の走りで二人を抜き29秒差をつけ、5位に進出してきました。抜かれた國學院大學の新エース・平林清澄選手も6位に粘りました。6位まで先頭との差、1分以内の混戦です。昨年、この区間で鮮烈なイメージを残した、東京国際大学の丹所健選手、5区で区間賞を獲得して鮮烈な大学駅伝デビューを飾った東洋大学の石田洸介選手は、それぞれ区間5位(9→8)、区間9位(10→10)という結果となりました。

区間賞 23’36”=区間新 フィリップ・ムルワ(創価大学)

第4区(6.2㎞)平田中ノ島 ~鳶巣コミュニティセンター前


首位を走る駒澤大学は、ここまで理想通りの展開。レース経験豊富な実力者の四年生、山野力選手が、強い向かい風の中、力強い走りで後続との差を広げていきます。5区中継では、区間賞を獲得して6位から2位へと上がってきた國學院大學の主将・中西大翔選手との差を、33秒まで積み増しました。大学駅伝三冠を狙う青山学院大学は、追撃が期待された三年生の志貴勇斗選手が区間6位とやや奮わず、中央大学・阿部陽樹選手にも抜かれ、56秒差の4位へと順位を下げました。

5位は順天堂大学、6位には法政大学が上がってきました。

区間賞 17’50” 中西大翔(國學院大學)

第5区(6.4㎞)鳶巣コミュニティセンター前~島根ワイナリー前

勝負は後半区間です。首位を走る駒澤大学・安原太陽選手は、強い向かい風の中、アップダウンのあるこの区間で、区間賞を獲得する走りを披露。2位に上がった中央大学・溜池一太選手との差を44秒差まで拡げる殊勲の走りでした。3位には1秒差で、國學院大學・藤本竜選手が続きます。青山学院大学は三大駅伝初登場の二年生、田中悠登選手が区間6位の走りで、4位を守ったものの、駒澤大学との差は1分22秒まで広がりました。

5位には、法政大学が小泉樹選手の区間3位の力走で進出。6位は、主将の西澤侑真選手が走った順天堂大学が続きます。駒澤大学には、青山学院大学が2018年に作った大会記録更新の可能性が出てきました。

区間賞 19’04” 安原太陽(駒澤大学)

第6区(10.2㎞)島根ワイナリー前~出雲ドーム前


駒澤大学がアンカーに起用したのは、10000m27分台のベスト記録を持つ学生長距離界のトップランナーながら、長く故障で戦列を離れていた、鈴木芽吹選手です。大量リードに守られた鈴木選手は自信に満ち溢れた走りで、後続を寄せ付けず、出雲ドーム前のゴールを駆け抜けました。記録は2時間8分32秒の大会新記録。怪我からの復帰レースとなった鈴木選手は、昨年のイェゴン・ヴィンセント選手(東京国際大学)と同タイムという好記録で区間賞も獲得しました。

2位争いは、ロードに強い國學院大學・伊地知賢造選手が、中央大学期待のルーキー、吉居駿恭選手を逆転し、2位を確保しました。3位に入った中央大学は前評判通りの実力を発揮しました。王者・青山学院大学は4位。今年の箱根駅伝9区で区間新をマークした中村唯翔選手が追走したものの、5区までに開いた差が大きく、挽回はできませんでした。5位には、箱根の山登りを得意とする順天堂大学の四釜峻佑選手が、猛烈に追い上げた創価大学・嶋津雄大選手を振り切り、滑り込みました。今年も上位は関東勢が独占しましたが、関西学院大学が10位に入り、1区から出遅れて見せ場の作れなかった帝京大学を、1つ順位で上回りました。

区間賞 29分21秒 鈴木芽吹(駒澤大学)

最終結果

優勝 駒澤大学     2時間8分32秒=大会新
2位 國學院大學   2時間9分24秒
3位 中央大学       2時間9分48秒
4位 青山学院大学  2時間10分18秒
5位 順天堂大学   2時間10分50秒
6位 創価大学       2時間10分52秒

勝手に総評

1区を好位置で滑り出し、2区のスーパールーキー、3区の大エースで良い流れを作った駒澤大学は、会心のレースだったでしょう。後半の5区、6区に連続区間賞で後続を突き放し、大会新記録のおまけまで付きました。6区間中、区間賞が3つ、区間2位が3つの完璧なレースで、他校を圧倒しました。

駒澤大学にとっては鬼門の出雲を制したことで、三冠獲得への道が開かれました。昨年も優勝している相性の良い11月の全日本には、俄然有利な状況で臨めそうです。他校からは、駒澤大学の大学駅伝三冠阻止に向けた包囲網が敷かれることでしょう。

2位の國學院大學、3位の中央大学は、ともに力量十分で、前評判も高かったので、納得の順位ではないかと思います。強いと言われていた主力選手が実力を発揮しました。区間数が増える全日本、箱根に向けて、繋ぎ区間要員の選手の強化を進めることでしょう。

シーズン開幕前から、戦力充実が囁かれ、圧倒的強さを発揮して三冠を達成するのではないかとも言われていた青山学院大学にとっては、不本意な4位でしょう。1区を13秒差の3位と好位置で滑り出し、3区でエースが2位に押し上げるまではいい流れだったものの、4区、5区がのびず、ずるずるといってしまった格好です。先手を取って先頭を走ると強いものの、リードを奪われて追う展開になった時のレース運びに課題を残しました。

優勝を狙っていた順天堂大学、復活を期した東洋大学も不本意な結果かもしれません。一方で、創価大学、法政大学、東京国際大学は、順当な結果ではないかと思います。

今年の駅伝も、一つのミスも許されないハイレベルな争いが続きそうです。区間数が増え、区間距離も延びる全日本、箱根では、今回出場を回避した有力選手達や不出場だった伝統校や常連校の動向も気になるところです。

おまけ

駅伝観戦歴40年を超えるベテランの私は、時々、中長距離、マラソン、駅伝の観戦記を書いています。過去分などは、以下のマガジンからどうぞ。


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