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2021箱根駅伝(往路)観戦記

駅伝観戦三昧の二日目は第97回東京箱根間往復大学駅伝競走(往路)です。今年のレースも数々のドラマが繰り広げられました。

第1区 21.3㎞ 大手町〜鶴見

戦前の下馬評では、青学・東海・駒澤が三強を軸に群雄割拠、各チームの実力伯仲で混戦が予想されていました。各校とも1区での出遅れは致命傷と考え、実力者を配してきました。

レースは牽制による超スローペースで始まりました。二年連続の一区起用となった青山学院大学・吉田選手、東海大学主将・塩澤選手、前回区間2位の國學院大学・藤木選手、早稲田大学・井川選手ら今年度の学生長距離界の顔たちを中心に大集団で進んでいきます。

勝負所の六郷橋の上りで、東洋大学・児玉選手が押し出される形で先頭に出ますが、有力選手は冷静に対処。駒澤大学期待のルーキー、白鳥選手がずるずる後方に下がりはじめます。橋の真ん中あたりで軽快な走りの法政大学・鎌田選手がペースを上げて前に出ると、区間賞候補の藤木選手、前半健闘の日本体育大学・藤本選手の脚足が鈍ります。

鎌田選手に塩澤選手が反応して並びかけると、そのまま二人でペースを上げて後続を離しにかかります。残り1㎞から塩澤選手が仕掛けるものの、余裕を残していた鎌田選手が二段スパートで引き離し、区間賞を獲得しました。法政大学の一区区間賞は、第76回大会(2000年)の徳本選手以来です。

2位には5秒差で東海大学、15秒差の3位には創価大学・福田選手、吞村選手が好走の神奈川大学が4位。5位は早稲田大学、6位は青山学院大学。注目のスーパールーキー、順天堂大学・三浦選手は見せ場を作れず11位。強力なスーパーランナーを二区に置く東京国際大学、駒澤大学は、それぞれ45秒差の14位、47秒差の15位からのスタートです。最終の山梨学院大学まで2分4秒差の僅差での中継となりました。

区間賞 1時間3分00秒 鎌田航生(法政大学)

第2区 23.0㎞ 鶴見〜戸塚

首位を走る法政大学・河田選手を、東海大学のエース、名取選手が5㎞手前で逆転。後続は10000m27分台ランナーの創価大学・ムルワ選手、日本体育大学・池田選手、早稲田大学・太田選手らの集団で進んでいきます。

昨年三区で驚異的な区間記録を樹立した東京国際大学のヴィンセント選手がスタートから桁違いのスピードで前を追いきます。ヴィンセント選手から2秒遅れでスタートした注目の駒澤大学・田澤選手はこのペースに追随せず、前半は慎重な走りです。ヴィンセント選手は、横浜駅手前で2位集団に追い付くとあっさり抜き去って先行していきます。ムルワ選手だけが追走しますが、他の選手は集団で自重。

ヴィンセント選手は、10㎞を27分台のハイペースで通過し、難所の権太坂の上りに入る手前で首位の名取選手も捕らえて首位へ。粘るムルワ選手も振りほどいて区間新ペースで驀進していきます。池田選手が好調で、集団を抜け出して名取選手に追い付き、二人で競り合いながら、2位走行のムルワ選手を追撃していきます。

後半ひとり旅のヴィンセント選手は、戸塚中継所手前の急坂には苦しんだものの、昨年相澤選手がマークしたタイムを8秒更新する区間新記録を樹立しました。2位創価大学に59秒差、区間2位の国士館大学・ヴィンセント選手に1分20秒の大差をつける破格の強さを見せつけました。

3位は東海大学、4位は日本体育大学、5位にはルーキーの松山選手が区間4位と快走した東洋大学と続きました。爆走が期待された田澤選手は、7人抜きでチームを8位まで押し上げたものの、首位との差は1分24秒差へと開き、自身も1時間7分27秒の区間7位と不本意な結果に終わりました。優勝を狙う駒澤大学・大八木監督としても物足りない結果でしょう。

エース二枚をつぎ込んだ東海大学は強力な留学生を持つ二校には先行を許したもののここまでは順調な滑り出し。青山学院大学は、次代のエースと期待する中村選手が区間14位で13位へ後退し、連覇に向けて不安な序盤です。

区間賞 1時間5分49秒=区間新 Y.ヴィンセント(東京国際大学)

第3区 21.4㎞ 戸塚〜平塚

トップを走る東京国際大学・内田選手を、スーパールーキーの呼び声高い東海大学・石原選手が前半から猛追していきます。湘南海岸沿いの国道134号線に出る手前で、1分1秒あった差を逆転して首位を奪取。以降もダイナミックな走りで差を広げ、四区へ中継。区間賞も獲得し、上々の箱根デビュー戦となりました。

2位で襷を受けた創価大学・葛西選手は後半粘って追い上げ、34秒差の2位を死守。区間3位と責任を果たしました。駒澤大学のエース格、四年生の小林選手が額面通りの実力を発揮し、8位から一時は2位まで進出する区間2位の走りで、首位と56秒差の3位まで挽回してきました。

4位は東京国際大学が粘り、5位には東洋大学。6位には三年連続この区間を走る遠藤選手の8人抜きの快走(区間4位)で帝京大学が浮上。10000m27分台のベストタイムを持つ早稲田大学・中谷選手は、2人を抜いてチームを8位へと押し上げたものの、区間6位の結果は不本意でしょう。

青山学院大学は湯原選手が区間14位の走りに終わり、チーム順位は11位。トラックの持ちタイムが速く、優勝候補の一角に挙げられた明治大学も一区からの出遅れが響き、17位と下位に低迷しています。期待のスーパールーキー、中央大学・吉居選手が当日変更で登場しましたが、区間15位と実力を発揮できず、ほろ苦い箱根デビューとなりました。

区間賞 1時間2分5秒 石原翔太郎(東海大学)

第4区 20.9㎞ 平塚〜小田原

レースプラン通り首位に踊り出た東海大学のルーキー、佐伯選手を、昨年十区区間新、チーム初のシード権獲得に貢献した創価大学の嶋津選手が軽快なピッチで追い上げていきます。序盤で佐伯選手に追い付くとあっさり逆転し、距離を踏むごとに引き離していきます。区間賞こそ山梨学院大学のオニエゴ選手に譲ったものの、2位に上がった駒澤大学・酒井選手に1分42秒差をつける殊勲の走りでした。

3位には、鈴木選手の力走で早稲田大学が進出。4位は東京国際大学が粘り、5位には東洋大学、佐伯選手がブレーキ(区間19位)となった東海大学は6位まで転落しました。7位順天堂大学、8位帝京大学、9位神奈川大学。

青山学院大学はスーパールーキー、佐藤選手が区間4位。チーム順位は10位に押し上げたものの、首位と3分41秒差まで広がり、二連覇へ危険信号が灯り始めました。前回3位の國學院大学は12位、明治大学も14位となかなか上位へ浮上できません。向かい風が強く、記録は昨年より低調です。

区間賞 1時間2分15秒 オニエゴ(山梨学院大学)

第5区 20.8㎞ 小田原〜芦ノ湖

首位に立った創価大学・三上選手は、箱根初出場ながら山上りの適性ありと各校から警戒される存在。俄然創価大学初優勝の期待が高まります。区間記録保持者の宮下選手が走る東洋大学、三度目の山上りとなる東海大学・西田選手、青山学院大学・竹石選手ら五区経験者の走りも注目でした。

5位で襷を受けた宮下選手は早々に先行する2校をかわし、箱根山中で2位の駒澤大学のルーキー、鈴木選手にも追い付き、並んで追い上げていきます。西田選手は、今一つ走りに勢いがなく、距離を追うごとに先頭との差が開いていきます。一年間このレースにかけてきた竹石選手も、前半からペースが上がらず、足に痙攣を起こし、ブレーキの走りとなってしまいました。

先頭の三上選手は、上りでは後続に詰め寄られながらも淡々とこなし、下りに入ると切り替えて、逆に後続を引き離す冷静な走り。創価大学史上初の往路優勝テープを切りました。

2位には宮下選手の力走で東洋大学が食い込んだものの、首位とは2分14秒差に広がりました。3位の駒澤大学は、鈴木選手が後半粘り首位と2分21秒差、2位とは7秒差にとどめ、復路での逆転優勝に望みを繋ぎました。

毎年山が鬼門になっていた帝京大学が、細谷選手の区間賞を獲得する活躍で4位へ浮上。往路優勝を狙った東海大学は、5位でした。6位の東京国際大学、7位の順天堂大学、8位の神奈川大学は上々の結果。前半でエースの誤算が続いた國學院大學が殿地選手の踏ん張りで9位に入り、粘り強く走った拓殖大学が10位です。

優勝候補に挙げられていた青山学院大学と明治大学は、二桁順位に沈む区間が相次ぎ、まさかの12位と14位に終わりました。復路は熾烈なシード権争いに巻き込まれることになりそうです。

区間賞 1時間11分52秒  細谷翔馬(帝京大学)

往路成績

① 創価大学 5時間28分08秒
② 東洋大学 5時間30分22秒
③ 駒澤大学 5時間30分29秒
④ 帝京大学 5時間30分39秒
⑤ 東海大学 5時間31分35秒

勝手に寸評

往路優勝の創価大学はダークホースと目されていましたが、会心のレースでしょう。一区3位と好位置で滑り出し、二区、三区と競り合いの中でも良い流れを維持し、四区の嶋津選手の勝利を呼び込む力強い走りに繋げました。区間賞ゼロながら、全員が区間6位以内(3位-6位-3位-2位-2位)でまとめるミスのない駅伝で勝ち取った堂々たる結果です。就任2年目の榎木監督は、前任の瀬上総監督の築いたチームの土台を活かし、学生トップランナーとあたっても怯まずに互角に戦える戦力を整えてきました。

一区前半が超スローペースで進んだこと、向かい風の強いコンディションだったことから、新記録ラッシュが相次いだ前回から区間タイムは後退することになりました。そんな中、二区で区間記録を更新した東京国際大学・ヴィンセント選手の走りは圧巻で、”桁違い”という印象です。

出場各校の戦力が拮抗し、一つのミスも許されない群雄割拠駅伝になってきています。優勝候補に挙げられたチームは、幾つかの区間に誤算があり、ノーミスで走った創価大学の後塵を拝すことになりました。ミスを挽回するのは至難の業であり、駅伝の難しさを痛感するレースでした。

12月4日の日本選手権で好記録を出し、学生トップレベルの走力を持つ下馬評の高かった選手たちが不振だったように思います。10000m 27分台、ハーフ 1時間1分台の記録を持つ選手でも、コンディションとレースの流れが整わない状態で出走すれば、区間中~下位に沈むことが浮き彫りになりました。やはり箱根は、箱根に絞って本気で勝つ準備をしないと勝てない大会だと思います。明日の復路も楽しみです。

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私は、駅伝観戦歴40年目を迎える経験を活かし、中長距離、マラソン、駅伝に関する観戦記や備忘録のnoteを書いております。

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