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『絶望から出発しよう』を読む

本日は、宮台真司『絶望から出発しよう』(ウェイツ 2003)の読書感想文です。


偶然…

社会学者で、東京都立大学教授の宮台真司(1959/3/3-)氏は、アカデミズムの範疇には収まりきらない活躍をされており、当代屈指の論客でもあります。

本書は、この日曜日に購入し、本日読了したばかりです。内容の記憶がまだ鮮明なうちに読書ノートを残しておこうと決めて、パソコンに向かったところで、宮台氏が本日夕刻に八王子市の東京都立大学キャンパス内で男に刃物で切りつけられて負傷した、というニュース速報に出くわしました。命に別状はない、ということで安堵しましたが、もしものことがあれば、日本にとって大変な損失になるところでした。

基本的に理解するのが難しい

本書は2003年に発行されたものなので、現在の宮台氏の立ち位置である「条件付きの加速主義支持者」という記述はないものの、随所に宮台思想が展開されています。宮台氏は、東京大学在学中に、極右の小室直樹氏、極左(宮台氏の解説ではアジア主義者)の廣松渉氏に師事したことが知られています。テレクラを巡るフィールドワークも有名です。守備範囲の広さ、見識の奥深さ、人生経験の豊富さは、専門分野の研究に特化した学者では追随できないレベルにあると思います。

宮台氏の語る内容は、概して難解なものが多く(御本人はかなりやさしく語るように努力していることが伺えるものの)、深く理解するためには、受け取る側に幅広い素養と知識と忍耐力が要求されると思っています。インタビュー形式で書かれている本書でも、随所に「わかりやすく言えば」「噛み砕いて言うと」といった言い換えが行われていますが、私の知識や読解力では、それですらもよく理解できない部分があることを認めます。

章別に読んでも支障なし

本書は、①「まったり革命」のその後、②市民エリートを育てよう、③アジア主義の顛末に学ぶ、④絶望の深さを知れ の四章構成になっています。それぞれの章を別個に読んでいっても意味があります。(①~④は私が独自に付記)

2000年代初頭の社会情勢(その時代の空気)がよくわかる論述ですが、20年後の現在にも通用する課題に対処するヒントや、日本社会の特性を洞察する糸口を与えてくれます。さらに魅力だと感じるのは、宮台氏が主張したい内容以外の部分で披露される視点の豊かさです。

マルクス主義でもなんでも同じことで、思想が真理を内在していたから実践に成功したという発想は、基本的に逆立ちです。たまたま実践に成功した者たちが、それに基づいていたと自己申告する思想が、後代に残るというだけの話です。
(中略)
思想は、思想家本人が制御できないような実践に開かれていて、それを含めて思想の意味だからです。

P141

入れ替え不可能な存在であることを望む人間の入れ替え可能性

P148

僕たちは、近代を徹底する以外にー近代に内在することを通じて近代が生み出し続ける問題に永続的に対処し続ける以外にー道は一切ありません。

P167

ただ、タイトルにもなっている「絶望から出発しよう」という提案に対しては、丁寧な記述にも関わらず、私は素直に腹落ちしていません。私が、徹底的な絶望の遥か手前の、ヌルい絶望で納得している証左かもしれません。

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