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『理解してもらい、承知してもらう』仕事

本日のnoteタイトルは、私の会社員時代の仕事の思い出です。

「理解はするけど、承知はできない」

「理解はするけど、承知はできない」は、私が営業の仕事をしていた頃、販売商品の条件交渉をする際に、取引先企業の購買担当者からよく言われたことばです。

私が担当していたのは、取引先が自社製品を作る為に必要となる素材製品です。取引先からすると、私が扱っていた商品は「買っても買わなくてもいいもの(嗜好品)」ではなく、「間違いなく買わなければならない(必需品)」ものです。「どこから、どういう条件で支障なく安定的に仕入れるか」が購買担当者の関心事であり使命なのです。

交渉では、価格を値上げする、納期を遅らせる、過剰な品質改善要求を収める、といった取引先にとって不都合な内容を通さねばならないことが殆どでした。「理解はするけど、承知はできない」局面を打開するのが私の大事な仕事だった訳です。

「理解してもらう」のが大前提

私は営業という社外とのインターフェース的な仕事に通算で20年以上従事したものの、「お願いします。是非買って下さい」と取引先を行脚した経験よりも、「今は供給余力がないのでごめんなさい。他所から買って下さい」と取引先や潜在顧客に断った経験の方が遥かに多いという変なキャリアです。

営業という仕事から一般的にイメージされるような、街を歩いて飛び込み営業をしたり、新規顧客獲得の為に電話をかけまくったり、会社から販売ノルマを課せられたり、という経験がありません。ビジネスで一番難しいとされる集客の仕事で苦労した経験がありません。培ったのは、取引先との信頼関係を構築したり、条件交渉したりする技術です。

担当する取引先に対して、会社代表として私から提示する条件は、上述の通り取引先にとって不都合なものが多いので、まずはそのお願いをする背景や理由を丁寧に説明することが大前提と考えていました。

会社的には、相手が理解しようがしまいが、目的さえ達成できればそれでいい、という側面があります。「理解はしてもらったが、承知はしてもらえなかった」では結果を出したことになりません。社内には程度の差はあれ、目的達成が全てと考える人もいたし、取引先に理解してもらうプロセスをすっ飛ばして、通告即実行というような強引な手法もあるにはありました。

ただ長い目で見れば、そのような高圧的なビジネスのやり方は相手に禍根が残り、業界内での悪評にも繋がります。相手に丁寧に情報を提供し、事情を理解してもらうプロセスを飛ばしては駄目だと考えていました。

「承知してもらう」ために

条件交渉をまとめる上で、一番理想的でかつ効率的なのは、私に絶大な信用と信頼があり、内容説明をして即OKしてもらうことです。一発で仕留められるように説明内容や方法を仕上げる努力はもちろん大切でした。

ただ、大抵はそういうことにはなりません。こちらの要求する内容が相手のビジネスに甚大な影響を及ぼすものであればあるほど、承知してもらうことは難しくなります。相手の事情を知り、相手の人となり(社内風土)を研究し、相手の理解度と自分達への信頼度をはかりながら、柔軟に戦術を変えて行く必要があります。

私が交渉の初期段階で相手と共有することを意識していたのは、交渉を妥結させる時期です。無期限に交渉できる訳ではないので、いつ合意するかのデッドラインを設けることは、スケジュール感とゴールを意識させる意味で極めて重要です。販売条件を改定すれば、お互いに条件変更に伴う事務作業が発生します。双方の仕事を効率的に処理する社内体制を事前に整えておく意味でもタイムラインを設計しておくのは大切です。合意している時間軸の中で、合意形成に向けた色んな手を繰り出していく訳です。

相手にもよりますが、交渉の初期段階で安易に使わない方がいいのは、正論を振りかざすことと感情に訴えることです。落とし所なき交渉はあり得ません。相手側の決定権者を困惑させたり、感情的な重荷を背負わせるやり口は嫌われます。持ちつ持たれつ、論理的、協力的に進める必要があります。

代替案や条件を受け入れてもらいやすくする為の見返り設計も重要でした。相手を圧倒して圧勝するのは愚策です。相手には、相手自身のメリットが5以上になっているように見せる工夫が必要です。

取引先とは長い付き合いになるので、時間差作戦も有効です。「今回は妥協するので、次回はよろしく」という手です。単発の勝った負けたで一喜一憂するのではなく、ビジネスを長期スパンで考える癖は大切です。

こうしてみると、「理解して、承知してもらう」のは、営業の仕事のみならず、あらゆる業種・職種で必要なスキルだなあとわかります。

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