見出し画像

『ノマドランド』を観る

本日も映画の鑑賞文です。2021年の米アカデミー賞の最優秀賞3部門(作品賞、監督賞、主演女優賞)を受賞した『ノマドランド Nomadland』です。

『ノマドランド』について

昨日(2021/5/7)朝一番の上演回を妻と観て来ました。映画館の予告編で目にした時から観たいと思っていました。米アカデミー賞をはじめ、ベネチア国際映画祭・金獅子賞やトロント国際映画賞・観客賞、米国各地の映画賞を受賞しており、本年公開映画の最高傑作に上げられています。

原作は、ジェシカ・ブルーダーのノンフィクション『ノマド:漂流する高齢労働者たち』(2017)で、監督・脚本を1982年中国生まれのクロエ・ジャオ(Chloé Zhao 1982/3/31- )が手掛けています。

主人公のファーンを演じたフランシス・マクドーマンド(Frances Louise McDormand 1957/6/23- )は、もともと演技力に定評のある女優さんでしたが、本作での熱演には「自身のキャリアで最高の演技」と高い賞賛が集まり、アカデミー主演女優賞を獲得しています。

画像1

あらすじ(ネタバレなし)

物語は、ネバダ州・エンパイアの町からはじまります。町の基幹産業であった US Gypsumの石膏工場が閉鎖され、死別した夫と長年住んでいた家を喪ったファーンは、キャンピングカーに荷物を積み込んで全米各地を車で移動するノマド(遊牧民)生活を選択します。

ファーンは、しっかりと孤独と現実を噛み締めながら日々を送っています。人生観の異なる姉、「車上生活者の相互扶助の集まり」を主催するボブ・ウエルズ、息子夫婦との同居を選びノマド生活にピリオドを打つデイブ、ノマド生活の知恵と人生観を教わるスワンキー、キャンプ施設で一緒に仕事をするリンダ・メイなど、それぞれ個性的で素敵な人物が登場します。

社交性もあり、労働意欲もあるファーン

ファーンは、キャンピングカー(ヴァンガード=先駆者という名前を付けている)を運転して訪れる先々で、季節労働や短期の仕事に従事して稼ぎながら、生活していきます。職場は、アマゾンの配送工場員、キャンプ場の管理員、ダイナーの店員、じゃがいも加工場などです。彼女は、職業斡旋所のような所で、「仕事をしていたいの、人の役に立ちたいの」と言い切ります。退嬰的な価値観に染まった人ではありません。

ファーンは社交性もあり、出会った人々から好かれています。交流を深めた人々との間で交わされる会話がとても素敵です。車上生活をする人々は、「さようなら」とは言わず、「いずれまた ~See you down on the road.」と言い合って、去っていきます。

ファーンが象徴するもの

ファーン(Fern)とは、植物のシダ(羊歯)を意味することばです。シダ植物は、熱帯雨林などに生息する葉っぱ状の植物で、種子ではなく胞子で仲間を増やしていくので、花を咲かすことはありません。ただ、ヨーロッパには、夏至の夜の一瞬だけ花を咲かせる、という言い伝えがあり、ここから「魅惑」「夢」という花言葉があります。

シダ植物は、何億年前の古代から地球上に存在し、姿を変えずに生き続けています。観葉植物としても、食べられる山菜としても重宝されてきました。この特徴から「誠実」という花言葉もあるようです。

華麗な花を咲かせることはないものの、社会に忠実に貢献し、有用な役割を果たしてきたものの象徴として、太古から脈々と受け継がれてきた存在として、主人公に「ファーン」という名前を付したのではないかと想像しています。

私見:日本ではこういう形で映画化できるだろうか?

以前、車上生活をする人たちを扱ったドキュメンタリー番組を、テレビで観たことがあります。孤独・貧困・健康不安などネガティブ感が満載で、この映画から受けた爽やかな印象とは好対照の、どんよりと陰鬱な気持ちになりました。

いつの時代でも、社会のメインストリームから零れ落ちてしまう人達が出ることは避けられません。私も、その他大勢の社会の歯車の役割をこなし続けることを自分から降りて、荒野に降り立って歩きはじめた一人です。

私には、ノマド生活はできないと思うし、やろうとも思っていません。でも彼らの生きる姿勢には大いに共感するし、同じような精神を持って生きたいという気持ちになりました。2021年一番のおススメ映画です!


この記事が参加している募集

#映画感想文

67,197件

サポートして頂けると大変励みになります。自分の綴る文章が少しでも読んでいただける方の日々の潤いになれば嬉しいです。