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『データで読み解く「生涯独身」社会』を読む

ラグビーワールドカップも開幕し、スポーツの秋、読書の秋、食欲の秋が本格化してきている三連休の真ん中です。本日の読書感想文は、最近話題になっている、天野馨南子『データで読み解く「生涯独身」社会』です。

はじめに(前書き)

本書のテーマは、「思い込みを統計データのリアルで確認していく」です。著者は、丹念にデータに当たりながら、50歳になっても一度も結婚歴がない独身男女が急増していることについて、世間に蔓延る「思い込みの壁」を覆していく力作となっています。

第一章 結婚願望がないのか、叶わないのか

未婚化対策は、超少子化社会対策として取り組まれている現状があります。本書でも、日本の活力を削ぎ続ける超少子化問題への処方箋として、未婚化問題を考えているフシがあります。実際、夫婦の持つ子供の数(完結出生児数)は1.8人程度である一方、2015年時点で、統計上は50歳時点で男性の4人に1人、女性の7人に1人が婚歴なしとされています。日本の出生率低下の大きな原因は、未婚者が増えたことにありそうです。

私の20代の頃も、何だかんだいっても結婚は重大事として強く意識されていたことは間違いなく、結婚適齢期と言われる20代後半くらいあたりから、結婚していない人間に対し、「あいつはウォント(won't しない)系だが、あいつはキャント(can't できない)系だ」と揶揄することも多々ありました。

著者は、日本の若い独身男女が、結婚に対して「いつかは文化」に染まり過ぎていて、絶好の出会いの場である学生時代に真剣にパートナー探しをしないまま先送りする傾向が強いことが、結婚のチャンスを逃す一因になっていると指摘します。

また、多くの会社が用意しているキャリアパスも、晩婚化の責任の一端を担っていると指摘します。大学卒で就職する若者の結婚適齢期は、丁度会社でキャリアを積み始めたばかりの頃にやってくるので、結婚よりも仕事を優先させられてしまう傾向にある、というわけです。これは納得感があります。

ちょっと驚いたのは、18-34歳の婚歴のない未婚者の内、交際相手のいない人の割合(非交際率)は、2015年で男子69.8%、女子59.1%に達しているということです。早々に結婚した人達が省かれているので、特定の彼氏/彼女を持たない比率がこんなに高いのは意外でした。逆に彼氏/彼女がいる層は、早々に結婚してしまうということなのでしょうか。

第二章 「結婚の壁」のリアル

この章では、

・長期不況で雇用が悪化したせいで、未婚化が進んでしまった。
・高学歴化した女性が男性を選り好みするようになり、結婚しにくくなった。
・バリバリ働く女性が増え、専業主婦が減ったことが少子化につながった。

といった、もっともらしく言われている説が、完全に誤解であることをデータより解説されています。
✔ 10代、20代の若い男女で、「いずれ結婚したい」と考えている比率は、昔からさほど変化していない。
✔ 女性に比べて男性の方が晩婚化に肯定的で、いずれ結婚できると安易に考えて先伸ばしする傾向がある。
✔ 親世代がそれを助長している。

30代前半で交際経験のない男性が結婚できる可能性は、確率的に大きく下がるというシビアな現実も指摘しています。福山雅治クラスのルックスも、お金も、社会的地位も兼ね備えたスーパーなおじさんでないと、若い女性と結婚出来る可能性は限りなく少ないようです。

第三章 親子同居という「甘い罠」

親との同居というコストパフォーマンスの極めて高い生き方を選択してしまった結果、婚歴なし中年の大量発生を助長するという話です。私は早く親元から独立したい派でしたが、親元に住んで羽振りよく暮らす生活の快適さは否定しません。

第四章 "毒親"が未婚化を加速させる

「子ども部屋おじさん」のような中年の未婚男性を産み出している理由として、親世代の責任や未婚化の容認、価値観の押し付けなどを指摘しています。個人的には、この章で展開されている主張は、全体的に荒っぽい気がしています。推論としては理解できるのですが、タイトルになっている「データのリアルで…」という観点からは、分析や解釈で筆者が到達したい結論へと無理矢理飛躍させている、という印象が残りました。

メインの議論ではありませんが、男性の平均寿命は81歳で、健康年齢の平均は72歳のようです。将来的に医学の進歩もあるので、この年齢は今後伸びるとは思いますが、私が72歳に人生のゴールを設定し、逆算して人生を愉しもうとしているのは理屈としては正しい、と少し鼻高々です。

終章 考えるべきは「親亡きあとの子の幸せ」

ここは微妙な話なので、コメントは控えます。


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