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青学の箱根王座奪還に思うこと-2020

ここ数日、今年の箱根駅伝で二年振り五回目の総合優勝を飾った青山学院大学駅伝チームがテレビ出演した際のビデオを観たり、各種報道されている関連記事などを読み漁って、青学の勝利の要因を研究しています。

選手の実績やポテンシャルでは、優勝候補筆頭の東海大学の方が上だったろうと思うし、東洋大学・相澤選手、駒澤大学・田澤選手、東京国際大学・伊藤、ヴィンセント選手といった学生長距離界のトップに匹敵するような大エースは青学にはいなかった、と思えるからです。(4区の吉田祐也選手の驚異的な走りは素晴らしかったですが……)

今回の青学勝利には、原晋監督の箱根で勝つ為のチーム作りと選手起用の妙が大きかったと思えるのです。


凡事徹底の泥臭いチームへと変貌した今年の青学

青山学院大学が箱根駅伝を初優勝したのは、2015年です。以降2018年までの箱根駅伝を四連覇し、「学生最強集団」とまで呼ばれる強豪にのし上がり、メディアからの注目度が最も高いチームになりました。

昨年度(2018-2019年シーズン)は、四年生に経験豊富な選手が揃い、箱根の前哨戦である出雲、全日本にも勝って、レース前から「箱根五連覇、三冠確実!」「絶対優位」と言われていました。

ところが箱根では序盤から流れが悪く、4区、5区が連続ブレーキを起こし、往路はまさかの6位に沈みました。復路では地力を示して2位まで盛り返したものの、東海大学に敗れました。

昨年の箱根駅伝、原監督はまさか負けるとは思っていなかったと思います。「絶対に勝てる」と思っていたレースを落としたことで、敗因を精緻に分析したのだと思います。

毎年改善され充実の一途を辿るトレーニングメソッド、
意識の高い選手ばかりが揃う厚い選手層、
積み重なってゆく赫々たる実績と経験とデータ、 
チームが強くなる為の良いサイクルは好循環し続けていました。

順調だという安心感から、意識が内向きとなり、「ライバルは関係ない、自分たちのレースさえすれば勝てる」という自信過剰が、チーム内に驕りと油断と緩みを生み、挑戦者の気持ちを薄れさせていた、という分析を行ったと推測します。

レース展開を読み、選手の適性を考慮した区間配置

今回は、選手の区間起用に原監督の卓越した読みが発揮されていました。前回の経験者4人(竹石選手は未出走)を、前回大会とは違う区間に起用しています。また、1年生の岸本選手を各校のエースが集まる難コースの2区に抜擢しました。想定されるレース展開と2区のコース特性、岸本選手の適性を考えての起用だったようです。

ライバルの東海大学と東洋大学は、選手たちの前回大会での実績と走力を考慮したオーソドックスな区間配置だったように思います。百戦錬磨の駒澤大学・大八木監督でさえ「いかに力があっても1年生の田澤を2区には使えないと思った」と言っていますから、「2区岸本」は挑戦者に戻った原監督の考え抜かれた大胆な采配だったと思います。

往路・復路ともに気象条件に恵まれ、今年のハイレベルなレース展開は、各校監督の想定を遥かに上回っていた筈です。青山学院大学は、実力が拮抗する1~3区の混戦を理想的な形で乗り切り、昨年苦しんだ鬼門の4区、5区を連続区間新で走破したことで、ライバルチームにダメージを与え、有利なレース展開に持ち込めたように思います。

王者陥落から僅か1年で王座復帰したことに価値がある

今回の優勝で、改めて原監督のマネジメント手法が注目されることになるでしょう。昨年の敗戦によってテレビのコメンテーター等競技以外の活動への批判を受けてきた原監督としては、本業の学生指導には些かの手も抜いていないこと、勝利への情熱を喪っていないこと、チーム育成手腕は揺らいでいないこと、を是が非でも証明したいという思いも強かったのでしょう。インタビューでこう語っています。

久しぶりに初年度のように、君臨型の指導をやりました。監督が指示命令を出していくスタイルです。組織を立て直す条件は、理念とヴィジョンと覚悟の3点セット。半年間、学生たちにその覚悟があるのかをずうっと問い続けた 

第96回箱根駅伝速報号 P9

また自身のツイッターでは、この一年、学生たちに口酸っぱく言い続けた言葉を紹介しています。

【チームを活性化させる三要素】
『目標や理念を持つ』
『傍観者的発想にならない』
『他人に責任転嫁しない』

【成長する為の5ステップ】
知る → 理解する → 行動する → 定着させる → 伝える

2019-2020年度は、トップダウン型のマネジメントを行ったようです。ある程度は選手に犠牲を強いて、チームが箱根を勝つことへの意識付けを強制したということでしょう。チーム作りの初期段階で、覚悟が足りないと判断された4人の4年生がチームを去ったと言われています。個人の能力発揮よりも組織としての結束・成功を優先する苦渋の選択だったのでしょう。

原監督は合宿所に住み込んで選手達と共同生活を送る中で、選手個々の性格や特性を観察、把握し、指導に役立てていると言っています。絶えず勉強を欠かさず、定期的に新しい手法を持ち込んで組織を進化させています。駅伝チーム以外の組織マネジメントを任されても、実績を出せる人と思います。



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