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'80s Musicを理解するキーワード①:産業ロック

2024/5/25に、とあるイベントで"DJMARK"として登場し、80年代の洋楽の名曲を紹介する時間を頂けることになっています。企画書は書き上げて主催者の方にはお送りしたので、現在は当日喋りたい内容の草稿を練っている段階です。イベントには、80年代の洋楽をオンタイムで体験していない若い世代も来られるとのことなので、私の考える80年代の洋楽を象徴するキーワードとともに解説したいと考えています。そのキーワードの第1講は、『産業ロック』です。

渋谷陽一氏の造語?

『産業ロック』ということばから、真っ先に思い浮かぶのは、音楽評論家の渋谷陽一氏(1951/6/9-)のことです。ロックミュージックについて大してわかっていなかった中学生の頃は、彼がDJを務めるラジオ番組に耳を傾け、彼が編集長を務める音楽雑誌『ロッキング・オン』の難解な解説記事に食らいついて読んでいました。渋谷氏は、ロック初心者の私に、ロックとはどのような音楽であり、どのような歴史があり、どのように鑑賞するべきか、といった基本的な知識や姿勢を授けてくれた師匠です。大なり小なり彼の思考の影響を受けていることは否定できません。

レッド・ツェッペリン至上主義者である渋谷氏の語るアーティスト評は、概ね辛口であり、偏向していたと思います。なかでも彼が『産業ロック』と断罪する種類の楽曲・アーティストに対する評価にはかなり辛辣なものがありました。ジャーニー、スティックス、ボストン、TOTO、エイジア、フォリナー、ハート、REOスピードワゴン…… などなど名だたる人気バンドを、『産業ロック』の一言で一刀両断にしていました。音楽業界やリスナーの嗜好にあざとくすり寄ったような耳障りがよく、人工的なポップ感をまとわせた音楽に対しては容赦なく鉄槌を下し、拒否感を露わにしていました。こうした商業主義的な音作りを批判する動きは海外にもあり、それらは商業ロック(Commercial Rock)」と称するのが一般的なようです。『産業ロック』は渋谷氏の造語だと私は思っています。

ただ、時が経つと耳に残る

実際の所、私は"売れ線"という意味合いで語られる『産業ロック』の愛好家でした。初めて買った洋楽アルバムは、エイジア『詠時感~時へのロマン』ですし、演奏はそこそこハードながら、ドラマティックで、耳障りがよくて、わかりやすいメロディーラインを持っている"売れ線"の曲に好きなものが多かったです。80年代は、『産業ロック』的な楽曲がマスに支持されていた時代だったと思います。実際、70年代から活動してきた個性の強いベテランのロックバンドの中にも、『産業ロック』寄りに転換して商業的に成功し、ビッグネームの仲間入りをしたバンドも少なくありません。(J.ガイルズ・バンド、Z.Z.トップ‥)

私の考える『産業ロック』の代表的なバンドは、ジャーニー(Journey)です。正式には、「アメリカン・プログレ・ハード」を代表するバンドと言うべきなのでしょうが、『産業ロックの王様』といっていいのではないか(フォリナーという説も捨て難いが……)と思います。

サンタナでの活動経験もあるニール・ショーン(G)を中心に、プログレ色の強いロックを指向して70年代から活動していた彼らは、ボーカルにスティーヴ・ペリー(1949/1/22-)が加入した1978年頃からハードポップ路線を強め、次々とヒットを生み出しました。出世作になった1980年のアルバム『ディパーチャー』からは『ラヴィン・タッチン・スクィーズィン』『お気に召すまま』がシングルヒット、翌1981年発売のアルバム『エスケイプ』が全米No.1を獲得しました。このアルバムからは『クライング・ナウ』『ドント・ストップ・ビリービン』、後にマライア・キャリーもカバーする『オープン・アームズ』等がヒットしました。1983年発売の『フロンティアーズ』に収録されている『セパレート・ウェイズ』は、野球日本代表チームのテーマソングに使われていて、2023年のWBC大会でお馴染みです。

あの時好きだと言えなかった私

しかしながら、当時の風潮として、熱心なロックファンを自認する愛好家が、「ジャーニー好き」を公言するのは、なかなかに勇気がいる行為でした。気合の入った硬派なロックファンからは、「ダサいヤツ」「わかってないヤツ」と思われる可能性が濃厚でした。『産業ロック』とはそういうジャンルの音楽でした。私も、表向きは産業ロック好きを隠していました。

90年代にニルヴァーナを代表とするオルタナティブ・ロックが台頭して人気を博した背景には、巨大化した『産業ロック』全盛市場に飽き飽きしていたリスナーたちに熱狂的に迎えられ、支持されたから、という側面が否定できないと思います。

ジャーニー(1973‐)

年月が流れて当時ヒットしていた曲を耳にすると、キャッチーなメロディーを大変懐かしく感じます。80年代の『産業ロック』的楽曲のテイストは、現在の音楽シーンにも確実に受け継がれていることは間違いないと思います。

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