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しっかり考えてみる③:デノミネーション

過去2回テスト的に書いたnoteを踏まえ、新たに『しっかり考えてみる』というシリーズものを立ち上げることにしました。

目的はマガジンの概要に書きましたが以下の通りです。

日常に溢れ返る情報の中から、自分の嗜好や感性で選り好みした情報だけを目にしながら暮らしてしまいがちです。上っ面だけの浅はかな理解でやり過ごさないよう、時にはじっくり「考える」時間を持ちたいものです。このマガジンには、私が自分の時間を使って調べ、考えたことを言語化したnoteを集めました。ー 概要より

第3回は、数年前によく取り上げられていたものの、最近は余り耳にしなくなった(私だけ?)『デノミネーション』です。

デノミネーションとは?

デノミネーション(denomination)は、『通貨の単位』をさすことばです。日本の円(Yen)、米国のドル(United States Dollar)は、デノミネーションにあたります。

しかしながら、デノミネーション(『デノミ』と省略される場合も多い)が議論される場合には、通貨単位を切り下げる/切り上げる意味で使われることが殆どのようです。

本来、通貨切り上げ/切り下げを意味することばには、リデノミネーション(redenomination)あるいはチェンジ・オブ・デノミネーション(change of denomination)を使うのが正しいようですが、この記事では、デノミネーションと表記します。

デノミネーションは、インフレーションが進み、通貨金額の桁数表示が巨大になり過ぎると経済活動に支障をきたすので、その解決策として実施されることが多いとされます。国内の全ての資産と負債が変動対象となるので、実施に際しては社会的混乱を最小限にする工夫が施されます。

デノミネーションの事例

デノミネーションでは、期限を決めて通貨価値の変更(例:1/1付けで円を1/100切り下げ、10,000円=新1円にする)を行います。この措置に伴って、新通貨を発行したり、新通貨単位に置き換えたりすることが行われます。

公益財団法人国際通貨研究所の説明(https://www.iima.or.jp/abc/ta/6.html)によると、メリット/デメリットは以下の通りとされています。

【メリット】
①決済の利便性向上(通貨切り下げの場合)
②国際市場における通貨のイメージ向上
③新通貨を発行する印刷業界や新通貨対応のシステム構築を担うコンピューター業界等の特需
④国民資産の把握
⑤アングラマネーの捕捉等
【デメリット】
①新たな金融システム導入に向けた膨大なコストや事務負担
②自国経済への信用低下によるさらなる混乱等

世界各国で過去から実施事例も多数ある経済政策です。

直近では、外貨不足と物資の欠乏でハイパーインフレが止まらなくなったベネズエラが、2018年8月20日に既存通貨10万ボリバルを、1ボリバルソベラノと交換する10万分の1のデノミネーションを実施しました。世界最大級の埋蔵原油を担保に仮想通貨「ペトロ」を発行し、1ペトロ=3,600ボリバルソベラノのペッグ制を敷きました。

日本のデノミネーションの可能性

日本では、2024年に現行の千円・五千円・一万円の新紙幣への切り換えが予定されています。

財務省は、この切り替えの狙いについて、最新技術の採用による偽造防止効果を強調しています。マスコミ報道では、使用される肖像画の変更(千円:野口英世➡北里柴三郎、五千円:樋口一葉➡津田梅子、一万円:福澤諭吉➡渋沢栄一)の方が注目されがちです。

新紙幣への変更は、デノミネーションとは一線を画する施策ではあるものの、増え続ける国の借金の実質的軽減効果への期待もあるかもしれません。

運用細則によって、国民の財産状況の把握を行い、
● タンス預金の炙り出し
● (実質的な)預金封鎖効果
● (実質的な)財産税効果 
となる可能性もあります。

1US$≒100円という肌感覚があるが……

現在の日本は変動相場制を採用しており、為替レートは常に変動するものになっています。私よりも上の世代だと、固定相場制時代の1US$=360円時代の記憶も薄っすらあるでしょう。

私くらいの年齢の人間には何となく1US$≒100円 という肌感覚が刷り込まれているかもしれません。私は1991年に社会人になり、製品輸出部門にいたため、為替レートの変動には自然と敏感になりました。1995年に急速な円高が進んで1US$が79円台を叩いた時には、営業努力とは無関係に、円換算の利益が吹っ飛んでいく光景を目の当たりにして、呆然としました。

その後、為替変動には慣れっこになりましたが、しばらくは基準を何となく100円において、円高・円安に一喜一憂することが続きました。1990年代くらいまでの顧客企業は、海外工場=汎用品、国内工場=高付加価値品という生産品目の棲み分けを考えていた傾向がありましたが、コスト競争力のある海外工場の比重が高まり、徐々に高級品・高価値品の生産も移管され、国内工場は閉鎖されていく流れが止まらなくなっていきました。

2000年代以降、中国が「生産地としてだけでなく、巨大消費市場としても魅力」と認識されるようになってからは、日本にある事業の生産機能が丸ごと移管されるケースも増えました。いくら「司令塔機能は日本に」としても、強い製造拠点が日本国内にないのに、市場開発・製品開発・品種改良を進めるのは難しいものがあります。「コストの高い日本でものづくりなんてするのはナンセンス」という論者も現れました。

金融の異次元緩和状態が恒常化し、国内産業の相対的劣化が進んだ最近は、100円を割る円高はなかなか起こらなくなりました。それでも、海外へ出て行ってしまった生産が日本に逆戻りしてくる事例は稀です。

このままゆったりと国力が衰退していけば、世界で経済力の強い国や地域の通貨に対して、円安方向になっていきます。円安では、輸入品(特に原油・食料品)の調達コストがアップしますので、物価はじわじわ上がり、生活は相対的に苦しくなっていきます。国内生産で耐え忍んできた生活必需品産業は逆に輸入品の追い出しと輸出チャンス到来かもしれません。


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