本日は、自分なりのビジネス感覚の言語化です。もしも、私が自分で事業を興し、会社を運営することになったら、ステージ別に『3つのS』を意識して取り組む、という話です。
3つのSを意識する契機
3つのSとは、それぞれ Survival(生き残り)・Success(成功)・Sustainability (持続性)の頭文字です。新たに誕生した企業、あるいは新規事業刷新を舵取りするにあたっての最重視すべき項目は、この順番で変化すべきではないか、という仮説です。
そのように考える契機となったルーツは、私が鉄鋼業界に身を置き、勤務先企業から派遣されていたアメリカ駐在時代にあります。毎年6月の数日間、ニューヨークのプラザホテル(プラザ合意で有名ですね)で、通称『SSS』と呼ばれる大きな会合が開かれていました。この会合は、源流が1866年まで遡る古い歴史を誇り、北米で事業を展開する鉄鋼関連企業の幹部クラスがこぞって出席する格式の高いものでした。参加費用は、当時でも20万円くらいしていた記憶があります。
今回ググってみたところ、"Sustainable Steel Strategies Summit(SSSS)"と名称を変え、今年も開催されていることがわかりました。
私は、2003年か2004年に、都合の悪くなった米国法人幹部の代役でこの会合に出席したことがあります。当時の名称は、"Successful Steel Strategies"だったと記憶しています。上司からは、「昔は、"Steel Survival Strategies"って名称だった」という説明を受けました。(このあたりの事実関係は、私の記憶頼りなので、間違っている可能性があります。)
私の考えは、この会合の名称の変化がヒントになっています。
まずは生き残り(Survival)を考える
米国・カナダの鉄鋼業界は長らく経営不振の時代が続き、縮小・衰退の痛みを何度も経験しています。経営が傾き始めると、世界各国からの鉄鋼輸入を標的にした、アンチダンピングやセーフガード、最近ではトランプ政権時代の特別輸入関税などの通商措置を繰り出してきました。通商措置による救済や産業保護は彼らのお家芸で、米鉄鋼業と通商弁護士ファームには、輸入制限に繋がるありとあらゆる豊富な知見が蓄積されています。ビジネス、戦略の一部と言ってもいいでしょう。
米国の鉄鋼市場は、恒常的に需要が供給を上回っており、年間2,000〜3,000万トンの鉄鋼輸入製品を必要とします。それなのに、鉄鋼製品を必要とする需要産業の事情などお構いなしに通商措置を濫発してきました。汎用製品を世界一高い価格で買わされ続けた多くの米国製造業を、絶えず救済策を必要とする脆弱な鉄鋼業が衰退させた、という一面を持っていると私は考えています。
当時の私には、米国の鉄鋼業界は、痛みを伴う経営刷新には取り組まず、『自由なビジネスの国、アメリカ』とは程遠い露骨な保護主義的施策に訴えて、命脈を保っているように見え、大変腹立たしく思ったものです。
ただ今思うと、彼らにしてみれば、生き残る為には綺麗ごとなんて言っていられないのが実情でした。たとえ世間から、『非効率な経営』『身勝手な要求』だと厳しい批判を受けようと、自分たちの事業が完全に消滅することを回避する為には、使える手は全部使う、という発想だったのでしょう。going concernを大前提とする企業は、どんなに苦しい状況でも、生き残ることに執念を燃やし続けねばならない、という理屈には一理あります。
経営基盤が不安定な時期は、生き残りこそが最優先事項であり、この時期にイチかバチかのリスキーな勝負を打つのは、大変危険な行為と思います
成功(Success)は事業存続の必須事項
成功を目的にしない事業展開は、あり得ません。手掛けている事業のうち、最低一つは成功しないと、企業の存続が覚束なくなります。成功の定義や目的は、事業規模や形態や時期によってさまざまですが、成功にフォーカスして、事業を切り盛りする時期が定期的に訪れるのが普通のことと思います。
成長・発展は、成功の連鎖あるいは継続的成功によってもたらされると考えられそうです。
持続可能性(Sustenability)に舵を切る時期
成功のステージを積み重ね、十分に強力になった企業は、持続可能性を強く意識した企業運営へと変化していくことが求められそうです。利益率が高過ぎるのであれば、事業を支えてくれるステークホルダーへと還元したり、他の新規事業へ投資していくことを考えていくことが必要でしょう。
"サステナブル"ということばは、すっかり社会に定着しました。私は、「諦めること」「抑制すること」も、サステナブルな態度の一部だと考えます。生活水準や、欲望水準を、上げ過ぎないことも必要だと考えています。
この段階に到達した企業が長く繁栄を続けていく為には、フリーライドしている外部コストもきちんと負担することは意識したいものです。