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立った立った。irukaが立った

次の写真は、2017年9月にインスタグラムに投稿したものである。irukaの試作6号車とブロンプトンが、折りたたんだ状態で壁際に並んでいる。

なぜ壁際だったのか。

実はこのとき、irukaは自立せず倒れてしまうため、壁にもたせかけて撮影したのだった。

一般的に自転車はチェーンリング、スプロケット、ディレイラーといった駆動機構が右側に付いている。さらにirukaは、ハンドルポストも右に折りたたむ構造である。つまり重量物が右側に集中しているため、irukaは常に右(次の写真では手前方向)に倒れようとする。に対して、当時はそれを保持する機構がなかったのだ。

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では自立させるにはどうすればよいか。右に倒れようとするなら、左から何かで押さえればよい。左に何かないか。

ある。前輪だ。

元々irukaは、ウォークモードで転がして運べるよう、前輪と後輪が平行かつ同軸上に折りたたまれるように設計されている。ならば両輪のハブ軸を接続して前輪の重みがかかるようにすれば、バランスがとれて自立するはずだ。

というわけで、試行錯誤が始まった。まずはU字型に曲げて穴を穿った金属プレートを前輪のハブ軸にナットで共締めにして取り付けてみた。が、自立はしたものの、何かの拍子に簡単に外れてしまうなど、実用には耐えなかった。

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その後いくつかの案を経て、ステンレス製のシンプルな円筒形の機構にたどり着いた。

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根元の外側を六角に切削し、内側にはネジが切ってある。21mmレンチで前輪ハブ軸に締め込んで取り付ける。ハブ軸のナットも兼ねているわけだ。

円盤状の磁石を内蔵しており、後輪のハブナットにかぶせて近づけると磁力で引き合って、心地よい金属音とともに連結する。

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帽子のような形状と使い方からハブキャップと名付けられたこの部品のおかげで、2018年1月に完成した試作7号車は見事に自立するようになった。

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ウォークモードでも安定性が増して、格段に転がしやすくなった。

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ワイヤールーティングなど改良点はまだ数多くあったものの、これで走行・駐輪・転がし・折りたたみの全ての機能を第三者に見せられるレベルになったと判断し、僕は試作7号車を連れて販売店や自転車業界の先輩方を訪ねて回る「お披露目ツアー」を始めた。

折りたたみを実演するとき、前輪と後輪の連結はちょっとしたハイライトだった。ハブキャップとハブナットが嵌まり合って「カチン」と音を立てると、irukaが声を発したようにでも感じるのか、皆「ほう」という表情を浮かべるのだった。

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発売後しばらくたった頃の、試乗イベントでのことだった。これからirukaを購入しようか検討している男性から「ライトはどこに付けるのがよいか」と問われ、僕はハンドルバーがよいと思うと答えた。

するとそこに居合わせた、初回ロットを買ったというフリッパー(irukaオーナーの総称)の別の男性が、自分はここに付けていると言って、自分のirukaの前輪を指さした。

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彼のirukaのハブキャップは、折りたたみ時の接続具とハブ軸のナットの二役に加えて、前照灯のブラケットという三役を務めていたのだった。



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