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コロナ禍下における世界の自転車マーケット動向。そしてirukaは

irukaの現状を書いた記事で、コロナウイルスの流行によって自転車の需要が世界的に高まっていることに触れた。その結果、パーツの供給が追いつかず、irukaをはじめ多くのメーカーで生産が滞っていることも。

と、コロナ禍下の世界の自転車マーケット動向について体系的にまとめた日本語記事がなかなか見当たらないことに気づいたので、書いてみようと思う。

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世界の自転車市場規模は3.1兆円から2027年に3.6兆円へ

まず、そもそもの自転車のマーケットサイズと成長予測。2020年7月に発表されたGlobal Bicycles Market Reportによると、2020年の世界の自転車の市場規模は292億ドル(1ドル=105円として約3.1兆円)、2027年には346億ドル(同 約3.6兆円)に成長すると見られている。

予想CAGR(年平均成長率)は2.4%だが、当然ながら地域ごとに濃淡があり、例えば日本は0.5%であるのに対して、中国は4.7%とされている。

同期間のGDPの予想成長率が世界全体では毎年概ね3%台、日本は1%弱、中国は5%前後であることを考えると、他の多くの産業と同様に、自転車産業はその地域のGDPと概ね一致して成長または衰退するマーケットと見てよさそうである。

また、カテゴリによっても差があり、電動アシスト車は予想CAGR3.1%、ロードバイクは同1.7%とされている。

マーケットの規模感とトレンドをつかんだところで、コロナ禍が与えた影響を見ていこう。


コロナ禍で世界的に自転車利用度・需要が急増

昨年2020年は、コロナウイルスの感染拡大に伴い、密集を回避する移動手段として自転車が再評価され、さらに国によっては金銭的な補助があったこともあり、世界的に自転車の利用度・需要が大きく高まった。例えば、

「イタリアでは自転車利用を推奨するため、国が自転車購入費の6割(最大500ユーロ)を補助。2020年の自転車の売上は前年比6割増」

「自転車利用を奨励するために、イギリスは300億円強を、フランスは20億円強を予算化。イギリスでは2-4月の自転車の売上が前年比約3倍増」

「アメリカの調査では成人の9%がコロナ感染拡大をきっかけに今年初めて自転車に乗ったと回答。都市部では自転車の交通量が21%増加」

「ヨーロッパではコロナ感染拡大後に、フィンランド7.76ユーロ、イタリア5.04ユーロ、フランス4.91ユーロなど、国民一人あたりの自転車関連消費額が軒並み増加」

「日本では2020年6月にはナビゲーションサービスでの自転車ルート検索が前年比倍増」

「東京の自転車通勤者の4人に一人は『コロナ拡大後に自転車通勤を始めた』と回答」

これらは当然ながら、小売、完成車メーカー、パーツメーカーといった自転車関連企業の業績にも大きなインパクトを与えることになる。


自転車関連企業の業績は2020年前半に一旦落ち込むも急速に反転

海外ではロックダウン、日本では緊急事態宣言の影響によって自転車関連企業の業績は2020年前半に一旦落ち込んだが、前段に書いたその後の自転車利用度・需要増に伴い、後半には大きく伸びることとなった。

日本の自転車小売のあさひは、4-5月は前年割れだったが、6月以降はほぼ全ての月で大幅なプラスに転じた(グラフは同社IRページから筆者作成)。

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自転車製造世界最大手である台湾のジャイアントも、1-3月の四半期は一旦落ち込んだものの4-6月は一転して前四半期比1.5倍増、7-9月も前年比プラス15%となった(グラフはロイターから1台湾ドル=3.7円として筆者作成)。

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株価も2020年3月を底として上昇に転じ、過去最高値に迫る勢いである(グラフはGoogle株価検索よりキャプチャー)。

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自転車コンポーネント世界最大手のシマノも、2020年の上半期は前年比マイナスであったが、下半期は大きくプラスに転じた(グラフは同社決算短信から筆者作成)。

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株価も過去最高値を更新中、現在は再び逆転したものの一時は日産自動車の時価総額を抜いて話題にもなった(グラフはGoogle株価検索よりキャプチャー)。

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需要に供給が追いつかず、世界的な自転車不足が続く

が、自転車業界は我が世の春、という状況では必ずしもない。

あまりにも急激な需要増に生産が追いつかず、現在世界的にかつてない規模で自転車の供給が不足している。シマノ製品を中心にパーツの調達が滞っているため、多くの完成車メーカーは生産したくてもできない状況にあるのだ。各社対応を急いでいるが、この状態は短くとも2021年いっぱい、長ければ2022年まで続くと予想されている。

「どの自転車店に行っても、ほぼ空になった棚が並んでいるばかり(アメリカ、コロラド州)」

「ジャイアントはアメリカの対中制裁関税の影響を避けるため生産拠点を中国から台湾に徐々に移していたが、昨今の需要増に対応するため再び中国に回帰し始めた。それでも(いつまで自転車ブームが続くかわからず無思慮に生産能力を拡大するわけにもいかないこともあり)しばらく供給はタイトだろう」

「シマノ製パーツの納期は最長400日。下位メーカーのパーツにシフトする動きもあるが、シマノとは規模が違いすぎて根本的な解決にはならない。Velo社のサドルの納期が最長480日であるなど、シマノが特に強い駆動系コンポーネント以外にもパーツ不足は広範囲に及ぶ。コロナによる移動制限で主要生産地である中国・台湾への国外からの出稼ぎ労働者の入国がままならないことも影響している」

「自転車の生産キャパシティが向上しても、コンテナと貨物船の不足が解消されなければ自転車不足は続く」

日本は、コロナ以前から他国と比べて既に自転車普及度が高かったこともあり(人口あたり自転車保有台数は世界第六位の0.67台 2005年、自転車産業振興協会調べ)「店の棚がスカスカ」という状況までは至っていないようだが、完成車・パーツともに入手が難しくなっているのは間違いない。


そしてirukaは

irukaも影響を受けている。2020年初頭に出荷したセカンドロットがほぼ完売し、秋には次のロットを出荷する計画であったが、シマノ製変速機をはじめいくつかのパーツが入手できず、生産がストップしてしまった。

現在は海外向けの在庫はゼロ、国内に3色のうちの1色が数台残るのみで、オーダーが入ってもどうにもできず、歯がゆい状況が続いている。他のブランドも多かれ少なかれ同じような状態で、各社対策を急いでいると聞く。

そこでirukaは、以下のインタビューでも軽く触れているように、オリジナルモデルとは異なるパーツを組み合わせたスペック違いの新モデルを春に発売すべく、計画を組み直した。

オリジナルモデルよりもリラックスした乗車フィーリングで、やや価格も抑えた「コンフォートスペックのバリューモデル」になる。モデル名は「iruka C」。カラーバリエーションも3色から5色に増やす。

いずれの変更も、元々フリッパー(irukaオーナーの総称)予備軍のみなさんから要望が多かった点である。禍転じて、結果として良い製品ができると思う。出荷スケジュールがある程度見えてきたら正式に詳細を発表したい。また、オリジナルモデルもパーツを調達でき次第生産を再開する。

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きっかけはどうあれ、自転車の利用が進むのは良いことだ。ただ、あまりにも急激に人気が高まると、その分の反動も大きい。単に需要が減るだけならよいが、数年前のシェアサイクル投資ブームのときのように廃車の山が築かれるようなことがなければよいのだが、と切に思う。



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