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開運、金運をもたらす、毘沙門天の使い「ムカデ」 - 『神々の意思を伝える動物たち 〜神使・眷属の世界(第三十七回)』

「神使」「眷属」とは、神の意思(神意)を人々に伝える存在であり、本殿に恭しく祀られるご祭神に成り代わって、直接的に崇敬者、参拝者とコミュニケーションを取り、守護する存在。

またの名を「使わしめ」ともいいます。

『神々の意思を伝える動物たち 〜神使・眷属の世界』では、神の使いとしての動物だけでなく、神社仏閣に深い関わりのある動物や、架空の生物までをご紹介します。

動物を通して、神社仏閣の新たなる魅力に気付き、参拝時の楽しみとしていただけたら幸いです。



神使「ムカデ」

黒光りする背中、多数の脚を持ち、くねくねと這いずり回る姿がとても不気味な「ムカデ」。

日中は草むらや、落ち葉、石の下など湿度の高い場所に潜んでいますが、夜になると餌となるゴキブリなどを求めて屋内に侵入することもあります。誤って触れると人を噛むこともあることから、注意が必要です。

私も、木造の家に住んでいるときに布団の中にムカデがまぎれ込み、噛まれて炎症を起こしたことがあり、今思い返してもゾッとします・・・

漢字では「百足」と書きますが、もちろん100本ちょうどの脚があるわけではありません。いずれも奇数対の脚を持っており、脚の長いゲジは15対、オオムカデなどは21〜23対、ジムカデに至っては体が細長い分、脚の数も多く、191対の脚を持つ種も存在します。


鉱山、鉱脈の守り神

聖神社(埼玉県秩父市)

不気味な姿形、毒を持った害虫としての側面など、あまりイメージが良くないムカデですが、実は鉱山や鉱脈を司る神の使いとして、古くから信仰の対象とされてきた歴史があります。

これは鉱山の中を縦横に走る坑道が、ムカデの姿に似ていることからきています。また、お金のことを「御足・御銭(おあし)」と呼んでいた時代がありました。これは、お金は足が生えているかのように出たり入ったり、行ったり来たりすることの例え。このことから脚の多いムカデは鉱山にとっても「御足が集まる」縁起の良い生き物であるという考え方がなされたのです。

和同開珎

埼玉県秩父市黒谷に鎮座する「聖(ひじり)神社」は、日本で最初の流通貨幣として知られる「和銅開珎(わどうかいほう・わどうかいちん)」所縁の神社です。

聖神社の近くにある和銅遺跡は、かつて自然銅が採掘された露天掘(坑道を掘らず、地表から渦を巻くように地下に向けて穴を掘る方法)の跡です。採掘された銅は元明天皇に献上され、同時に元号も「和銅」に改元、日本で最初の通貨(銅貨)が発行されるに至ります。

和銅の発見、献上を喜ばれた元明天皇は、勅使を使わして祝典を挙げ、美の山の麓に聖神社を創建して、雄雌一対の銅製のムカデ像を下賜されました。このムカデ像は御神宝として今に伝わります。

聖神社は「銭神様」として崇敬され、開運、金運上昇のご利益にあやかろうと全国から参拝者が詰めかけています。参拝者の中には宝くじの高額当選者も相次ぎ、社殿の横には参拝者から寄せられた感謝の声が掲示されています。

黄色い表紙に和銅開珎と神使であるムカデがデザインされた、いかにも縁起の良さそうなオリジナルのご朱印帳も授与されています。その他、社務所には金運アップ、開運にご利益のあるお守りやお札がずらりと並びます。


御神宝の銅製ムカデの画像はコチラ


毘沙門天の使い

毘沙門天

ムカデは虎とともに、四天王・七福神の一尊に数えられる「毘沙門天」の使いでもあります。毘沙門天は甲冑を身につけた武神・軍神としての性質をもち、勇ましい像容で知られています。

ムカデは多くの脚を持っていながら、足並みを揃えて前へ前へと全身し、決して後退をすることがありません。こうしたムカデの形態、習性が、武神である毘沙門天の教えを表しているともいわれます。

「多くの人々が心を一つにする」「決して後退しない」ことの象徴として、ムカデは尊ばれ、毘沙門天の使いとみなされたことから、戦国武将も好んでムカデを兜などの武具や旗のデザインに採用しています。

白山神社

白山神社(神奈川県鎌倉市)

源頼朝によって建久元年(1190年)に創建された、鎌倉市に鎮座する「白山神社」。

頼朝が京都へ上洛した際に、鞍馬寺からもらい受けたという行基作といわれる毘沙門天像を納めた毘沙門天堂が始まりです。

この白山神社では毎年1月8日に「大注連縄祭(むかでしめ)」が開かれます。これは、氏子が藁を持ち寄って集まり、この地の守り神とされる大ムカデを模した注連縄を作り、奉納するお祭りです。

頼朝が毘沙門天像をもらい受けた鞍馬寺ですが、ここではかつて正月初寅の縁日で「御福蜈蚣(おふくむかで)」と呼んだ生きたムカデを売っていたといいます。

現在でも高級漢方薬として火傷や切り傷、虫の咬傷、神経麻痺などに用いられますが、当時もこのような使い方がなされたのでしょう。


神話の中のムカデ

ムカデは日本神話の中にも登場します。

当連載第二十二回『国産みに関わった、夫婦和合の象徴「セキレイ」』より引用します。

大国主神がまだ「大穴牟遅神(オオナムジノカミ)」という名であった頃、根の国の「須佐之男命(スサノオノミコト)」の家を訪ねました。そこでその娘である「須勢理毘売命(スセリビメノミコト)」と出会い、恋仲となります。

須勢理毘売命は、「とても立派な神が来られました」と大穴牟遅神を家へ招き入れましたが、父である須佐之男命は気に入らない様子。大穴牟遅神の力を試そうと、蛇のいる部屋へ泊まるように言いつけます。

須勢理毘売命は、大穴牟遅神に蛇比礼を手渡し、蛇が噛みつこうとしたら蛇比礼を三度振るように伝えました。言われたとおりにすると蛇は噛みつくことなく静まり難を逃れることが出来ました。

次の日の夜は、ムカデと蜂のいる部屋で寝るようにいわれ、今度は蜂比礼を授けられ、同じように蜂比礼を三度振ると、ムカデや蜂に襲われることなく無事に朝を迎えることが出来たのです。

朝護孫子寺・本堂の扁額にはムカデが刻まれている


ムカデと所縁ある神社仏閣

聖神社(埼玉県秩父市)
白山神社(神奈川県鎌倉市)
百足山神社(新潟県佐渡市)
白髭神社(埼玉県日高市)
大椋神社(福井県敦賀市)
朝護孫子寺(奈良県生駒郡)
*「百足絵馬」
福應寺毘沙門堂(宮城県角田市)
*「百足絵馬」HP HP
勝林寺(京都市東山区)
*「百足封じの護符」HP
善國寺(東京都新宿区)
*「ムカデのひめ小判守」

参考文献

『神道辞典』国学院大学日本文化研究所(編)弘文堂
『神社のどうぶつ図鑑』茂木貞純(監修)二見書房
『お寺のどうぶつ図鑑』今井浄圓(監修)二見書房
『神様になった動物たち』戸部民生(著)だいわ文庫
『神使になった動物たち - 神使像図鑑』福田博通(著)新協出版社

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