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国産みに関わった、夫婦和合の象徴 - 「セキレイ」『神々の意思を伝える動物たち 〜神使・眷属の世界(第二十二回)』

「神使」「眷属」とは、神の意思(神意)を人々に伝える存在であり、本殿に恭しく祀られるご祭神に成り代わって、直接的に崇敬者、参拝者とコミュニケーションを取り、守護する存在。

またの名を「使わしめ」ともいいます。

『神々の意思を伝える動物たち 〜神使・眷属の世界』では、神の使いとしての動物だけでなく、神社仏閣に深い関わりのある動物や、架空の生物までをご紹介します。

動物を通して、神社仏閣の新たなる魅力に気付き、参拝時の楽しみとしていただけたら幸いです。


神使「セキレイ」

キーワードは「振る」

水辺に佇むハクセキレイ

「セキレイ(鶺鴒)」は水辺の近くに住み、小さな体と長い尾が特徴の可愛らしい鳥です。人や車の近くを低空で飛んだりするので、危なっかしい思いをすることがあります。

以前、交通量の多い国道にセキレイが倒れているのを発見したことがあります。自宅へ持ち帰り一時保護。温めてあげると一晩で回復し、部屋の中を飛び始めました。窓を開け放つと、そこから元気に飛び立って行きました。

日本には「ハクセキレイ」、「セグロセキレイ」、「キセキレイ」の3種が主に生息しており、私が保護したのは腹部が白い、ハクセキレイでした。

キセキレイ

セキレイは、その長い尾を上下に "振る" 習性をもっていることから、「イワタタキ」、「イシタタキ」、「ニワタタキ」などとも呼ばれます。

神道において、この "振る" という行為は非常に重要なものです。現在でも、神職がお祓いの時に「大幣(おおぬさ)」と呼ばれる白木の棒に紙垂をつけたものを "振って"、罪、穢れを祓います。

大幣(おおぬさ)



十種神宝

三種の神器

少々、時代を遡ってみましょう。

日本書紀』、『古事記』、『先代旧事本紀(せんだいくじほんぎ)』は、"三部の書"といわれる歴史書です。このうちの『先代旧事本紀』には、このようなことが書かれています。

「邇芸速日命(ニギハヤヒノミコト)」が天照大神の詔を受けて天磐船に乗り、河内の国の河上にある哮峰(いかるがだけ)に天降りました。この時に授けられたのが「十種神宝(とくさのかんだから)」です。

「十種神宝」は、「澳都鏡(おきつかがみ)」、「辺都鏡(へつかがみ)」、「八握剣(やつかのつるぎ)」、「生玉(いくたま)」、「死反玉(まかるがえしのたま)」、「足玉(たるたま)」、「道返玉(ちがえしのたま)」、「蛇比礼(へびのひれ)」、「蜂比礼(はちのひれ)」、「品物比礼(くさぐさのもののひれ)」、の合計十種の鏡、剣、玉、領布(ひれ)のことを指します。

鏡、剣、玉といえば「八咫鏡(やたのかがみ)」、「草薙剣(くさなぎのつるぎ)」、「八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)」の「三種の神器」がすぐに頭に浮かびますが、領布とは一体何なのでしょうか。

「領布」は「比礼」とも書き、主に奈良時代に用いられた女性の装身具の一種で、肩にかける帯状の薄い布のことです。この領布には呪力があるとされ、振れば災いを祓うことができるといわれていました。

『古事記』には、この領布に関する記述が見られます。

大国主神がまだ「大穴牟遅神(オオナムジノカミ)」という名であった頃、根の国の「須佐之男命(スサノオノミコト)」の家を訪ねました。そこでその娘である「須勢理毘売命(スセリビメノミコト)」と出会い、恋仲となります。

須勢理毘売命は、「とても立派な神が来られました」と大穴牟遅神を家へ招き入れましたが、父である須佐之男命は気に入らない様子。大穴牟遅神の力を試そうと、蛇のいる部屋へ泊まるように言いつけます。

須勢理毘売命は、大穴牟遅神に蛇比礼を手渡し、蛇が噛みつこうとしたら蛇比礼を三度振るように伝えました。言われたとおりにすると蛇は噛みつくことなく静まり難を逃れることが出来ました。

次の日の夜は、ムカデと蜂のいる部屋で寝るようにいわれ、今度は蜂比礼を授けられ、同じように蜂比礼を三度振ると、ムカデや蜂に襲われることなく無事に朝を迎えることが出来たのです。

同じく『先代旧事本紀』によると、「一二三四五六七八九十、布留部 由良由良止 布留部(ひと ふた み よ いつ む なな や ここのたり、ふるべ ゆらゆらと ふるべ)」と唱えて、十種神宝を振り動かせば、死者さえも蘇ると記されています。

布留の言、ひふみ祓詞などと呼ばれる、この祝詞は死者蘇生の言霊であり、ここに "振る" という動作を加えることで、その呪力が増大するのです。


鎮魂法

石上神宮・拝殿(奈良県天理市布留町)

神道の行法には「鎮魂帰神」と呼ばれるものがあります。これは、魂を鎮める「鎮魂」と、神が懸かる「帰神」を指します。

このうちの一つ「鎮魂」の行を、「おおみたまふり」といいます。

*『延喜式』『古語拾遺』では「鎮魂」を「意富美多麻布理(おほみたまふり)」と読んでいます。

様々な流派の「鎮魂」の行法が存在しますが、奈良県天理市布留(ふる)町の「石上(いそのかみ)神宮」に古来より受け継がれてきた「石上鎮魂法」では、親指の側面を合わせたかたちで両手を結び、これを上下に "振る" という動作が存在します。

この石上神宮は、十種神宝が伝えられた社でもあります。主祭神である「布都御魂大神(フツノミタマノオオカミ)」は、十種神宝そのものであるとする説もあるようです。

このように布を振ったり、手を振るという行為は、古代から神聖な呪力を発揮する行為であるとされていたのです。

国産みのきっかけを作ったセキレイ

この石の上で、尾を上下に振るセキレイを見て二神は夫婦の道を開いた(自凝島神社・鶺鴒石)

『日本書紀』には、「伊邪那岐命(イザナギノミコト)」と「伊邪那美命(イザナミノミコト)」が初めて国産みをする時、性交の仕方が分からなかったところにセキレイが現れ、セキレイの首と尾を振る動作を見て性交の仕方を学んだとの記述があります。

日本の国土はセキレイがいなかったら存在し得なかった!ということになるのかもしれません。

セキレイは「嫁教鳥(トツギオシエドリ)」、「恋教鳥(コイオシエドリ)」といった異名も持ちます。また、婚礼の際には「鶺鴒台(せきれいだい)」といわれる調度品を飾る風習もあります。

これらは全て、セキレイが「夫婦和合」「子宝」を象徴する所以なのです。


セキレイに所縁ある神社

自凝島神社(兵庫県南あわじ市)

参考文献

『神道辞典』国学院大学日本文化研究所(編)弘文堂
『神社のどうぶつ図鑑』茂木貞純(監修)二見書房
『神様になった動物たち』戸部民生(著)だいわ文庫
『東京周辺 神社仏閣どうぶつ案内 神使・眷属・ゆかりのいきものを巡る』川野明正(著)メイツ出版
『【図説】神佛祈禱の道具』豊島泰國、大宮司朗、羽田守快、大森義成、宮城泰年(著)原書房
『神道の本 八百万の神々がつどう秘教的祭祀の世界』学研

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