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商売繁盛の瑞祥魚、恵比寿神の使い - 「タイ」『神々の意思を伝える動物たち 〜神使・眷属の世界(第二十三回)』

「神使」「眷属」とは、神の意思(神意)を人々に伝える存在であり、本殿に恭しく祀られるご祭神に成り代わって、直接的に崇敬者、参拝者とコミュニケーションを取り、守護する存在。

またの名を「使わしめ」ともいいます。

『神々の意思を伝える動物たち 〜神使・眷属の世界』では、神の使いとしての動物だけでなく、神社仏閣に深い関わりのある動物や、架空の生物までをご紹介します。

動物を通して、神社仏閣の新たなる魅力に気付き、参拝時の楽しみとしていただけたら幸いです。


神使「タイ」

古来より「鯛(タイ)」は、「めでたい」の語呂合わせでも知られるように縁起物、吉祥を象徴する魚とされてきました。今でも婚約、結婚式、お食い初め、七五三、年寿のお祝いから、神前に供える神饌などにもタイは欠かせません。

タイはなぜ、これほどまでに日本人に好まれ、珍重されてきたのでしょうか。

それはタイの鮮やかな「赤い鱗の色」にあります。「赤い色」は邪気を祓う色、魔除けの色を意味しました。

古墳の壁画や、石棺などに鮮やかな赤色(朱色)の彩色が施されているのをご覧になったこともあるかもしれません。また、稲荷神社の鳥居も赤色(朱色)です。

従来、朱は木材の腐食防止や防虫対策のために用いられてきましたが、その効果が絶大であったことから、魔を寄せ付けない色だと信じられるようになり、次第に腐食防止の効果よりも魔除けの効果の方が声高に叫ばれるようになりました。

この「赤い色」を生まれながらにしてもつタイは、古来の人々にとってとても神聖で、有り難い生き物であったに違いありません。


恵比寿様とタイ

七福神の恵比寿様がタイを小脇に抱え、こちらまで笑顔になってしまいそうな笑顔を見せている姿は皆さんもよくご存じですね。

なぜ、恵比寿様はタイを持っているのでしょうか。

『古事記』に描かれる「伊耶那岐命(イザナギノミコト)」と「伊耶那美命(イザナミノミコト)」の国産み神話。

この二神から最初に生まれた子どもを「蛭子(ヒルコ)」といいます。この蛭子は生まれつき手足が不自由でした(『日本書紀』では3歳になるまで足が立たなかった不具の子であったとの記述もあります)。

これが原因で蛭子は、葦で作られた船に乗せられてオノゴロ島から流されてしまいます。

この蛭子が流れ着いた先が、摂津国。

鳴尾という土地に住んでいた漁師が沖で漁をしていと、網に人形のような、ご神像のようなものが引っ掛かっていることに気付きます。しかし、魚ではないと海に戻し、さらに西の和田岬に漁場を変えて網を下ろします。すると、ご神像が再び網にかかっているので丁寧に引き上げて、持ち帰ったのです。

信仰心が厚い漁師は、このご神像を大切に祀り、朝晩にはお供物を捧げました。するとある日の夜、漁師の夢にお祀りしているご神像が現れて「吾(われ)は蛭児(子)の神である」と名乗り、現在の兵庫県西宮に遷して改めて祀るようにと言われたのです。

そうして創建されたのが現在の「西宮神社」。恵比寿様をお祀りする神社の総本社です。

西宮のえべっさん」として親しまれています。

西宮神社(兵庫県西宮市)

蛭子(ヒルコ)は、エビスとも読むため、次第に「恵比寿神」と同一視されるようになりました。

また記紀神話の国譲りの場面において、大国主神の使者が「事代主神(コトシロヌシノカミ)」の元を訪れた際に、事代主が釣りをしていたことから次第に海の神としての性質を帯び、中世以降「事代主=恵比寿神」は同一視されるに至ります。

この事代主神を、恵比寿神として祀っているのが大阪市浪速区の「今宮戎神社」、島根県松江市の「美保神社」などです。

美保神社(島根県松江市)


各社寺のタイ

長九郎稲荷神社・タイの鳥居(千葉県調布市)

長九郎(ちょぼくり)稲荷神社」には珍しい魚の鳥居があり、その一つがタイを象ったものとなっています。

川越氷川神社・釣竿で釣る鯛みくじ(埼玉県川越市)
川越氷川神社・釣竿で釣る鯛みくじ(埼玉県川越市)

パワースポットとしても知られる埼玉県川越市の「川越氷川神社」。

こちらには釣竿で釣る鯛みくじがあります。赤いタイは「一年安鯛みくじ」、ピンクのタイは「あい鯛みくじ」。

「あい鯛みくじ」には縁のある人の特徴や、出会える時期など、今後の恋の気になる展開が書かれているそう。期間限定で黄色や青色の鯛みくじも頒布されます。

大前恵比寿神社(栃木県真岡市)

日本一の高さを誇る20mの恵比寿様がいらっしゃるのは、栃木県真岡市の「大前恵比寿神社」。

大谷石で造られた台座の下には社殿があります。参拝者に宝くじの高額当選者も多いそう。

三日恵比寿神社(福岡市博多区)筆者所有

福岡市博多区の一宮「住吉神社」の境内社、「三日恵比寿神社」の鯛みくじは、珍しい黒色。

商売が繁盛して "黒字" になるようにとの願いが込められています。その名も博多弁を文字って「一年よか鯛」。

誕生寺・願満の鯛(千葉県鴨川市)

千葉県鴨川市小湊は日蓮聖人の誕生の地といわれています。日蓮聖人が誕生した際に、海面にタイの群れが姿を現れたことから、この地域の人々はタイを日蓮聖人の化身として崇め、食べることもしませんでした。

そんな日蓮聖人の生家跡に建立されたのが「誕生寺」。ここでは張子細工の「願満の鯛」が縁起物として授与されています。


タイに所縁ある神社

西宮神社(兵庫県西宮市)
西宮神社(静岡市葵区)
今宮戎神社(大阪市浪速区)
熱田神宮・事代主社(名古屋市熱田区)
中洲神社(愛知県南知多町)
千住神社(東京都足立区)
江野神社(新潟県上越市)
田無神社(東京都西東京市)
住吉神社・三日恵比寿神社(福岡市博多区)

参考文献

『神道辞典』国学院大学日本文化研究所(編)弘文堂
『神社のどうぶつ図鑑』茂木貞純(監修)二見書房
『神様になった動物たち』戸部民生(著)だいわ文庫
『東京周辺 神社仏閣どうぶつ案内 神使・眷属・ゆかりのいきものを巡る』川野明正(著)メイツ出版

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