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仙郷に住まう長寿繁栄を象徴する瑞鳥「鶴」 - 『神々の意思を伝える動物たち 〜神使・眷属の世界(第四十六回)』

「神使」「眷属」とは、神の意思(神意)を人々に伝える存在であり、本殿に恭しく祀られるご祭神に成り代わって、直接的に崇敬者、参拝者とコミュニケーションを取り、守護する存在。

またの名を「使わしめ」ともいいます。

『神々の意思を伝える動物たち 〜神使・眷属の世界』では、神の使いとしての動物だけでなく、神社仏閣に深い関わりのある動物や、架空の生物までをご紹介します。

動物を通して、神社仏閣の新たなる魅力に気付き、参拝時の楽しみとしていただけたら幸いです。



神使「鶴」

鶴の生態

タンチョウ

鶴は、古から吉祥を招く鳥として親しまれて来ました。

世界に15種類が存在し、数年に一度だけ稀に渡来してくる種も含めると、日本にはそのうちの7種が渡ってきます。

北海道・釧路湿原にはタンチョウ、山口県周南市八代地区にはナベヅル、鹿児島県出水市には主にナベヅルとマナヅルが越冬のために渡来します。タンチョウは周年、北海道東部に留まり(留鳥)繁殖しています。

日本で見られる最大の鶴であるタンチョウはオスで全長約140cm、翼を広げた全長は約250cmにもなります。

特徴はその名前の由来にもなっている赤い頭頂部(丹頂)。全身はほぼ白で、目の周囲、頸部、翼の一部(次列風切・三列風切)は黒。

タンチョウの頭部の赤い部分を、羽毛だと思っていらっしゃる方も多いかもしれませんが、実は頭頂部には羽毛が生えず、この部分だけ皮膚が裸出しているのです。

この赤い皮膚部分は粒状になっており、興奮をすると血流によって粒が膨張し頭が大きく見えるのです。

猫は尻尾を見れば、機嫌や感情が分かるといわれますが、タンチョウは頭頂部を見ればご機嫌を伺うことが出来るというわけです。上の写真は比較的粒が小さいので、リラックスムードなのかもしれません。

ナベヅル

八代地区、出水市に飛来するナベヅルは、全長約90cm、翼を広げると180cmほどです。

ナベヅルの頭頂部も赤く、皮膚が裸出しています。頭が赤いのはタンチョウの専売特許ではなかったんですね。ただ、タンチョウは頭頂部全体が赤いのですが、ナベヅルは頭頂部のやや前の部分が赤くなっています。

体は灰黒色で、頭部から頸部にかけては白、目の周囲は黒色です。

中国東北部、モンゴル北西部などで繁殖し、生息数の9割は鹿児島県の出水市で越冬します。

マナヅル

出水市のマナヅルは、全長約120cm、翼開長は2mを超えます。

タンチョウ、ナベヅルが頭頂部が赤かったのに対し、マナヅルは目の周りが赤く皮膚が裸出しているのが特徴です。

全身は灰色で、頭頂から頸部にかけて白く、頸の前、横は暗灰色をしています。

中国・モンゴルの北東部で繁殖し、出水平野で越冬します。


いずれの種も、湿原・河川・沼地・干潟・農耕地に生息、飛来、越冬し、雑食性で植物の種子や葉、根、昆虫から、魚類、爬虫類などを食べます。


仙人の乗り物


古代中国では、鶴は神仙界(仙人たちが住まう世界)に存在する鳥で、仙人の乗り物であると信じられて来ました。

「仙人」は、正しくは「僊人」と書きます。「僊」は「軽やかに舞い飛ぶ」という意味で、「僊人」とは、空を自在に駆け回る人を意味していたのでした。

そうした「僊人」の住む異境の世界は、高山や名山の頂上にあると考えられたため、山を意味する「仙」に置き換えられ、「仙人」と呼ばれるようになったのです。

こうした中国の神仙思想が日本に伝えられたのが、平安時代初期頃。亀とともに「鶴は千年、亀は万年」と吉祥、長寿の象徴とされるようになります。


物部神社の鶴

物部神社

島根県大田市に鎮座する石見国一宮「物部神社」は、継体天皇8年(514年)創建とされる由緒ある社で、文武両道・勝運の神として崇敬を集めて来ました。

ご祭神は、宇摩志麻遅命(ウマシマジノミコト)で、物部氏の御祖神(みおやがみ)です。

※御祖神:氏神、祖先神のこと

饒速日命(ニギハヤヒノミコト)と、御炊屋姫命(ミカシキヤヒメミノミコト)との間に生まれた、宇摩志麻遅命は父神の意志を継いで国土開拓に尽くします。

尾張・美濃・越国など各地の平定を終えたあと、宇摩志麻遅命が鶴に乗って国見をするために降臨した地が「鶴降山(つるぶさん)」です。

降臨した際、宇摩志麻遅命が腰をかけたという岩が今も物部神社の境内に「勝岩」と名付けられ残されています。

これは宇摩志麻遅命の国土平定の勝運の御神徳にあやかったもので、この「勝岩」を撫でれば、全ての願いが叶うとされています。

また、物部神社の御神紋は太陽を背負った鶴「ひおい鶴」がモチーフとなっています。

物部神社の勝石


鶴林寺

鶴林寺

霊鷲山宝珠院 鶴林寺」は標高516.1mの鶴林寺山の山頂にある、お遍路さんから「お鶴さん」と親しまれる四国八十八ヶ所第二十番札所。

鶴林寺の寺伝では、弘法大師がこの山で修行中、雄雌の白鶴が老杉の梢で小さな黄金の地蔵菩薩を守っていました。それを見た大師は霊木で高さ90cmほどの地蔵菩薩を彫り、その胎内に白鶴が守っていた黄金の地蔵菩薩を納めて、これを本尊とし、寺名を鶴林寺に定めました。

霊鷲山(りゅうじゅざん)の山号は、鶴林寺山の雰囲気が釈迦が説法したインドの霊鷲山に似ているところから名付けられています。


鶴に所縁ある神社仏閣

物部神社(島根県大田市)
白鳥神社(香川県東かがわ市)
豊国神社(京都市東山区)
鶴林寺(徳島県勝浦郡)
長國寺(長野県長野市)
法輪寺(東京都新宿区)

参考文献

『神道辞典』国学院大学日本文化研究所(編)弘文堂
『神社のどうぶつ図鑑』茂木貞純(監修)二見書房
『お寺のどうぶつ図鑑』今井浄圓(監修)二見書房
『神様になった動物たち』戸部民生(著)だいわ文庫
『神使になった動物たち - 神使像図鑑』福田博通(著)新協出版社
『役小角読本』藤巻一保(著)原書房

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