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わたしとバイオリン

私の両親は、ほとんど私に干渉してこない。

まず「勉強しなさい」は確実に言われたことがない。習い事も進路も、相談すればアドバイスはくれたが、基本は自分がやりたいこと、行きたい方向に決めさせてくれた。

ただ、バイオリンだけは違った。
母はフルートを昔吹いていたのだが、バイオリンの音が好きだったらしい。バイオリンの楽譜をフルートで吹くという、ちょっと変わったことをしていた。
そんなわけで、母がどうしても娘にバイオリンを習わせたかったのだ。

当時3歳だった私は、バイオリン教室に通い始め、泣きながら日々練習した。幼稚園には年中さんから通い、年少さんのときは、毎日家でバイオリンの練習。
楽器を持たずに右手の動きをひたすら修行みたいに練習したりと、華やかな練習風景では全くなかった。(笑)
楽器は基本的に涙でびちゃびちゃだった記憶が残っている。

通っていたバイオリン教室は、プロになったりテレビに出てくるような有名な楽団に所属する人もいる、"結構すごい"教室だった。

私はというと、練習に全く夢中になれなかった。
学校と両立して毎日3-4時間練習し、メキメキと腕を上げてコンクールで賞を取っていくスーパーキッズたちを次元が違う人たちだと思ってみていた。

ただ、年に数回ある独奏の演奏会でこういわれることが多かった。
「まりちゃんは、すごく楽しそうに弾くね。」

当時の私は、ホールで弾くのは比較的好きでのびのびやっていた。練習は「嫌い」だったけれど、みんなで演奏したり、ホールで自分の演奏をたくさんの人に聴いてもらえることは「好き」だった。
これは今も同じ。(練習については昔よりも好きになった)

音楽は、そのときその一瞬に立ち現れてくるものだから、同じ演奏、同じ音楽というのは存在しない。
その音楽を、同じ瞬間に、過去の色んなプロセスも含めて味わえる、没頭できることってとんでもなく贅沢だなと思う。

そして、この感覚を他のもので味わえたことがない。
大げさかもしれないけれど、この世界にある喜びをぎゅっと詰め込んだような感覚。

中学生ぐらいまでは「バイオリンを習っています」というと必ずと言っていいほどお嬢様だねと言われたり、なんだか周りからの疎外感を感じることが多かった。

だけれど、母親が習わせてくれたから、気づけば25歳になってもバイオリンを続けている。それどころか、音楽の喜びをもっと広げていきたいな、なんて思うようになった。

親から「やりなさい」と唯一言われたものがバイオリンで本当に良かったと思う。年を重ねるにつれて、音楽がさらに好きになっている気がする。

フルサイズの楽器が届いたときの記念カード

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