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かわいそうでかわいい人間たち-無名塾「いのちぼうにふろう物語」観劇レポ



能登空港は山に囲まれている。

わたしは、生まれは山のない千葉県、育ちは東京に近い市川なので、これまでの人生で山には縁がない。山が、近くで見たらどれほど大きくて、大きな一つのかたまりではなく、いろんな木の集まりの集大成であるということも、今回の能登の旅で、飛行機から見る山の美しさで再認識することとなった。


能登半島。石川県七尾市にある、能登演劇堂で無名塾公演「いのちぼうにふろう物語」を観劇しました。


無名塾

とは、仲代達矢さんが奥さんの隆巴さんと始めた役者の集団である。無名塾は、我々パンピーから見たら劇団、と言いたくなる手練れの役者の集まりだが、正確には劇団ではなく、役者集団となるらしい。

主宰の仲代達矢さんは御歳89歳。
現役で、今回も主演をつとめ、全30公演を毎日やっている。恐るべし。
仲代さんといえば、三船敏郎、千葉真一、三國連太郎、勝新太郎など、平成生まれの私でも名前を聞いたことがあるような方々と肩を並べる名優。『鬼龍院花子の生涯』や『切腹』『阿修羅のごとく』など、わたしがみたことのある映画は多くはないが、今見ても圧倒的な役者さんだ。だが、今の若い子たちは知らない子が多い。

わたしも知らなかったうちのひとりだった。
映画好きの人と話すと、皆「いまの日本の映画はダメ」と口を揃えて言う。
その度「ハイ出た、懐古厨〜ハイハイ黒澤派?小津派?好きな女優は山田五十鈴〜?」なんて思っていた頃があった。今の映画をこき下ろして昔のことばかり話す「映画好き」に辟易していたのだ。それはそれ、これはこれやろがい!と。

だがそんなに言われると気になる。
そんなすごいのか?昭和の俳優は。

んで見てみたんですよ。
これがすごかった。

話は逸れるが、昔の映画は、あくまでその映画の本筋、伝えたいメッセージ、登場人物の人間性を見せるために作られているように思う。
可愛いから、券が売れるから、人気があるからと実力のない俳優がキャスティングされることは、今ほどなかったのだろうとみていてわかる。
ぽろりとこぼす涙、震える手、訴える瞳、全てが、俳優を目立たせるのではなく、その物語を観る人の胸に刻むための道具にすぎない。本来役者とはそうあるべきで、それ以外は重要ではないはずなのだ。傑作と言われる昭和の映画をみていると、そこを改めて突きつけられる。

そんな、昭和の傑作映画の数々に出演していた仲代さんが、いい役者を育て上げるために奥様と立ち上げたのが「無名塾」

恥ずかしながら、つい4年前くらいまではわたしもその存在を知らなかった。初舞台で共演した渡辺翔さんが無名塾の俳優さんで、渡辺さんが稽古に参加した日、稽古場でキャストの一部がそわそわ囁いていたのを聞いた。「あの人無名塾らしいよ、やっぱ雰囲気が全然違うよね、芝居が全然違う」

ほぇー、無名塾ってそんなすごいんだ。役所広司さん、滝藤賢一さん、益岡徹さん、若村麻由美さん、、ほー。。、


でも、若い子は全然知らない。無名塾も、仲代達矢も。


以下ネタバレを含みます

「いのちぼうにふろう物語」は、山本周五郎の『深川安楽亭』をベースに、隆巴さんが脚本、演出をして上演された初演から、今回の公演は再再演となる。

舞台は江戸深川―「島」と呼ばれる無法地帯に建つ一膳飯屋。老いた主人が、ならず者たちの親代わりをし暮らしている。誰もが足を踏み入れないこの場所に一人の青年が足を踏み入れ…。

能登演劇堂公式サイトより


江戸の深川の無法地帯にある「安楽亭」
そこは、各々の理由で流れ着いたならず者たちの溜まり場だった。店主の幾造も前科持ちで、どこにも行き場がなく仕事もないプー太郎の下宿人たちに荷操り(にとり)の仕事をさせていた。
川を通って江戸へ運ばれる途中の荷物を川途中でかっぱらい、それを売り、金にする。安楽亭の荷操りの仕事は下請けの下請けみたいなもので、命懸けで盗んだ荷物を船宿の主人に売り、主人はそれを何処かに売り、それを見過ごすことで賄賂をもらう役人がいた。安楽亭は、半沢直樹でいうところのネジ工場だ。(わかる?この例え)
いつの時代も、自分の手を汚さずに金を稼ごうとする奴はいる。そしていつの時代も、泥水をすすって日銭を稼ぎ、危険が及ぶとトカゲの尻尾切りに遭う半地下の暮らしがある。(急にパラサイトである)

仲間内でする博打くらいしか楽しみもなく、ひっそりと暮らしていた安楽亭に、ある日突然まともそうな青年が流れつくところから、安楽亭の運命が変わっていく。


そもそも無名塾を知ったのは


わたしは4年前の初舞台『The Great Gatsby in Tokyo』で無名塾の渡辺翔さんと共演させていただいた。前述の通りそれまでは無名塾の存在も知らず、名前も聞いたことがなかったのだが、小さめの劇場の公演でひとり異様な存在感を放つ渡辺さんを見て「無名塾、只者ではないな」と思い、それ以降観た数々の舞台で(無名塾)と名前の脇に書いてあるキャストさんに遭遇するたび「なんなんだ無名塾…このレベルの役者が揃ってるって一体どんなところなんだ…!?」となり、いつか見てみたいと思っていた。

そして今回、渡辺さんが出演される、しかも能登演劇堂と聞いて、石川まで足を運んだ次第である。
以前からずっと行ってみたかった能登半島。
能登演劇堂。
 

一言で言うと、最高でした。
ですがそれは後述します。
ちなみに既にこの時点で3000字です。ここから先はさらに3000字ほど、オタク節が炸裂します。オタク許容の心の持ち主とネタバレOKの方だけお進みください。


オタ目線で語る無名塾


自分が女優とか表現者であると一旦忘れて、芝居オタクの目線で語ります。忖度抜きすぎて、どうかご本人に見つからないことを祈る。いや見つかってほしい気持ちもある//
全員漏れなくすごかったんですけど、全員分書くと4万字いきそうなので、特に印象に残ったキャストさんの感想です。

・安楽亭の主人、幾造が仲代達矢さん。
言わずもがな、生の仲代達矢を絶対に一度は見たかったのです。一番驚いたのは、ボソボソ呟いてもめちゃくちゃ聞こえるお声。あれどうなっとん?啖呵を切ればど迫力なのはいざ知らず、常にすぐそこにいる人に話しているテンションなのに、遠くのお客まで何を言ってるかはっきり聞き取れる。え、マイク内蔵?マイク内蔵幾造?(黙れ)
立ってるだけで威厳がある。天性という言葉で片付けたら失礼にあたるだろうが、生まれ持った覇王色は少なからずあるだろうと思った。それでいて「ッハハー」というあの、仲代さんのよくやるいいおじいちゃん(失礼)ぽい笑い方がかわいい。

・ビジュアルが圧倒的2.5次元!知らずの定七・川村進さん。
これを読んだオタクたちは、川村さんのビジュを見に石川まで行ってくれ。頼む。
これなんて刀剣?サラリと着物を着流してハラリと前髪が垂れる爆イケ武士です。最初座ってるときもなぜか定七だけピンスポ当たってるし、立ち上がったら13頭身くらいあるし(ググったけど187センチ)、人を斬り殺せそうな流し目で、演劇見るモードだったわたしの中のオタクが「ホンギャー!」と目を覚ましました。これ絶対全国のオタクに刺さるやろ…権力者の皆さんキャスティング頼む………お願いします…。

ほんでマザコンな上に鳥よ….小鳥を可愛がるんよ…

はいあざとい!!!!!!有罪!!!!!!!!


・知り合い目線抜きでいぶし銀ハードボイルド病弱!労咳持ちの剣豪・源三が渡辺翔さん。
源三はようじ職人。そういえばずっとなんか削ってます。労咳持ちといえば沖田総司が出てきてしまうわたしですが、なぜ剣豪はみな肺を患うのか、その謎を知るべく我々はアマゾンの奥地へ(略)
全員の中できっと一番優しく、人としての大事なものを失ってない人。泣いてる人に手ぬぐいを貸してあげたり、死んだ仲間にお経上げてくれとなけなしのお金を人にあげちゃったり。そして、なるほど、病気しんどくてずっと省エネだったのね…とわかる最後の大立ち回りが圧巻。舞台奥の森に、池にぶち込みながら全力疾走で走り去っていくところが萌えでした。そんで振り返ったら脚ながっ!!!!どんなとこに腰あんねん!!!!!!?しかも突然の笛!!!!!笛!?!?!笛吹けるの!?!!?ポテンシャルやば!!!!てかそこは草笛吹いてた定七じゃないの!?!へ!?!(混乱)

・インチキ坊主はなんでかみんな博打に強い。与兵衛が進藤健太郎さん
ハキハキと通る声で落語を見ているような、テンポの良いお芝居が印象的でした。無名塾の皆さんは全員本当に芝居への心意気が気持ちいいのですが、その中で、特に器用というか、相手の反応をみてアドリブで喋ってるような自然な印象を受けました。

・安楽亭を怪しむ役人・岡島が別所晋さん。
お若いのに仲代さんと相対する役人の役なんですが、タッパも大きく声がクリアでよく通るので、あの仲代さんの覇気にも定七の殺気にもやられない。映画『地獄の掟』では石橋蓮司さんが演じていましたが、全く別物でした。若くて勢いがあって、まだ諦めのない、自らの正義を信じている岡島。ゴロツキたちを十手で捌くのがかっこいい。巻き舌かっこいい。

・のんだくれ政次は大塚航二郎さん
ずっと酔っ払って寝転んでる。博打で与兵衛に負けまくるのが可愛い。すぐビンタする。政次はどんな生い立ちなのかわからなかったけど、酒飲んでDVして離縁されたんだろうな…という人格が見えた(違ったらやばい)ちなテルマエロマエくらい顔が濃い。

・一瞬で途端に胡散臭い!吉田道広さん
丸亀製麺とかJAのCMにも出てらっしゃるイケメンの俳優さんで、出てるはずなのになかなか出てこないなーっておもったら二幕で登場。途端にやたら声の通る二代目!!!!良い笑顔!!!申し訳ないけど胡散臭い役やらせたら天下一品だとおもうんですよね、本当にありがとうございます。

他の皆さんも一人一人、全員が自分の役を生きていました。30公演あるけど、「よーし今日もこなすぞー」という気持ちでやってる人は一人もいないと、みていてわかります。

富次郎という、突然フラッと現れた青年の命懸けの恋に、全員がそれぞれの理由で己の命をかける。こんな自分でも誰かの役に立てるかもしれない。役に立ちたい。こいつのためにこのいのち、ぼうにふろうじゃねぇか。それじゃあ、行ってくるよ!なぁに、すぐ帰ってくるさ!スズメ頼んだぞ!と目を輝かせる姿がもう「ふっ……フラグーーーーーーー!!!!!」すぎて涙が止まらなかった。なんかおかしいなぁと思っていた幾造さんの気持ちよ。。

血まみれで戻ってきた定七の、みんなの最期を語るシーンも、あえて見せず想像させる演出が泣かせてくる。会ったばかりのよく知らない男のために、いのちをぼうにふったことに、後悔してる者は居なかったのだろう。初めておとなの仕事を任せてもらえたと目をキラキラさせて、あとは頼んだよ、定七さん!!と、まだ子供だとおもっていた仙吉まで。。

そして、残っていたメンバーで、富次郎を逃すために、擦り切れたいのちを捨てにいく。
この時、いよいよ奥の大扉が開くのである。


能登演劇堂


は、七尾市と仲代達矢さんのコラボ劇場なのですが、これがすんごい!!
舞台奥が開いて森に繋がっているのです。噂に聞いていて一度は見なければとおもっていましたが、想像以上でした。

周りは包囲され、御用提灯に囲まれている。
源三、文太、由之助の3人は、それぞれの戦い方で大立ち回りがある。開いた瞬間から大音量の虫の声が響きわたる。
奥の森には池もあり、そこを通って3人が駆け抜けていくのだが、これがまた、かなり奥深くまで走っていくのだ。すごい遠くまで全速力で。

舞台の逃げるシーンって、必然的にちょっと徐行になる。全速力のふりをしながら、徐行だ。だって舞台は、奥行きも横もそんな何メートルもないから。

それが、あるのだ。


森の中に全速力で逃げていく3人の後ろ姿のリアリティがものすごい。
そりゃそうだ。死ぬかもしれない。殺される。でも、富次郎は逃さねばならない。ただでは殺されないぞ、少しでも時間を稼がねば。遠くまで、遠くまで、逃げるぞ。全速力で。
走って戻ってくると3人は水浸しだ。それもそう、深川は川に囲まれた地帯なのだ。逃げるとなればそうなるに決まってる。そのグズグズの状態での死闘が、あの立ち回りなのだ。このリアリティは、普通の舞台では絶対に出せない。
そういう、演劇に対する真面目さ、本気さが、役者の指先から漂ってくる。演出と演劇堂が、奥に広がる森までもがその芝居を下支えしている。これが無名塾か。何千人のなかから選ばれて3年間バイトもせずに毎朝6時からランニングをして朝から晩まで芝居に向き合い、仲間が脱落していく中で残った、本気の役者集団。

天晴れとしか言いようがない。
昭和の映画を見ていて感じる芝居のホンモノのメッセージ。人間のかわいさ、かわいそうさ、愛おしさ。みじめさ、いじらしさ。ただ芝の上に居る、芝居のあり方。その本質の部分を、ちらりと垣間見たようでした。


最後に

ざんばら髪になった幾造と息も絶え絶えの定七が安楽亭の2階に追い詰められる。源三たちも死に富次郎を逃がすことに成功した二人には、文字通りもう何も残っていない。全てを悟り、しかし全てをやり切った幾造が、館を取り囲む大勢の御用提灯を見て言う。

「定、みろよ、
まるで祭りだぜぇ」


もう〜〜〜オラはなんだか、悲しい。(崩壊)
いや、もちろん話は悲しいのだけど。


劇場は、年配の方で溢れていた。わたしと同世代の人が見えると嬉しくなるくらい、本当にシニアが多い。あんなに素晴らしい作品で、700人くらいが連日見ているはずなのに、SNSには観劇レポがほとんど上がらない。Twitterで何度エゴサしても、感想を書いてる若者は本当に少なかった。

若い人は、知らないのだ。この北陸石川にこんな素晴らしい劇場があることも、こんなに素晴らしい役者集団の舞台があることも、仲代達矢という、歴史に残る名優のことも。

泊まっていた和倉温泉も、シャッターが目立った。立ち並ぶ宿では、宿泊客にほとんど会わず、露天風呂はほぼ貸し切りだった。わたしは快適だったが、なんか寂しい。こんな、素敵な場所を独り占めしていることに、申し訳なさのような、さみしさのような感情が湧いてくる。

カーテンコールは、大勢のエキストラさんの家族や友人が手を振ったり、仲間内で話したりして、大盛り上がり。なんだろうこの光景、どこかで見た。
そうだ、
地元のバレエの発表会。


つらすぎる。
そんな、そんなんじゃないんだ。本当に、たくさんの人に見てもらって、賞賛、絶賛を受けるべき舞台なんだよ。やめろよ、ぺちゃくちゃおしゃべりをするんじゃない。

一般のお客で芝居オタクのわたしは、キャストさんを前にしてぺちゃくちゃよく喋るジジババの頭を後ろからひっぱたきたい気持ちをグッと堪えて、いろんな感情がぐちゃぐちゃになってボロボロ泣いた。(口悪いねごめんなさい!)
盆が回って安楽亭のメンバーがポーズで出てきた。あぁ、こんな素晴らしい芝居に出会えてよかった。いつも途中でサボるカーテンコールの拍手も、ずーっと鳴らせた。どうかこのおしゃべりをかき消して、最大の感謝があの人たちに、この拍手に乗ってとどきますように、と。



いち芝居ファンとして、権力者の皆様へ

どうか、いろんな作品を、ミュージカル刀剣乱舞を、もっともっとたくさん、能登演劇堂でやってください。2.5オタクは石川だろうがどこだろうが来ます。宝塚もいい。最高に活かせるとおもう。
あの劇場が有効に使われて、もっと若い人にたくさん知ってもらえますように。
無名塾の本気の役者たちを、もっとたくさんの人に見てもらえますように。全国の若き芝居好きが、10/10までの間に能登へ観に行ってくれますように。

羽田から40分、飛行機は一日2便でてます。能登空港から和倉温泉、七尾市まではふるさとタクシーで1600円で40分くらいで行けます。和倉温泉駅から、七尾駅から、金沢駅からは、能登演劇堂までは観劇バスがチケットと一緒に予約できます。遠いようだけど、本当に簡単に行けます。自然が多く、海も山もすぐそばにあるけど何もない。余計なことを一切考えないで済む、一人旅するには最高の場所でした。


どうか、一人でもいいから
このレポを読んで、「いのちぼうにふろう物語」観に行ってくれたら嬉しいです。
チケットはこちらから買えます。


(回し者じゃないよ)

MARISA


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