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【小説】その街は眩し過ぎて

六本木の夜は、明るい。
昼間よりも眩しくて、キラキラしていて、楽しくて、刺激的で、忙しくて…疲れる。

「マキちゃんと踊るのって正直、彼女とアレするより気持ちいいんだよね」

性格や身体に相性があるというけれど、ダンスにも相性がある。会話はどうであれ、彼と踊るのは気持ちがいい。

一曲終わりバーカウンターに座る。
メニューを眺めていると、キューバンサルサの人気曲が流れはじめた。すかさず白シャツの男がお誘いに来る。

「もちろん♪」
つい、いつものセリフが口から滑り出る。

サルサのレッスンにはずいぶん通った。このリードには、こう委ねる。
ただ私は…断り方を教わっていなかった。

手のひらから伝わる白シャツ男の自信。グイと引っぱられる強引なリード。

(ニ・ガ・テ)

キューバンサルサの流れるバー。
仕事帰りの金曜夜、踊りに来るのは私にとってはエクササイズで、スポーツジムに通うようなもの。

自分から話しかけることはほとんどない。友達と呼べる人はそこにはいなくて、顔見知りだけが増えていった。

目の前にツヤっと揺れる長い髪。
胸元のネックレスのチャームは、すぐその先の谷間に吸い込まれそう。
高いヒールのつま先。
すべてがキラキラしている。

「マキは、押しに弱そうに見えるから」

バーカウンターのライト、飲み物のグラスを伝う水滴さえ、鬱陶しく思えた。
ロッカーから荷物を取り出し、バーを後にした。


逃げるように、地下鉄へともぐり込む。
駅のホームも電車の中も眩しくて目を細める。

電車の窓に映る自分の姿。
小さなピアスがチラリと見える短い髪。
鎖骨まで隠れるカットソー。
ストレッチパンツの先のスニーカー。

窓に映る耳もとの小さなピアスを外した。


駅に着き、電車を降りてもなお、街の明かりが眩しい。クラクラする。

ようやくマンションのエレベーターに乗り込み、薄暗い箱の中、ホッとして目をつむる。
ガタン。
エレベーターホールの電球は今にも消えそうにチカチカしている。

カチャン。ガ…ッチャン。
二つの鍵を開け、部屋に入る。
…真っ暗。
そう、いつだって真っ暗。

スニーカーを脱ぎ、バッグを放り投げ、窓際に駆け寄る。カーテンの向こう側、いつもの風景。いつものサイン。
無機質な白いネオンサインが、今夜は特別にあたたかく感じる。

『スーパー オオゼキ』


眩しくて、キラキラしていて、楽しくて、刺激的で、忙しくて…疲れる街、六本木。
そのキラキラは私には眩し過ぎて。

薄暗いエレベーター、電球のチカチカするエレベーターホール…真っ暗な部屋。そのグラデーションが暗くなるほど、自分を取り戻す。
そして、部屋のカーテンの向こう側、白くあたたかいサインこそ、私の心を包み込む明かり。

「マキは、押しに弱そうに見えるから」
あの子の声が聴こえた気がした。

『スーパー オオゼキ』の明かりが私の心をドスンと包み込む。

どすこい!!
「私は、押しに、弱く、ない」
ゆっくりとつぶやき、深く深く呼吸をした。


(1,189文字)


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ピリカさんの企画「冬ピリカグランプリ」に応募させていただきます。

初の小説ですが、審査員の皆さんが読んでくださると記されており、書いてみよう!と挑戦しました。誰にも読んでもらえない寂しさへの不安がなく書けるって、安心。笑





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