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鑑賞・読書ログ|女のいない男たち


二度読み、はじめました

以前読んだ本を、再度読むのにハマっている。
今までは一度読んだ本は永久に開くことはないと思っていた。
2回目を読むくらいなら、新しい作品を読んだ方がいいと思っていた。

それは本だけではなく、映画にせよ、ドラマにせよ、だ。

例えば何度も金曜ロードショーで放送されるジブリ作品や過去の名作を除いて、ではある。あと、マイケルジャクソン『This is IT』と映画版『SLAM DUNK』は映画館で2回見たけれど。

新しい本や著者を探して、買って、読む、という行為はそれだけで知性が上がるような、価値のあるもののように感じる。スマホのゲームに没頭するよりは格段に。

だが、今本棚に静かに並んでいる、読み終わった作品を眺めていると、
「あれ、これどんな内容だったっけ?」
とストーリーを覚えているものが少ない。

だとすると新作を読むのと同じでは?
2回目だと新しい気づきや感じ方があるのでは?

というわけで二度読みの一番手に選んだのはこの本。

女のいない男たち 村上春樹

1回目に読んだ時に書いた記事👇

映画化されて大注目

こちらも最近ハマっているオムニバス形式。
その中で一番有名なのは映画化された『ドライブ・マイ・カー』だろう。

6編ある中の、一番手。
ただ短編なので、映画のように長くない。
映画を観た人からしたら、”あっけない”と思うかもしれない。

当たり前だけど映画は映画でオリジナルの設定やストーリーがある。
加えて、実は4編目の「シェヘラザード」との合作とも言える。
「シェヘラザード」のエピソードというか設定が、『ドライブ・マイ・カー』に組み込まれているからだ。気付いた時はニヤけた。

主人公の家福は小説の中ではもう少し3枚目というかくたびれた印象だったけれど、西島秀俊が演じるとは。。。カッコよすぎる。

小説では、家福とドライバーのみさきの細やか(ささやか)な交流が、細やか(こまやか)に表現されている。
なるほど映画化したくなる余白を残して。

お気に入りは「イエスタデイ」

ビートルズのイエスタデイの歌詞を関西弁にして歌い、完璧な関西弁を話す東京生まれ東京育ちの木樽(浪人)と、関西生まれ関西育ちだが完璧な東京弁を話す谷村(大学2年)のあるひと時の友情を描いた物語。

とは言え、今流行りのブロマンスではない。

木樽は自分の彼女のえりかを谷村に紹介し、付き合うように勧める。
木樽には少し変わったコダワリというか、若者にありがちなピーターパン的な思考がある。木樽は突然、バイトを辞め、姿を消す。

16年後、谷村はえりかと偶然再会し、木樽のことを話し、彼に思いを馳せる。

不思議とこういう、”語られる人”はいるもので、転校生で少ししか学校に居なかったA君とか、ちょっと変わり者のBさんとか。同窓会なんかあると、エピソードと共に思い出される存在は必ずいる。

それは好かれていようと、いまいと。目立とうと、目立たまいと。

自分の過去に思いを巡らせたくなる作品。

オススメは「独立器官」

世にも奇妙な物語テイストの1編。

医者で、ルックスも、ふるまいもすべてが完璧な男、渡会。
特定の女性はつくらず、常に複数の女性とスマートに関係を持っている。

だがその渡会が、ある女性に恋をした。

完璧だった渡会は次第に壊れていくのだけど、その壊れ方が異常というか想像を絶するというか。完璧だからこその、ふり幅がえぐかった。

―――「恋」とは何なのか。
―――「自分」とはいったいなにものなのか。

映像化したら、世にも~になりそうな感じも好き。

気になるのは「木野」

木野は主人公の名前であり、その主人公が開いたバーの名前でもある。
木野は妻が同僚と不倫している現場に出くわし、会社を辞めて、叔母がやっていた店を引き継ぐ形で、木野をオープンした。
木野へやってくる常連客カミタ、どこか危うい感じのする男連れの女性客、いつの間にか居座った猫。
ある日、木野は店の周りで三度ヘビを見かける。
そして突然カミタが、しばらく店を閉めて遠くに行くよう木野に命じる。

逃げるように暮らす木野は次第に自分と向き合うようになる。
心の奥底に押し込めていた、気付かなかった、いや気付かないようにしていた思いと対面した時、木野はカミタの助言の意味を理解するのであった。


木野がどういう人物なのか、とっても気になる。
映像化するとすれば、誰あたりがストライクなのか。

物静か、朴訥、渋い、スポーツ体形、エロ、ヒゲ……あたりは必須な気がする。

ただ、つかみどころのなさがある。
存在感があるようで、ない。

だから気になる。木野に会いたい。

女のいない男たちは、とにかく不安定な男たち。

結局どの物語に出てくる男たちも、とにかく不安定で、
『自分が何者かを探している』

これが村上春樹の世界観なのか。

女を失って、そのことに向き合えずに苦しんで、最後は涙してしまう。
女に振られて、自分を失ってしまう。
女がいつかいなくなると感じて、哀しくなってしまう。

そんな、弱い男たちがいっぱい。
女が恋焦がれるような男は、一切いない。

それが、リアル、かもしれない。

知らんけど。

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