【2021/8/17】夏物語/途中報告
川上未映子さん著「夏物語」
10日前に買って、今ちょうど半分くらいまで進んだ。
夏物語を読みながら、夏が過ぎていく。
よくある感じの夏にはなりそうもない夏に、梅雨の再来みたいな意味の分からない長雨が続き、延びに延びた自粛期間は伸びに伸びたラーメンみたいにだらしない味がしていて、本を読むのに適した時間ともいえる。
俗にいうお盆期間に入っても、我が一人暮らしの家には顔を出してくれる祖先はいないけれど、ふとおばあちゃんやおじいちゃんとの思い出が蘇ったりはする。
おじいちゃんはいつも家にいて、釣りが趣味で、その釣ってきた魚がよく食卓に並んでいた。おじいちゃんは無口でちょっと怖かったけれど、わたしが美味しそうに魚を食べると喜んでくれた。その風景は子どものわたしにとっては当たり前で何とも思わなかったが、大人になってから気付いたり知ったりすることが多々ある。おじいちゃんはその時すでに定年退職をしていたからずっと家にいたと言うこと、老後の楽しみが釣りだったこと、もともと教員で校長にまでなった人だったこと。
おばあちゃんは料理が上手で、お茶(茶道)の先生だった。立派な茶室もあって、よくお茶を立ててくれた。お茶は苦かったけれど、茶菓子が食べたくて我慢して飲んでいた。今となっては、習ったはずのお茶のたて方も茶碗をどっちに回して飲むかすらも、全然覚えてないけれど、茶室の空間はよく覚えている。およそ50cm四方の畳を持ち上げると釜を置く炉があって、その特別なつくりにワクワクした。お茶をするときにしか開かれないその畳は秘密基地への入口にも思えた。
いつの夏だったか帰省したとき、本がたくさん置いてある狭い部屋に入って色々と物色していたら、おじいちゃんがおばあちゃんに書いた手紙、まぁ今でいうラブレターと呼ばれるものが出てきて、とても興奮した覚えがある。おじいちゃんはラブレターを書くようなタイプに見えなかったし、その内容がどっちかというと情熱的な感じだった(詳細は覚えていないけれど)ので、そんな時代があったのかと盛り上がったのである。でも当人に聞けるはずもなく、ニヤニヤだけした。もしかしたらおじいちゃんはその時には亡くなっていたかもしれない。おじいちゃんとおばあちゃんが職場恋愛(どちらも教員)だったこともその時知った。
小説の話を書こうとしたのに、自分の祖父母の思い出ばなしになってしまったが、この小説はそういう話なのである。
わりと狭い世界で話が進んでいく。「夏物語」は自分(主人公)と、姉とその娘、死んだ母と祖母を中心として、仕事関係の人、友人(と呼ぶかあやしいレベルの)など身の回りで起こる出来事や自分の思想を綴った、日記のような小説である。
そこには突拍子もないようなことも、飛んだアクシデントや事件も起こらない。でも、わたしはーおそらく特に女性はーどうしても読み進めてしまう話になっている。
女性だったら考える、結婚、妊娠、出産、子育て、母娘、生理、仕事、そんなテーマが生々しく表現されているから。これは川上さんのドキュメンタリーなんじゃないかと思うほど。
「女」とはなにか、「母」とはなにか、「出産」とはなにか。
これから話はおそらく一番のテーマに向かって一気に舵を切ってくる様相。わたしにとっても他人事ではない話。
いつまで経っても母の娘であり、でも一人の女でもあるわたしだが、まだ母ではない。まだかもしれないし、一生ならないかもしれない。そういう岐路に立ってはいるが、答えは出ないし、出さないといけないわけでもない。
だが、読みたいし、読むべき本であると思っている。
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