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Mr.CURRYMAN

 ここは、凄くこぢんまりとしたカレー屋さん。僕は、ここでカレーと呼ばれ、食べ物として毎日お皿に乗せられている。
 よく来るお客さんがいるんだけど、時々凄く悲しそうな顔をしている。ある時は、ずっと泣いていた。
 僕は、その娘を少し楽しい気持ちにさせたくて、神様に頼み込んで人間になった。
 今日もその娘は店にやって来た。

「あれ、カレーは?」
 悲しそうな顔から、涙が溢れそうになってきた。
「カレーは、食べちゃったんだ。ごめんね。お腹が空いててさ。」
「ひどい!私もお腹が空いていたのに!」

「実は、僕がカレーを食べちゃったんじゃない。僕がカレーだったんだ。」
秘密にするつもりだったのに、つい言ってしまった。
「はあ?」
「君が泣いていたから、見ていられなくなって。心苦しくて神様にお願いして人間になったんだよ。」
「ナンパなの?」
「違うんだ。どうせ僕は、カレーに戻らないといけない。人間でいられるのは、君がここにいる時だけだ。君がこの店から出たら、またカレーに戻っちゃうんだ。」
「人間になったところで、あなたに一体何が出来るって言うの?」
 カレーなりに、僕は考えた。そうだ!店主がよく占いをやってたな。
「君の未来を占ってあげるよ。」
 カレー男は、机の上にタロットカードを並べた。
「うん!悪くないね。来月辺りに、凄いことが起こるよ。来年の今ごろは、今よりもっといい生活をしている。
 何か起こっても多分、大丈夫。なんとかなる。そういうもんだよ。」
「え、何なの。もっと詳しく聞かせて。」
 ごめんなさい、お嬢さん。本当は占いなんてできないんだ…。
「君は、占い師に未来を決められたいのかい?何が起こるかなんて、知らない方が面白いんじゃないの?一度観終わった映画、すぐにもう一度観たいと思うか?」
「もお。カレーが食べたかったのに、イライラしてくる!」
「じゃあ、僕はカレーに戻るよ。それで笑顔になってくれるなら。」
「もう知らない!家で作って食べる!」

 そう言い残して、僕のお気に入りの常連さんは帰っていった。
 また来ると良いけど。


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