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📖#4 ヤバすぎて禁書扱い!?薄幸美女の宮廷暴露本『とはずがたり』

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【前回までのあらすじ】

父親含め親戚一同が大賛成する御所さまとの結婚に抵抗できるはずもなく、とうとう御所さまに体を奪われてしまった14歳の二条ちゃん。それでも二条ちゃんの心の中には、初恋の実兼さねかねがいるのだった。

御所さまのおきさき様の東二条院ひがしにじょういんさまが、御所さまと私の関係を知って機嫌を悪くして、色んな人に私の悪口を言っているみたい。
私にはどうすることも出来なかったことなのに。本当にいたたまれない。

私が御所さまの寝室に呼ばれないことはないけど、ときどき違う女性が呼ばれる日もある。
そんな日が続くと、私だって不安になってしまう。
でも、他の女性たちのように「どうして私のところにいらっしゃらないのですか」と、御所さまに問い詰めることは私にはできない。

それどころか、お仕えする女房として、御所さまの寝室に別の女性をご案内させられることもあった。
昔から決まっている女房の習慣とはいえ、こんなことをしなければいけないなんてつらい。

御所さまの正妻で、二条ちゃんに嫉妬していた東二条院ひがしにじょういんは、このとき40歳。
御所さまの皇女を3人産んでいますが、皇子は産んでいません。
まだ14歳の若くて美しい二条ちゃんに嫉妬してしまうのは仕方ないですね。

東二条院が二条ちゃんを嫌うもう一つの理由として、御所さまは二条ちゃんの母である大納言典侍だいなごんのすけ(すけだい)から性のてほどきを受けています。

御所さまの最初の夜のお相手であり、初恋の人でもある二条ちゃんの母。
つまり、東二条院は、この母娘二代に負けているのです。
そりゃあ、二条ちゃんが憎らしくてたまらないですよねー。

東二条院「親子そろって、御所さまに愛されるだなんて!!」
と、袖を噛んでキーッとなってるかもしれません。

ちなみに、東二条院は御所さまの叔母おばさんで11歳年上。
御所さまの母(大宮院)が、東二条院のお姉さんなんです。
東二条院は姉の息子(甥)の正妻になったんですね。

御所さまには他にも妻がいて、身分が高い順でいくと、ナンバー1は東二条院、ナンバー2と3がいて、二条ちゃんはナンバー4のあたり。
お仕えする女房の中では、二条ちゃんがナンバー1の身分です。

二条ちゃんは、お后様のようでありながら、お仕えする女房でもあるという、なんとも中途半端な立場なのです。

現代でいうところの、いいところのお嬢様で社長の愛人になっている美人若手社員って感じでしょうか。

二条ちゃん、扱いにくいなー!!
私が先輩だったら、どうやって扱ったらいいか困る後輩だな。

御所さまの奥様でもあり、お仕えする女房でもある二条ちゃんは、お后様たちからも女房たちからも好かれてはなかったんじゃないかなー?

お妃様「あの小娘、私よりも身分が低い大納言の娘のくせして、御所さまに気に入られてるんじゃないわよ」
女房「なんで大納言さまのお姫様が働いてるのよ。余計な気をつかわなきゃいけないじゃない」

ややこしい立場ってだけでも面倒くさいのに、おまけに若くて超美人で、生まれる前から御所さまに愛されていて、他の男性からもモテている。しかも、プライド高め。
……二条ちゃん、友達いないんじゃないかな。


二条ちゃんの交友関係を心配するのはさておき、この後、東二条院が御所さまの姫様を出産したり、御所さまの父の後嵯峨ごさが法皇が病気で亡くなったりします。

このときの数々の儀式やら事件やらの描写が細かくて、この日記がただの暴露本ではない、歴史資料としても重要なことが分かります。
二条ちゃんは美しいだけじゃなくて、とても賢いんですね。

ストーリーに支障ないので、詳しいシーンは、このnoteでは割愛します。


後嵯峨法皇さまが亡くなったあとの御所さまの悲しみはとても深くて、夜も昼も泣いている。
お仕えする女房たちも、もらい泣きしてしまうほど。

私のお父様は9歳のときに後嵯峨法皇さまの目にとまり、寵愛ちょうあいを受けて特別に出世を許されたので、お父様は後嵯峨法皇さまの墓所に毎日お参りしていた。

そんなお父様が御所さまに、出家をして大納言のお仕事を引退したいとお願いしたけど、御所さまは許してくださらなかった。

それから、一晩だって女性を欠かしたことのなかった女好きのお父様が、女性もお酒もしなくなって、病気になってしまった。

このとき、私は御所さまの御子を妊娠していたから、つわりで体調が悪かったけど、お父様が大変な状態だから言い出せなかった。

一人でお見舞いに行くと、私の様子を見たお父様は私の妊娠を察したようで、亡き後嵯峨法皇さまのもとへ一日も早くいきたいと諦めていた命をのばすために、色んな神社やお寺に延命をお願いした。

お父様は自分の命が惜しいのではなく、御所さまの御子を妊娠した私の行く末を見届けたいのだと思う。
お父様にこの世への執着を作らせてしまった私は罪深い。

二条ちゃんは御所さまの子を妊娠しました。
敬愛していた法皇さまが亡くなってしまって、「もう死んでもいいや」と思っていたお父様は気持ちが一変。
何がなんでも自分の娘の出産を見届けたいと思い直しました。

この時代、関東の鎌倉では、日本刀を片手に武士が自分の武勇で出世して、息子に後を継がせているっていうのに、天皇中心の京都では、平安時代と変わらず、娘を天皇に差し出すことで、自分の出世を期待しています。
貴族の世界ではこれが普通なんでしょうけど、娘を犠牲にして出世するなんてかっこ悪いですねー。

お父様は、自分の妻と娘、二人も御所さまに狙われているっていうのに、嫌がるどころか喜んでいるところが、なんとも気持ち悪いですねー。

私の妊娠を知った御所さまは、さらに私を愛しいと思ってくださったみたい。
でも、これもいつまで続くのかしら。御所さまの気持ちは全然信用できない。

御所さまに仕えていた別の女性が、御所さまの御子を出産したときに亡くなってしまったことが、他人事とは思えずに恐ろしい。私ももしかしたら……。

お父様が亡くなってしまったら、実母のいない私は身寄りがなくなってしまう。
そうなったらどうなってしまうのか。

御所さま「何もかも変わってしまう。つまらないことだな」

寝室で二人きりのときに、御所さまは涙を流しておっしゃった。

御所さま「あなたの父も亡くなってしまうだろう。そうなったら、あなたは頼りにする人がいなくなってしまうね。だから、私だけはあなたに愛をそそいであげよう」

それから間もなく、お父様は亡くなった。

御所さまは、二条ちゃんのことを考えているのかいないのか。

妊娠中でただでさえ情緒不安定なのに、追い打ちをかけるように最愛の父が亡くなるかもしれないと心細い二条ちゃんにむかって、

「あなたの父は亡くなるだろう。そうしたら、あなたは独りぼっちだね」

と言ってしまえる。
御所さまに人の心はないんでしょうか?

その後に、
「でも、私だけはあなたを愛してあげるね!」
って言われてもなー。

お父様は亡くなる前、私に

お父様「あなたが2歳で母親と死に別れてから、父親の私だけがあなたを心配してきた。他にもたくさん子どもはいたけど、あなただけに愛情をそそいだのだよ。この世は思うようにならないから、もし御所さまや世間に対して恨めしいことがあって、生きていたくなくなったら、すぐに出家しなさい。そうすれば、自分の来世の助けになるし、父と母の供養にもなるから。頼る人がいないからといって、御所さま以外の人にお仕えしたり、どこかの家の女房になってはいけないよ。出家せずに遊女になってもいけない。出家したら、どんな手段で生き抜こうと自由だけどね」

と、しつこく繰り返した。
お父様の最期の言葉は、私としっかりと目をあわせて

お父様「あなたはどうなるんだ……」

だった。

お父様は最期まで二条ちゃんを愛して心配してくれました。
そして、おそろしい呪いの言葉を残していきました。

  • 御所さま以外にお仕えしてはいけない

  • 御所さま以外の男性と一緒になってはいけない

  • 世の中を生きていけなくなったら出家しなさい

意識したのかどうかは分かりませんが、二条ちゃんはお父様の残した言いつけのとおりに生きることになるのです。

母を亡くしたとき、私は2歳だったから覚えていないけど、お父様はずっと私を愛してくれた。

朝に鏡を見るときは「私がこんなに美しいのは誰に似たからなのかしら」と思うし、夕方に着物を袖に通すときは「誰のおかげでこれほど美しい着物が着られるのかしら」と思う。

どれも、美しくてお金持ちなお父様のおかげ。
お父様への恩は海よりも深い。

二条ちゃんのファザコンっぷりと、プライドの高さがうかがえるシーンです。

自分でも認めるくらい美しくてお金持ちだったら、さぞかし幸せ人生になるのだろうなと思いきや、二条ちゃんはこの後、御所さまのせいで、何度もとんでもない目に遭います。

名家出身のお金持ちで超絶美女であっても、幸せになれると限らない。
『とはずがたり』の時代も現代も同じですね。



続きます。


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