愛しい時間。
こんなに愛おしい時間って、今まであっただろうか。
最近、お腹の赤ちゃんの性別が分かり、ついに我が家で命名会議が開かれた。
子どもの名前を考える。それは私にとって、ずっと憧れていたことで、子どもができる前から、事あるごとに自分の子どもに名前をつけるなら、どんな名前がいいか考えてきた。
そしてついに、その瞬間がきた。意気揚々と始めた名前付けだったが、いざ始めてみると、それはなかなか骨の折れるものだった。
私はとにかく、好きな漢字や響きなどをあげて、それらをどう組み合わせるか考えた。しかし実際やってみると、想像以上に組み合わせは無限で、果てしなかった。
一方の夫は、画数を考えて当てはまる漢字をあげ、それらを組み合わせているようだった。
あんなに楽しみにしていた名前付けなのに、私の方があっという間に根をあげ、夫の方がコツコツとそれを続けている。
しかし、意気消沈している私を見かねてか、夫が私の好きな漢字で、画数のいい字を選んでいくつか組み合わせてくれて、なんとなく名前が絞れてきた。
そうすると、少し心に余裕が出てきて、ふと忘れていた大事なことに気づいた。そうだ、名前って自分の好きな文字を入れるだけじゃない。どんな子に育ってほしいか、そんな願いを込めて付けるものじゃないか。
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親に自分の名前の由来を初めて聞いた時、どんな思いを込めてつけてくれたのかを知って、自分の名前が好きになった。
この子にも、名前の由来を聞かれた時に、ちゃんと自分の込めた思いを伝えられるようにしたい。そう思って、今度は漢字の意味やイメージから選んでいくことにした。
そうすると、なんとなく自分がイメージしているものや、込めたい思いが見えてきて、それらに共通する漢字があることに気づいた。夫に話したら、同じ漢字を考えていたらしく、その字を軸に名前を考えることにした。
そして絞られた名前の候補。あと2つというところまできて、時計を見て手を止めた。さすがに疲れたから、また今度にしようかと、そのままベッドに入った。
しかし頭の中では、まだ名前のことがお互いあったようで、布団の中でさらに話し合いを重ねた。
俺はね、こんなふうに育ってほしいなっていう思いを込めて、この組み合わせがいいと思ったんだよね。
ふと夫が、候補の名前に込めた思いを話し始めた。それを聞いていると、自分たちの子どものことをこんなふうに考えているんだと分かって、心の奥がじんわりと温かくなり、思わず目頭が熱くなった。
そっか。私もね、こういうふうに生きていってほしいなって思ってるんだよね。だから、この漢字にその意味を込めたの。
私もその名前に込めた思いを話した。すると自分でも驚くぐらい、するすると言葉が溢れてきた。
あぁ、そうか。私はこんな思いを込めたかったんだ。話すことでそれに気づき、自然と名前は決まっていた。
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我が子のことを思い、どんなふうに育ってほしいか、生きてほしいか、頭の中に思い浮かべた時間。
願いや祈りを込めて、考えに考え抜いて、選んだ名前。
こんなにも誰かを思い、考えて、意見を交わし、それぞれの思いを共有して、大切なことを決めていく時間なんて、今まであっただろうか。
きっと、なかった。
子どもができたからこそ、これから出会える大切な我が子のことを夫婦で思い、考える、そんな温かくて素敵な時間が生まれたのだ。
そう思うと、お腹の中にいる赤ちゃんに思わず、ありがとうと伝えたくなった。
そして、お父さんとお母さんは、君のことを今、誰よりも思って、たくさんの時間をかけて、願いや祈り込めた名前を考えているんだよと伝えたくなった。君が生まれてくる前から、こんなに君のことを大切に思って待ってるんだよ。
もし君が大きくなって、自分の名前の由来を尋ねてくれる日が来たら、精一杯伝えよう。私たちの君への思いを。
そして願わくば、自分のことを一番大切に思っている人たちが、すぐ近くにいることに気づいてほしい。何があっても、私たちはいつでも君の味方だ。
もしかして、君は恥ずかしがって、素直に受け止めてくれないかもしれないけれど。でも、それでもいいよ。私たちも君から素敵な時間をもらったから。
君がくれた愛しい時間にありがとう。