夢、諦めた

ずっとやってみたかったのか、ただ興味があって思いつきでチャレンジしたのか、どちらなのか今でもよく分からない。後者な気がしていたけど、前者な気もする。
とにかく言えるのは、私はそれが好きで好きで仕方ないってことだ。
それに憧れて、夢を見て、人生の一部だったし、今もそう。そしてこれからも。

私は、夢を諦めた。

大学を卒業して就職したのは飲料メーカーだった。1番大好きなわけじゃなかったけれど、それでも他のものよりは好きだと思えたし辞めた今も商品を買い続けるくらいにはちゃんと愛してた。
だけど色んなことがあって、限界になってしまった。性被害に遭ったのだ。でもそれはまだ心の整理がついていないし、ここに書いても自分が傷つくだけなので書かないでおく。
とにかく限界だった。もう辞めるしか選択肢がないってところまで頑張った。
これまでのキャリアを捨てて転職するなら、どうせなら大好きな、それもとびきり大好きなことをしてみたかった。
そんなふうに思っていた時にたまたま希望の求人が出たので受けた。
自分の中ではまだ覚悟が決まっていなくて記念受験だったのだけれど、ありがたいことに最終面接までいくことができた。
あの頃のことを思い出すと、とにかく混乱していたように思う。面接で憧れの職場に足を踏み入れたこととか、信じられないようなチャンスが目の前にあることとか、ワクワクもした。でも、通勤に2時間かかること、持ち家を手離して引っ越すこと、朝7時から夜23時まで働くこと、子供の保育所が見つからないこと。全部全部、全くクリアできそうになくて途方に暮れた。
私がやりたいこと、望んだ場所にいくこと、それをするにはあまりにも犠牲が多すぎるように思えた。
結局最終面接では経験不足が理由で落ちた。だけどその落とし方があまりにも優しくて、やんわりとあたたかい思い出として胸に残ってくれるはずだと思った。この自信を胸に、どこに行ってもやっていける気がした。

経験が不足しているなら経験を積もうと思って、パートだけれど近い業種に転職してみた。
なぜパートなのか?前職での被害によって、病気になってしまったからだ。
動けない日もあるのでパートでしか働けなくなっていた。
こんな状態なのに1番やりたいことなんてできるはずない。そんなの分かってる。
今はじっくり経験を積みながら身体を癒して、またチャンスがきた際にはそれを掴めるだけの体力をつけようと思っていた。
幸い新しい職場は楽しくて、毎日幸せに働いている。

だけどもう、バリキャリのような生き方は自分には無理なんだろうな…とぼんやり思う。
それは色んな理由があるけど、1番はやっぱり病気になってしまったことだ。
本当は思い切り仕事がしたかった。やりたい仕事をやりたいだけしたかった。
努力すればなんだって手に入った。頑張ってできないことなんか何一つなかった。
だけど、本当に無理なこともある。努力すればすべてが手に入ると思える人生だったのは、私が恵まれていたからなのだ。
頑張っても無理なことはある。本当に、本当に無理なことはある。

大好きなことを仕事にして、そしてそれが天職だと思える人っていったいどれくらいいるんだろう。

私は夢を諦めた。
だけど、それで人生終わったりなんかしない。これからもいっぱい働いて子供たちとあそんで、精一杯頑張って生きていく。
夢を諦めるのは失恋とは全然違う。
こんな痛みは知らない。刺すような痛みじゃない。ぼんやりと、ふわふわと痛いのだ。
この痛みがなくなることなんてあるのかな。
でも痛みとともに生きていくのもいいかもな、と思ったりもする。

それを抱えて一生懸命生きると思えた自分が愛おしい。

明日からも頑張る。諦めた夢に恥じない自分になるのだ。