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イギリスの家には名前がついている~『Moonflower Murders(ヨルガオ殺人事件)』を読んで~

『カササギ殺人事件』から2年。クレタ島でホテルを経営する元編集者のわたしを、英国から裕福な夫妻が訪ねてくる。彼らが所有するホテルで8年前に起きた殺人事件の真相をある本で見つけた──そう連絡してきた直後に娘が失踪したというのだ。その本とは名探偵アティカス・ピュント・シリーズの『愚行の代償』。それは、かつてわたしが編集したミステリだった……。巨匠クリスティへの完璧なオマージュ作品×英国のホテルで起きた殺人事件! 『カササギ殺人事件』の続編にして、至高の犯人当てミステリ!

アマゾン『ヨルガオ殺人事件』の紹介文より


アンソニー・ホロヴィッツのベストセラー『Magpie Murders(カササギ殺人事件)』に続いて、その続編である『Moonflower Murders(ヨルガオ殺人事件)』を、オーディブルとキンドルの合わせ技で読了。

ウォーキング中・料理中・草抜き中はオーディブル、就寝前や電車内ではキンドル、家でゆっくりできるときは両方使って聴きながら読むという、TPOに合わせたハイブリッド読書でスピードアップできました。(ただそのせいで他の本との並行読みは困難に…ww)

さて内容は何を言ってもネタバレになるので書きませんが、前作に負けず劣らず面白かった! MagpieもMoonflowerも、単なる謎解きではなくて、繊細で複雑な人間関係、特に何組もの兄弟姉妹の関係が、愛憎共にリアリティをもって描かれていて秀逸。読むべし。以上!

さて、ここからは蛇足をちょっと。

今回読んであらためて気づいたのが、「イギリスの家には名前がついている」ということ。日本だってマンションやビルには名前がついているけど、一般の人が住む戸建ての住宅は普通住人の苗字から「〇〇家」「〇〇宅」と呼ばれるだけで、家そのものに固有名詞は無い。自宅を「〇〇庵」と名付けた、昔の文人ならいざしらず。

でも、たとえばこのシリーズの主人公スーザンの妹ケイティーの家には「Three Chimneys」(三本の煙突)という名前がついている。事件の被害者の姉夫婦の家は「Heath House」(ヒース[植物の名前]の家)だ。作中小説の登場人物である女優が住んでいるお屋敷は「Clarence Keep」(クレアレンス[人名]の砦)。やはり作中小説の登場人物である医師夫妻の家は「Church Lodge」(教会の守衛所)、といったぐあいに。女優を除き、みな大邸宅ではなくて一般的な中流家庭の住宅だ。【*訳書を参照していないので、家の名前の訳語は適当です。悪しからず。】

考えてみると、戸建ての家に名前をつけるのは、そんなにおかしなことではないのでは?と思う。逆に、なんで日本ではつけないの? たとえばマンションの名前だったら、けっこう面白いのがたくさんある。(実際に人が住んでいる場所の固有名詞なので例示は控えますが…)

他にぱっと思いつくのは、(やはり小説だけど…しかもカナダの…)たとえば赤毛のアンは「グリーンゲイブルズ」(緑の切妻屋根)という名前の家に住んでいて、それは彼女のアイデンティティの一部を形作っているとさえ言える。 

というわけで、わが家にも何か名前をつけてみてもいいかなあ、なんて思い始めている。だって家族内でもうちのことを指すとき「〇〇(地名)の家」で呼ぶのが普通で、ぜんぜん面白くない。レッドロビンの生け垣があるから、「赤コマドリの家」とか、丸く刈られたコニファーがあるから「まるこハウス」とか? 何かいいのを思いついたら追記します!

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