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「今の彼との結婚」より、別れを選んでも、だいじょうぶだよ。【後編】

【前編のあらすじ】
異動して東京に来たわたしは、Tくんを本当に好きなのか自分の気持ちがわからなくなり、別れを決意した。

▼前編はこちら


Tくんとの別れ


別れを決意したわたしは、家に帰ってすぐTくんにLINEをした。
「話したいことがあるの。電話できる?」

ただならぬ雰囲気を感じたのか、Tくんはすぐに電話してきてくれた。


わたしは、Tくんへのことを本当に好きか自信がなくなってしまったこと、その自信がないと付き合い続けるのは苦しいこと、だから別れたいということを、順番に話した。


Tくんは、わたしが話し終わるまで、一度も遮ることなくずっと聞いていた。もっと反応がくるかと思っていたのに、とても静かで……
電話の向こうでTくんがどんな表情をしているのか、想像がつかない。こんなにわからないのは初めてだった。


「わかった。さみしい想いさせて、ごめんね」


そして、涙まじりの声で、まだわたしを好きだと言ってくれた。

でも別れたことを負い目に感じる必要はない、
新しくすてきな相手を見つけてほしい、と。


同期として誇りに思ってる。
まりこなら、新しい職場でも、活躍できるね。
がんばって、ずっと応援してるから。



















電話を切ってから、わたしは泣いた。


なんて、取り返しのつかないことをしてしまったんだろう。

こんなにわたしのこと想ってくれてたのに。
忙しい中、会おうとしてくれてたのに。




知ってたよ。

会いに行ったとき、山積みになっている仕事を本当は片付けたいけど、わたしが帰るまでなるべくそんな素振りを見せずにいてくれたこと。



知ってたよ。

合鍵で入ったわたしが、帰りが遅くて待てずに先にシャワー浴びて寝てしまっても、翌朝、わたしを起こさないように頭を撫でてから仕事に向かってたこと。



知ってたよ。

わたしと会う日を忘れないようにするために、会社のスケジュール帳に「まりこ」って書いていて、だから上司にわたしたちが付き合っているのがバレてしまったこと。





余裕がなかったのは、わたしの方だった。


でも、自分が別れを告げたのだ。





25歳の誕生日 @東山動物園

Tくんと別れて、一ヶ月ほどたった8月6日。

わたしは25歳の誕生日を迎えて、
名古屋にいた。


気持ちを確かめるため。

名古屋で仲良くなった男の子(Nくん)のことがきっと好きなのだろう思いつつ、確信を持っていなかったわたしの、気持ちを確かめるため。
これは本当に恋愛感情なのか、それとも、女の子扱いされたかっただけなのか。相手はどう思っているのか。どう思われたいのか。これからどうするのか。


地下鉄を出ると、夏の陽射しが熱い。

東山動物園の入口。
Nくんとの待ち合わせ場所に向かう。



と、そのとき、スマホが鳴った。

TくんからのLINEだった。


思わず、立ち止まる。
別れたあの日から連絡を取っていないのに。
よりによって、今。


でも、いま見たら、だめ。
スマホをしまって、Nくんに会いに向かった。


* * *


Nくんと会ったのに、わたしはなかなか話を切り出せなかった。動物や鳥を眺めながら他愛もないことを話し続け、やっと日影のベンチに座ったのは、2時間後くらい。

自動販売機で冷たい飲み物を買って、やっと落ち着いた。

Tくんと別れたこと、わたしがNくんのことをどう思っているのか、東京に行ってから考えたこと……。わたしはすべてを話して、反応を待った。



Nくんは優しくて頭がよい。
今思えば、わたしの状況を、わたしよりずっと理解していたのだと思う。


手に持っていた飲み物からすっと視線を上げたNくんは、丁寧な言葉でわたしの気持ちを受け止めてくれた。
そして、”もし付き合うとしたら” どうなるのか、想定される3つの条件を示した。


1)名古屋と東京の遠距離恋愛になること

2)連絡は頻繁には取れないこと(Nくんが、マメなタイプではないから)

3)将来的に同居や結婚も考えるなら、早くても4年はかかるだろうということ(当時Nくんは、その後も勉強する道を希望していた)


まっすぐ、問われたのだ。


それでも好きだと、付き合いたいと、少女のように過去も未来も気にせずに言えたらそれもよかったのかもしれない。

でも、わたしにはできなかった。
ここまで丁寧にわたしに向き合ってくれているNくんに、何も気づかないふりをすることなんてできなかった。


「ありがとう」


そう言ったら、Nくんは「いいえ」と答えて、困ったように笑った。「むずかしいですね、恋愛って」


その後は、ベンチで少し話して、ライトアップされた夜の動物たちを眺めながら出口に向かった(ナイトZOO期間だった)。

そして、笑顔で手を振って、東山線に乗って帰ることができた。


* * *


Nくんには、すべてお見通しだったんだろうと思う。

わたしがベンチで話しながら「やっぱりちがう」と気づいてしまったことも、それでも引っ込みがつかなくなってしまったことも。名古屋にいたときにわたしがどんな恋愛をしていて、これからどうしたいと思っているかも。

そのうえで、わたしが傷つかないように言葉を選んで返してくれた。信じられないくらい、大人だった。


リセットされた心

Nくんのおかげで気持ちを整理できたわたしは、とても心がすっきりしていた。このままでもいいし、また誰かを好きになってもいい。

横浜の実家に帰ってごろごろ過ごすお盆。

スマホで開いたのは、
TくんとのLINE画面だった。


名古屋の東山動物園にいたあの日、Tくんから届いたLINEはこんな内容だった。

誕生日おめでとう!
元気?
俺はいま、にんにくの芽が乗った牛丼を食べてる。


にんにくの芽が乗った牛丼は、付き合って1年目の夏休みに京都へ旅行したときの思い出だ。Tくんの運転する車で京都から名古屋へ向かう途中、お腹がすいて、牛丼屋に入った。「二人で食べるから共犯だよね」と言ってにんにくの芽も食べたら、車の中がとても臭くなって、くさいくさい~うわあ外は暑い~と言いながら窓をあけて笑ったときの牛丼。


地下鉄東山線の中で、TくんからこのLINEを開いたわたしは、やっぱりNくんに会う前に見なくてよかったと思いながら「ありがとう、25歳になったよ」と返信していた。

その既読がついて会話は終わっている。




久しぶりに会いたい。


振っておいて会いたいだなんて、自分勝手かもしれない。でも、Tくんもそれをねらって連絡をしてきたのだろう。思うつぼかな。

ま、いっか。

次の瞬間には、「暑いねー」と送信していた。


「ねー」とTくんから返事。
「ま、わたし、実家だから涼しいけど!笑」
「こっちも実家。電気代を気にせずクーラー使えるの、最高」

自然に会話ははずみ、次の日に会おうということになった。


* * *


自由が丘は、久しぶりだった。

初めて来たのは、Tくんとの2回目のデートのとき。
デート場所におしゃれな街を指定されて、「こっちから行くか」とすたすたと歩くTくんに、当時のわたしは驚いたものだ(さすが慶應ボーイ!!)。でも、おしゃれなレストランやカフェがたくさん並ぶ通りを抜けて、Tくんが案内してくれたのは焼肉屋さん。確かに焼肉おいしいし好きなんだけど、と不服そうなわたしの顔を見て、Tくんは「ごめん、もしかして、ほかに気になるお店あった?」と言った。自由が丘は、Tくんの実家の最寄り駅だった。


あれから1年半。
別れて、また自由が丘で会うとは。

駅まで迎えに来てくれたTくんは、白いシャツにデニムを履いていて、少し日に焼けていて、爽やかだった(今思えば、GUで購入したシンプルなシャツだし、日焼けは営業で車を運転していたからである)。

今日も焼肉だったりして? と思いながら歩いていたら、おしゃれなカフェについた。


ナチュラルで素敵な内装にテンションが上がるわたしに、Tくんは「ここ、チーズケーキがおいしいって」とメニューを見せた。


最高である。


コーヒーとチーズケーキは、わたしのいちばん好きな組み合わせ!!(Tくんは当然それを承知でねらっていたのだけど)



自由が丘とチーズケーキ

大好きなコーヒーとチーズケーキを楽しみながら、いろんなことをTくんと話した。

配属が変わった同期の話、最近読んだ本、そこに書いてあった興味深いこと、東京での生活……。

Tくんとの会話は楽しい。
男性のわりによく話すタイプで、日常のどんな些細なできごとも、Tくんと話すと彩り豊かなストーリーになる。暗くなりがちな話も、くすっと笑ってしまうネタになる。
だからわたしはいろんなことを話したくなるし、それを聞いたTくんも、新しい一面を知った!というくらい大げさによろこんでくれるのだ。

別れていたのが嘘みたいに、たくさん話してたくさん笑った。


指先が少し反る手。
前髪が上がっていていつも見えるおでこ。
くっきりした奥二重。


こうだった。
こんなふうにわたしを見つめて、笑って、
いつも楽しそうに話していた。



目の前にいるのは、
まぎれもなく、わたしの好きな男の子だった。


* * *


恋愛は不思議なものだと思う。
ちょっとしたきっかけで、感情が芽生えたり、見えなくなったり、またかたちを変えて現れたりする。


Tくんとは、自由が丘の駅で解散した。

東横線へ入る改札前で「どうして、今日会ってくれたの?」と聞くと、「その質問はずるいよ」とTくんは笑った。

「そりゃ、会いたかったから。ずっと」


ごめんね、と言ったら、Tくんが近づいてきて、ぎゅっと抱きしめてくれた。おかえり。


Tくんとのこれから(まとめ)

それ以来、Tくんは、わたしに会う日はいつもぎゅっとしてくれる。今は結婚していっしょに住んでいるので、毎日。


つい先ほども、Tくんはわたしを見てびっくりしてぎゅっとしに来てくれた。このnoteを書きながら、わたしが涙をぽろぽろ流しているからだ。

「どうしたの? かなしいことがあったの?」と心配そうにするので、「かなしかったことと、かなしい想いをさせたことを、思い出していたの」と返事したら、余計わけがわからなかったようで困らせてしまった。ごめんね(笑)



* * *


ここまで読んでくださった方は、もしかしたらこう思うかもしれません。

「再び付き合えたのは、ラッキーじゃないか」と。


ええ、その通りです。
「もやもやしたから思い切って別れたけれど、再会したらやっぱり好きになって、相手もわたしのこと好きでいてくれたから、よりを戻せた。そして結婚もできた」という、ものすごくラッキーでハッピーなケースだと思う。

もし、Tくんが「にんにくの芽の乗った牛丼」を連絡してくれなかったら? わたしが「もう一度会いたい」と思わなかったら? Tくんにすでに新しい彼女ができていたら?

未来のことなんて、わからない。
一度、やってみないと、結果がどうなるかわからない。
でも、少なくとも、あのときもやもやしたまま付き合っていたら、ぜったいに今の幸せルートには辿りつけなかったと思う。


あるいは、こう思うかもしれません。

「彼氏がいなくなっても大丈夫かな……」と。


いやー、正直、こわい。

彼氏がいる。結婚している。子どもがいる。
そういう "ステータス" を必要とする気持ちはものすごくよくわかります。彼氏がいるっていうだけで安心できるし、がんばろうと思える。だれかのために自分を磨こうと思える。


でも、最近気づいたのは、"ステータス" を追い求めていると、終わりのない戦いに挑むことになってしまう、ということ。

彼氏がいたら「いつ結婚するの?」と友達に言われることがあったし(もちろん、最後にハートマークがついているテンションだけど)、結婚したら「子ども早く産みなさいね」というプレッシャーを両親から感じた。

この先、子どもが生まれたら、「保育園はどこ?」「あら、どこの大学?」などと子どもの習い事や学歴でステータスが判断されることもあるのかもしれない。

きりがない!!
結局のところ、自分が何を大切にするか、そしてそのバランスでは。

ぜったいに実現したい将来像があるのであれば、"ステータス" を追い求めていくのもよいと思う(わたしも、年齢で逆算して目標を立てているし)。
一方で、後悔しないように生きることも大切だと思う。



* * *




後悔しないように生きるために、わたしの場合、自分の気持ちに素直に向き合うことが大切だった。

あのとき別れたから、もう迷わない。

主人(Tくん)のことが好きだと胸を張って言えるし、お腹の子に会えるのが本当に楽しみでならない。
Tくんが困ったときには力になりたいし、わたしが落ち込んだときはTくんに甘えたい。
「ありがとう」と「ごめんね」をいっぱい言える関係だから、いっしょに生きていく覚悟ができた。大げさかもしれないけど。



* * *


少し振り返るだけのつもりが、長くなってしまいました!
読んでくださった方、ほんとうにありがとうございます。


わたしの大切な友達と、
読んでくださったみなさんが、
ちょっとでも前を向いて幸せになりますように。

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