見出し画像

読めなくていい、飲まなくていい

昨日、書展に向けて練習会があった。
先生の先生、
大先生が教室まで来てくださり、
みっちりご指導をいただいた。

初めてお会いした大先生は
とにかくシュッとした女性だった。
目の輝きに迫力があって、身のこなしがキレキレで
声も透き通っていて、みずみずしいオーラに溢れている。
笑ったら目尻にしわが出るけれど、それまでも魅力的。
今通っている教室の先生がアラカンだから
大先生は少なくとも70は超えているはず。
かっこよくて、気圧されてしまった。

私は書道を始めてまだ2ヶ月とちょっとで
本当なら書展に出られるようなレベルではない。
書展が何かも知らず
「面白そうだから」という理由で
申し込んでしまったのだ。

大先生に見てもらうとき、私は急に恥ずかしくなった。
一緒に出展する先輩方は
すでに教室が開けそうなくらい上達した方々ばかり。
そんな中、やっと先日8級に合格したばかりの私の文字は
子供の書き取り練習レベルだ。
そんな私のみっともない書を見た大先生の第一声は
「もう、作品になってるね」
だった。
私の下手さだけではなく
恥ずかしさも後ろめたさも全部お見通しの上でのお言葉だと思う。
それから
「字を書こうとしないの、作品を作りましょう」
「読めなくていいの、お手本通りにしなくていい」
といった目からウロコなアドバイスの後に
「これからどんどん上手になるよ」
と、励ましてくださった。

私は俄然やる気が湧き、練習にぐんぐん力が入った。
不思議だけど、その先生からのお言葉で
自分でもわかるくらい上達したのだ。
「褒めて育てる」
子育てでは金言のようによく言われているけれど
大人の私でさえ褒められるとこんなに嬉しくて
成長できるんだな。ああ嬉しい。幸せ。

ゾーンに入って書いていたら、紙と墨が無くなった。
大先生に見てもらうせっかくのチャンスだったのに、
家で練習しすぎたのだ。
自分の詰めの甘さに愕然とした。
しかし、周りの先輩方が大先生にご指導を受ける様子を見て
カルチャーショックを受けた。

筆2本を束ねるようにして書いたり(めっちゃ太字になる)
墨をビッシャビシャに浸して書いたり(墨が飛び散ってかっこよくなる)
バドミントンくらい素早く書いたり(良いかすれが出る)
もう、完全なるアートの世界がそこにあった。
MS明朝みたいな自分の字がまた恥ずかしくもなったけど、
逆に覚悟もできた。
千里の道も一歩からというし、今は下手でいいんだ。
このまま頑張れば、来年はもっと上手になれるはず。
やっぱりここに来て色々学べて良かった。
(その後見学を続けた)

練習会の最後に大先生からお話があった。
「書展に出ることも大事だけど
細く長く続けることが皆さんへの私の願いです。
書道が、いつか皆さんの心の救いになることがある。
心に穴が空いてしまったときに、
やることがある、というのは本当にありがたいことです。」
そのお言葉の重みにも、佇まいにも圧倒された。
大先生は、なんて素敵なんだ。
今までどれだけ心に穴が空いて、
それをどれだけ書道で埋めてきたのだろう。
この魅力を作ってきたもののうちの一つは
間違いなく書道だったはず。
勝手に想像して、感動。
私も少しでも大先生に近づきたい。

技術面でも心の持ちようでも吸収することが多すぎて
感情がいっぱいになって帰宅した私。
気力体力も使い果たし、夕飯を作る元気もなく、
買ってきた串カツを食べながら
夫と息子に大先生の様子や1日の出来事を語るうちに
だんだん全員でテンションが上がってきた。
「お正月にみんなで書こうか!」
などと、盛り上がる盛り上がる。
結果、350ml×6本×4セット、
ようするに、家族3人でビールを1箱空けた挙句
夫は焼酎、息子はワイン、私はお風呂に移行。
日曜の夜から盛り上がりすぎました。
ご参考までに。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?