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7月30日:人身取引反対世界デー


World Day Against Trafficking in Persons

人身取引(人身売買)とは「現代の奴隷制」と言われる人権侵害です。
「搾取」(売春、強制労働、臓器摘出など)の目的のために、「暴力や脅し、詐欺、金銭の供与」などの手段を使って、人を「採用、移送、隠す、受け渡す」という行為を人身取引と言います。

アメリカの国務省が毎年公表している世界各国の人身取引に関する報告書の2020年版が6月25日に発行され、日本は4段階のうち上から2番目の「ティア2」レベルという評価だったとの報道が先月末は目につきました。2018年と2019年は「ティア1」の評価を受けていましたが、今回は特に外国人技能実習制度や児童買春の問題に関して「取り組みの真剣さや継続性が前年までと比べると不十分だ」として格下げとなりました。

「日本での仕事を紹介してもらう手数料を支払うために作った借金を返済しなければならず、過酷な労働環境であっても声を上げたり職場を変えたりできない」、「事前に知らされていた内容とは違う仕事を強いられる」、「パスポートや身分証明書を取り上げられて移動の自由を奪われる」こういった状況は、国際的には強制労働や人身取引につながる深刻な事態だと認識されています。残念ながらこれらは、日本の外国人労働者の人権侵害に関するニュース報道などで現在もよく聞かれる話です。

2019年4月に「特定技能」という新しい在留資格の運用が始まり、日本で働く外国人労働者について社会の関心がこれまで以上に高まってきました。また、特にコロナ禍で失業し困窮する外国人労働者が急増し、彼ら彼女らの脆弱な立場が浮き彫りになっています。

どうして人身取引とまで言われる状況が生まれてしまうのか、日本国内で起きている問題と合わせて、技能実習生らが母国でどのようなプロセスを踏んで来日しているのかを知ることで、問題の複雑さを改めて確認することができます。

技能実習生はもともと中国出身者が大多数を占めていましたが、近年はベトナム、フィリピン、インドネシアなどの東南アジア諸国の出身者が大幅に増えきています。ベトナムは2017年から最大の技能実習生送り出し国となりました。ベトナムにおける技能実習生候補者の採用や事前研修などに関わる「渡航前プロセス」については、高額な手数料の徴収、軍隊式の渡航前研修、構造的な債務労働の実態など、巣内尚子氏に代表される外国人労働者を取り巻く問題を長年追い続けているジャーナリストや研究者などによって明らかにされてきました。一方で、その他の国の現状についはまだまだ知られていないことが多くあります。

インドネシアの人権NGO Human Rights Working Group (HRWG) が、去る2020年5月にインドネシア人技能実習生とEPA看護師・介護福祉士候補生の日本への渡航前プロセスに関する調査報告書「Shifting the Paradigm of Indonesia-Japan Labour Migration Cooperation」*を公開しました。採用や渡航前研修、それにかかる法外な手数料の徴収などについて、これらの制度によって日本で働きインドネシアに帰国した人々を中心に、送り出し機関や中央・地方政府の関係者への聞き取りのほか、インドネシアと日本の政策や法制度の分析などを行った結果がまとめられています。送り出し国のNGOが、経験者からの聞き取りをもとに日本の外国人労働者受け入れ制度の問題点を指摘しているという点において、貴重な資料だと思います。

この報告書では、これまでベトナムの事例でも明らかになってきたように、インドネシアの送り出し機関が日本の管理団体を「顧客」ととらえ、過剰な接待や採用のキックバックを提供するケースが多発しており、これらの費用を賄うために渡航前研修費や手数料として技能実習生候補者たちから高額な費用が徴収されているケースがあると指摘しています。契約書や覚書は日本語で書かれたものだけを与えられて、内容をよく理解できないまま署名させられたなどといった証言も紹介されています。

また、「技術移転を通じた国際協力」という日本政府が掲げる技能実習制度の理念に歩調を合わせているインドネシア政府は、実際には労働者として扱われている技能実習生を、移住労働者の保護に関する法律の対象外としており、彼ら彼女らはインドネシア政府による保護やサポートを十分に受けることができていないといった、法整備上の問題も指摘しています。

人身取引反対世界デーという日は、外国人労働者、とりわけ技能実習生のおかれた状況、彼らが日本行きを目指す過程で起きている問題、受け入れる側としての日本の責任についてより真剣に考える日にしたいと思い、この記事を書きました。

*今回紹介したインドネシアの渡航前プロセスに関する報告書には、編集者として関わりました。報告書は英語ですが、日本でこの問題に関わっている方々に目を通していただきたいと思い、日本語の要約も作成しました。HRWGによる調査は笹川平和財団の支援を受けて実施されたものです。

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