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アフリカ各都市で進行中のスマートシティを訪ねる、リサーチキャラバンを始めました

12月中旬から西アフリカの小国・トーゴの首都・ロメに滞在している。2月からはカメルーン・ヤウンデ 、4月にはケニヤ・ナイロビ、6月にはモロッコ・マラケシュに移動し、2ヶ月ずつ、アフリカの各都市を行商しながら、現地の都市・建築・まちづくり分野の組織やスタジオと短期のコラボレーションを行いながらアフリカで複数走るスマートシティ開発についてリサーチを行う。企業や大学とは関係なく、全て自主企画・自主資金のプロジェクトで、2019年に台湾で出会ったフランス人建築家 / ジュリアン・カポネルと共に、世界中から異なるスキルセットを持つ有志の参加者たちとチームを組みながらキャラバン形式で行う。オープンコールで集まった応募者は世界中から30名ほど。その全員に30分ずつインタビューをしたうえでチーム編成を行ったのだが、1人1人のバックグラウンドはもちろん、さまざまな応募動機やアイデアがあり、彼らと話すだけでも楽しかった。

なぜ、こんな壮大な企画を始めることにしたのか。

簡単に経緯をざっくり説明すると、スマートシティ開発とデータ分析の専門家であるジュリアンと、今アフリカの都市が熱い、という話で盛り上がり、それでは今のうちに見ておこう、ということで、今に至る。見に行くのであれば、旅行者として行っても意味がない。短期間でのオープンコラボレーションを、現地の実践者と行おうということで公式(?)にプログラムを組み立てた。話が出てから実際にアフリカに渡航するまで8ヶ月ほど。コロナ禍で挑戦はいくつかあったけれど、このスピード感は良かったなと思う。

※以下、アフリカと一口に言っても広く、大陸であり、多様性に富み、"アフリカ全体"としての一般化できないことは承知のうえで、敢えて"アフリカ"という言葉を使っているので、その点のみご了承いただきたい。

この企画の旅程

2021年12月〜2022年1月 ロメ(トーゴ ):建築業界にアフリカの視点を持ち込むことをミッションに活動を行う団体・L'africaine d'architectureと共に、ボトムアップのスマートシティプロジェクト「HubCité」とコラボレーションを行う。
2022年2月〜2022年3月  ヤウンデ(カメルーン):オープンデータプラットフォームであり、アフリカのデジタルマップやGIS開発を行うgeo.smと、アーバンイノベーションラボ・DiverCityとコラボレーションを行う。
2022年4月〜2022年5月 ナイロビ(ケニヤ):UN Habitatの本部があるナイロビにて、複数の都市開発関係事業者との参与観察リサーチを行う。
2022年6月 ヨハネスブルク(南アフリカ):複数都市にて現地デザイナーとの共同リサーチを行う
2022年7月 ラゴス(ナイジェリア ):アートスペースHfactorとのコラボレーションで、これまでのアフリカリサーチの統合&ポップアップの展覧会を開催予定

もし時間が許せば、CLUSTER CAIROというアーバン・イノベーションラボがカイロにあるので、行ってみたい。

そもそもなんで今、アフリカが面白いのか

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アフリカのクリエイティブやトレンドについては、越境ジャーナリストのマキさんが一番詳しい。アフリカが面白い!という雰囲気を掴んでもらうために、彼女の記事をとりあえず全部読んでほしい。

・なぜ今アフリカの視点を届けるのか:http://neutmagazine.com/exploring-identity-with-south-african-artists-000
・Netflixが積極展開 アフリカのクリエイティブ業界の強力な追い風に:https://newsphere.jp/culture/20210409-2/
・ビヨンセも支持表明 黒人経営のアフリカン・ブランドに:https://forbesjapan.com/articles/detail/36292

アフリカが今盛り上がっているのは偶然ではない。ワシントンポストのデータによると、2025年にはほとんどのメガシティがアジアに集中するのに対し、2100年には大都市のほとんどはアフリカに位置する、という予測がなされている。地方から都会への移動が激しいのもアフリカだ。2015には、エジプトの総人口の93%が都市に住んでいるとのデータがある。過去15年で、エチオピアの都市人口は3倍、ナイジェリアは2倍となった。

つまり、アフリカの都市は、今まさに急速に拡大しており、この傾向は今後も続く。総人口の70%が35歳以下という若さも伴って、今後の爆圧的な経済成長と、「リープフロッグ現象」と呼ばれる急速なテクノロジーの発展が見込まれている。中国がアフリカに投資をしているのも当然だ。詳しいデータはこちらのデータビジュアライゼーションをぜひチェックしてみて欲しい。

オルタナティブな未来を描くAfrofuturism

で、経済成長や都市化が根拠になっているのなら、なんで中国でもインドでもイスラエルでもなく、今、私がアフリカに夢中になっているのか。

アフリカには、植民地の暗い歴史やディアスポラの経験、人種差別といった重いテーマがつきまとっている。そのような高い障壁にかかわらず、彼らが大陸全体として、黒人として、新しいアフリカ的なアイデンティティや未来像を積極的に描いていることに興味があるからだ。

例えば、アフロ・フューチャリズム(Afrofuturism)という言葉をご存知だろうか。最近ではこの言葉に変わってアフリカン・フューチャリズムという言葉も出てきているようだが、アフリカや黒人を中心とした独自の宇宙観・SF的な世界観を持つ思想を指す。ユートピア思想とも関係が深く、黒人のアーティストや作家を中心に、映画やアート、小説などさまざまな分野でその世界観が表現されてきた。

最近だと、未来のアフリカを舞台にしたスーパーヒーローもののSF映画「ブラックパンサー」が有名どころだろうか。現代の白人中心社会から違った軸で、アフリカらしい"未来"を語る姿勢はポジティブで勇気が出る。

アフロ・フューチャリズムについては、この記事が導入として分かりやすい:

アフリカで進行するスマートシティプロジェクト

そんな"未来"に向けて、アフリカの多くの都市では現在、多くのスマートシティプロジェクトが進行中だ。有名どころをいくつかを紹介したい。

◉Akon City

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AKONCITY(上記写真:Afrik21)は、アメリカのR&Bシンガーソングライター・AKONが、セネガルに建設を計画している未来都市だ。この街では、独自の仮想通貨「Akoin」によって、すべての取引がおこなえるようになる予定だ。人口の多くが銀行口座を持たないアフリカでは、主にスモールビジネスを中心に仮想通貨が活用されている。Akon Cityでは、この仮想通貨を使用することで、アフリカの国々とそこに暮らす若者たちの成長を後押しする狙いがあるようだ。AKONはセネガルの大統領から土地を与えられており、今後10年以上の歳月をかけて「Akon City」を建設していくとのこと。ハイパーウルトラモダンなデザインをぜひWebサイトでチェックしてみて欲しい。

◉ラゴスの海浜新都心エコアトランティック

アフリカ最大の都市・ラゴスでは、レバノン系不動産デベロッパー、シャゴーリグループの関連会社・サウス・エナジック・ナイジェリアを主導に、海浜地区に大規模なスマートシティ「エコアトランティック」が計画中だ。完全民間主導で、埋め立て・造成はオランダに本部を置くロイヤル・ハスコニングが担当する。

ラゴスでは、道路、鉄道、電力網、通信、下水処理などの政府主導のインフラ開発がなかなか進まない。そのため、民間から開発計画を集い、開発権益を譲渡するコンセッション契約を行ったのが今回の開発だ。

造成計画面積は1,000ヘクタールに及び、ホテル、ショッピングモール、マリーナなども備える計画で、常住人口30万、通勤流入人口20万を見込んでいる。

欧米を真似して経済発展を遂げた中国と同じ道を辿って良いのか

他にも多くのスマートシティ計画が進行しているが、そのほとんどが、日本や中国、欧米社会でも目にするような、モダンな高層ビルの立ち並ぶ姿だ。これに対し、「アフリカの今後の発展は、欧米の真似をすることではないはずだ」という懸念の声も出ている。

例えば、上海で活動した経験のあるルワンダ出身の建築家・クリスチャン・ベニマナは、「次世代のアフリカの建築家とデザイナー」というTEDトークのなかでこう語っている。「中国では今や、現代的な技術を駆使した多くのモダン建築が立ち並んでいる。けれど、出稼ぎ労働者の搾取や大規模な立ち退き、急速な開発に伴う環境汚染など、現代都市の特徴である課題の多くを抱えている。」ルワンダに帰国した時、中国と同じような都市発展が行われているのを見て、持続可能かつ公正な方法でアフリカの都市が繁栄する新しい方法を探り始めたという。ベニマナが主導する「African Design Centre」では、アフリカ出身の建築家による新たなネットワーク構築を目指している。

◉トーゴの首都、ロメで活動するインキュベーション施設・WoeLab

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私が現在滞在している、トーゴの首都・ロメにあるWoeLabというインキュベーション施設も良い事例だ。AKON CITYのようなトップダウン型のスマートシティ開発ではなく、ボトムアップに、今あるリソースを活用したデジタルテクノロジー主導のまちづくりに取り組む。

e-ウェイストを使った初のメイドインアフリカ3Dプリンターを開発したり、WoeLabから1キロ圏内のコミュニティ内部で使用できるデジタル通貨を作ったり、地域のプラスチックゴミ問題に取り組んだり、デジタルセンシングでコントロールされた都市型農園で近隣の食不足を解消したり。アナログでローコストなアプローチとテクノロジーを、バランス良く取り入れたプロジェクトをしているから、住民たちとの距離がない。

アフリカ発信、これからの都市を考える

現代音楽家ブライアン・イーノが、「コンピューターにはアフリカが足りない」と言っていたことを、Wired JAPANのアフリカ特集で知った。都市・建築・まちづくりの分野にも、アフリカが今、足りないような気がしている。

世界的に活躍しているアフリカ出身 / 黒人の建築家は数えるほどしかいないし、業界メディアで目にする情報もまだまだ欧米の事例が多い。都市・建築・まちづくり分野の教育も、欧米のものを輸入していることがほとんどで、才能のある人材はアフリカを離れてしまう。こんなに人口の多い大きな大陸でありながら、私たちはアフリカらしい建築というものを、ほぼ何も知らない。

そしてやっぱりアフリカは遠い。

ビザは信じられないほど取りにくいし、受け入れ先がないとそもそも行けない国もある。チケットも高いし、アフリカ内部の都市間の移動も整備されていない。正直ハードルはまだまだ高い。

だからこそ、この大きな大陸に8ヶ月間滞在をしながら、アフリカ×都市にまつわるさまざまな発信を行っていければと思っている。特に、アフリカに暮らす同世代の若者たちは、今何を考え、どんなことをしているのか。これについては、近々どこかでレポートできたら良いなと考えている。

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