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週報20240520-26

この週報はアーティスト井口真理子が、福岡県宗像市大島という離島を舞台に、「一日も無駄にせず、慈しんで生きる」というモットーのもと暮らす、その記録である。
毎週末に、先週号を振り返りつつ、当週号を書き綴る形式のため、配信は1週間ずらしている。
マガジンのサブタイトル「心技体」は、今年の書初であり、その1年における自分との約束である。

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5月第4週、今週は主に仕事と社交に充てた1週間であった。

まずは仕事について。
現在、活動拠点である宗像大島に、「umiba」というスペースがある。
そこは私が移住してきた頃、ちょうど2年前にできた場所で、元々は大島村時代の村役場だったところだ。
移住後すぐに依頼を受けて、幅6m/高さ3mの壁画「PRISM」を制作した場所であり、昨冬には外壁アートも制作するなど、段階的且つ結果的に、「井口真理子アートディレクション」が実現している場所でもある。
大島移住をはじめ、計画的偶然というものに何かとご縁の多い人生だと感じているが、今回のumibaのアートディレクションは、むしろ結果的必然という方がしっくりくるかもしれない。

流れに沿って進んでいくと、次のステージとして「umiba books」という物販にむけてのディレクションが立ち上がってきた。
ビジネスパートナーのK氏より、「書籍を中心とした物販をやりたい」という話が持ち上がり、アートディレクションをやってくれないかという相談が寄せられたのは昨年末頃。
外壁作品もその一環で制作することになり、昨冬制作/完成した。

3階には別のセレクトショップもはじまることになった。
そこはもともと村役場時代の資料室だったところで、埃っぽい廃墟感が漂っていたが、プロダクトデザイナー山崎さんによる「OMISE YA SUN」という世界のTAMIYA製品がずらりと並ぶハイセンスなおもちゃ屋さんに様変わりした。そのお店も今週末にグランドオープンとなった。

私は外壁の他に、今回、新たに1階にオープンするストアのディレクション全般の依頼を受け、すぐにイメージが降りてきたのだった。
まずは書棚のデザイン。これはK氏がかねてより希望のイメージを描かれていたので、一緒に確認しつつ、大工さんの選定を。以前umibaの初期インストールで家具全般を制作担当されたYさん。Yさんとはそのとき知り合って依頼、ご家族も紹介くださり、糸島のご自宅まで遊びに行かせてもらったこともある。自宅はまるで巨大な作品のようで、プロが本気で遊び心を全開にした、というようなユニークさ満載のお家だった。話を戻すと、今回のumibaの書棚も彼のテイストで統一感を出すべく推薦した。

そして次に空間デザイン。
umibaのとなりは整骨院さんがあるので、空気感が混同しないように、空間内でさりげなく、しかしはっきりと仕切る必要があるように思われた。
ただパーテーションのようなものを設置するのは大袈裟すぎるし、圧迫感がある。色彩も、壁画や空間全体に合うものが望ましい。
そこで降りてきたイメージは、「美しい染め布を天井から垂らす」というものだった。京都在住の染織作家さんで、大好きな大学時代の先輩でもあるEさんに依頼することを即座にひらめいた。Eさんの作品、また制作に対する真摯な姿勢にはいつも敬服しているし、彼女なら心から信頼できる。そしてもちろん、お仕事をお願いし、仲介人になる以上、作家さんがお仕事しやすいように細やかにすり合わせしなくてはならない。こちらも誠心誠意を尽くして対応する。
作家同士とは、かゆいところに手が届くもの。
どのような場所でどのような処置が必要か、制作日数にどのくらいかかるのかなど、相互理解が土台にあるやりとりが可能になる。その点で、作家である私がアートディレクターとして仲介人になることの価値がある。

大工さんとのやりとりも同様だ。作品のインストールに必要な処置や方法、使用部品、その部品の耐久性などの知識やリサーチなどは作家である私だからこそ、具体的に相談でき指示/依頼することができる。

空間デザインの一環で、umibaの窓に新たにカーテンを取り付けることも提案。その際、カーテンの選定と、カーテンホルダーの制作に、大島在住の方で、普段から親交の深いYさんに依頼することにした。
洋裁が得意な彼女は、独自に編物作品も作っておられ、最近それをお仕事につなげてみたい、という意欲をお持ちだったので、ちょうどよい機会かなと相談。快く引き受けてくださった。

という具合で、アートディレクションの面白いところ、やってよかった(まだ進行中だが)ところとして、「身内の職人たちに仕事を回せる」というのがある。自分のお金ではないが、仲介人として予算をみんなに回せるというのは、経済効果を生み出す達成感のようなものがある。
一方、自分への報酬はなかなか面と向かって言い出しにくいという…….(苦笑)。

空間デザインの他にもストアのロゴ、看板制作も私が担当。今回掛け軸風の室内看板を制作予定で、ロゴデザインも着々と進めた。

今週は23日に大工さんの工事があり、先月すでに取り付けられた書棚に続いて、今回はコインランドリー側の壁設置、カーテンの取り付け、また染め布のインストールがあり大忙しだった。

夕方にはすべての作業が終わり、染め布も私が依頼したカラーリング、ビジュアルイメージぴったりの作品に仕上げてくださったおかげで、空間全体の色合いと完全に調和していた。大満足。

さらに皆さんが撤収後、自分で壁面のインストールの続きもした。
それは、2022年に制作したアート大漁旗、「MOVE ON」である。
まるでその作品を待ち構えていたかのように、ぴったりサイズの壁面に収まった。

一苦労して設置し終え、遠目で見てみると、う〜む、よいではないか。
染め布とのカラーマッチングが素晴らしい。にやにや。悦に入る私であった。

井口真理子カラーの統一感

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週末は3階の「OMISE YA SUN」がオープン。
元HONDAデザイナーで、現在は独立されているプロダクトデザイナーの山崎さん。アーティストは年齢不詳な人が多いけれど、山崎さんもまさにそう。はじめてお会いしたときは、20歳くらい若く見えて実齢を伺って仰天したものだ。日本のみならず海外でもお仕事をされていて、TOYOTAやTAMIYA等名だたるメーカーさんとコラボされている。今回も店頭には山崎さんデザインのミニ四駆もずらりと並ぶ。

土日と二日間にわたり、オープンイベントが行われ、両日たくさんの人で賑わっていた。私も人生初のミニ四駆を制作し、2階に設置されたコースで走らせたのだが、、とても楽しかった…...!!
たまたまミニ四駆界のプロフェッショナルな方々がお見えになり、作り方のレクチャーをいただいて、貴重な体験だった。私が選んだ車種は大量のステッカーがあって根気のいる作業だったが、出来上がったときにはもう、それは愛着の塊と化していた。
「颯爽と 走り抜けるは 愛着よ」
真理子、心の一句。

気分はフィリピン

土曜の晩は、我がスタジオ兼自宅に山崎さんとアシスタントのIちゃんが泊まることになっていたので、おもてなしすべく、ゲストルームも準備万端にしておいた。
夜中まで焼酎を片手に、和気藹々とトークに花が咲く。
人生の、そしてクリエイターの大先輩からいただく、学びの数々。
ゆたかな人間関係、ゆたかな共感。ゆたかな時間。

大島に来ていなかったら、出会えなかったかもしれない人々。
不思議だね。それは計画的偶然で、結果的必然なのかもしれない。


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