成人式

早いもので、娘が来年、成人式を迎える年となりました。

どのような着物にするか、レンタルが良いか買った方が良いか、色々考えていましたら、

「お母さんの成人式はどうしたの？」

と、尋ねられました。

・・・私の成人式・・・。

南十字星マガジンをご購読下さった方はおわかりかと思いますが、これ以上ない苦しみに打ちのめされ、ズタボロになってブラジルから帰国したばかりの私にとって、成人式などどうでもいいものでした。
丁度、ブラジルから帰国した３ヶ月後が成人式でしたが、全く興味もなく、式に参加する積もりもなかったのですけれども、私のブラジルでの悲惨な事情など何も知らない父親は、娘の私の成人式をとても楽しみにしていたらしく、「振袖を買いに行くぞ！一番綺麗で高価なやつを買ってやる！」と、半ば強引に私を呉服屋さんへ連れ出しました。

私は何度も反抗し、「振袖などいらない、着物なんて着ない、成人式なんて出ない、写真だって撮らない、バカじゃないの？たった一度の為に大金はたいて。それに私は着物なんて大嫌いなの。 どうせ買うなら空けの織田信長みたいな格好の方がまだマシ。それが今の私に一番似合う。」

相当嫌がる中、「バカな事を言うな！買いに行くと言ったら買いに行くのだ！」と、父も負けずに無理矢理私を車に押し込み、振袖を求めに出かけました。

呉服屋さんには私と同じ年頃の女性たちが、嬉しそうに親子で成人式用の着物を選んでいました。すぐにお店の方が近寄ってきて、お世辞たっぷりにニコニコ、私に合いそうな着物を幾つかご提案くださいましたが、私は終始上の空。
そんな私に気を使いながら、「・・・こちらなんか、お嬢様にぴったりだと思います。品があって映えますよ。」などと、父とお店の方が選んで下さり、私は当時の記憶が殆どありません。

祖母に説得され連れられるまま、近所の写真館で写真も撮ったらしいですがそれすら覚えていません。成人式は結局、出席しませんでした。人生なんてどーでもいい、死にたい、未来なんてない、と思う私が出席する場でもない、と、思っていたからです。

着物の色すら忘れていました。

そのようなことを正直に娘に話すと

「まだ、そのお母さんの着物って、あるのかな？あるなら私、その着物着たいな。」

と、娘。

今時の流行りもあるだろうし、それに今どこに着物があるかわからないし、それでもいいのなら、と、思いながら、叔母にそれとなく電話で尋ねてみましたら、

「ああ、綺麗に取ってあるわよ。母（祖母）がね、これを着たマリの姿はと〜っても綺麗だった、って、ず〜っと大事に取ってあったの。いつか、マリちゃんが欲しがる時が来ると思うから、それまで預かってあげてね、って、言われていたから、私も引き継いで取ってあるわ。母の予言が当たったわね！」

とのこと。叔母に娘の成人式の話をすると、大変喜び、

「それは兄（私の父）も、そして母（私の祖母）も大喜びするわ。そう、そんなことが・・・。親子二代で成人式に振袖を着られるなんて。じゃあ早速送るわね。写真、楽しみにしているわね。」

と、叔母はとても嬉しそうに喜び、早速送ってくださいました。

叔母から着物一式がすぐに届きました。

それは、３０年ぶりに見る振袖でしたが、あらためて拝見すると大変美しく、当時上の空だった、振袖のことなど全く覚えていない私にとって、目が覚めるような驚きでした。

バッグも草履も全て綺麗に保管してありました。

「わあ！綺麗！こんな綺麗な着物、お母さん着てたのね！これ、高かったでしょう？！　こんな綺麗な着物を着られるなんて嬉しい！」

と、大喜びの娘。

「おじいちゃんがね、冬のボーナスはたいて買ってやったんだぞって、ずっと恩着せがましく言ってたわ。」

と、私。

「勿体ないよ、こんな綺麗な着物！今はレンタルの子、多いし、これなら絶対誰ともかぶらないし！成人式が楽しみ！」

と、娘は大はしゃぎ。

そんな娘に、素直ないい子に育ってくれて本当に良かった、３０年前のやさぐれた私とは大違い、と、安堵し、また、親になってみて、娘の成人式の楽しみというものをあらためて知り、当時全てにおいて投げやりで、人生に希望も未来も見出せなかった真っ暗闇な私の事情を鑑みても、子を思う親の気持ちに、今更ながら有難く思い、父にすぐに電話をし

「３０年前は捻くれていて本当にごめんなさい。素晴らしく美しい振袖、ありがとう。娘が成人式に、お父さんに買っていただいた振袖を着る予定です。写真、楽しみにしていてくださいね。」

と、伝えますと、それはそれは舞い上がり喜んで下さり、涙が出るほど嬉しいとのこと。長生きはするものだなあ、あの振袖を今度は孫が、買ってやった甲斐があったものだ、と、喜びの言葉が延々止まりませんでした。

素直な娘のお陰で漸く、親孝行ができました。