Filmistaan テロリストに捕まったボリウッド映画オタクの人質が食べていたのはナンだ?

「テロリスト、つい間違えて筋金入りの映画オタクを誘拐」というインドのコメディ映画。コメディと言うからもっとドタバタ、いきなりテロリストが一緒に歌い踊り始めるお馬鹿映画なのかと思えば、実際はインド・パキスタン分断の根深さを物語る、クスっと笑えるけれども、うーんと考えさせられる、歌も踊りも無しのインド映画。映画祭にも出品されたそうで、つまりはそういう感じの映画です。

映画愛は人一倍、でも全然売れない役者のサニー。日銭稼ぎにドキュメンタリーを撮りに来たアメリカの撮影隊の助手として、パキスタンと国境を有するラジスターン地方に行くバイトをゲット。しかしロケ先で、アメリカ人を誘拐したれとパキスタン側からやってきたタリバン風テロリストに、間違って捕まってしまってさあ大変!(ちなみにアメリカ人クルーとして出演しているブロンドの役者・・多分インド在住のエキストラ・・が全然アメリカ人じゃないところはご愛嬌ww)

アメリカ人のつもりがインド人の兄ちゃんを捕まえちゃったテロリストも困惑し、今後の対策を練るまでちょっと待ってろと、周囲が砂漠の中にぽつんとある小さな村に押しかけ、サニーをある村人の家に閉じ込める。村人にとってもいきなり銃を持ったテロリストがやってくるわ、人質の世話をさせられるわと大迷惑な話だが、たまたまこの家の住人アフターブがインド映画の海賊版DVDを焼いて売る仕事をしている映画好きだったことから、だんだん人質サニーと意気投合。さあサニーは無事にインドに戻れるのか?!というお話。

さて人質の世話を命じられた、海賊版映画売りの村人アフターブ。サニーに食事を届けるのも彼の仕事。ボコボコの大きなアルミの皿に何か載せてサニーに持って行き、食事するサニーの側で映画の事など語り合う。「もっとチャツネはいるかい?」と気も使う。彼が食べているのは一体ナンだナンだ、と目を凝らさないとなかなか見えないが、皿の上に載っているのは一握りのちょっとした豆か肉か何かのカレーと、多分少しの米、そしてナンではなくチャパティー。

周囲は砂漠の何もない貧しい村。ナンを焼くには白い小麦粉にイーストにギーにタンドーリ釜も必要だし、常食はさっと作れるチャパティーなのかもしれない。「奴らはいつまでここにいるつもりなんだ?」と父親と話しながら、全粒粉らしきものと水を練って、アフターブ自らチャパティーを作っている。これを父親が火をおこした釜戸で焼くらしい。

そして、ラジオで流れてくるクリケット、インド対パキスタンの試合結果をめぐってテロリストにボコられたサニーに、痛みが緩和されるからと持っていくのは、「ターメリック・ミルク (Haldi ka Doodh)」。作り方のバリエーションは色々あるけれど、牛乳とターメリックが基本。レシピによっては他のスパイスや黒胡椒、蜂蜜やバターなどが入る。風邪や胃痛などに飲まれるらしいが、炎症を抑える作用もあるらしい。間違えて誘拐された気の毒なインド人に、村の人は基本的に同情しているらしい。

ムンバイからラジスターンに来て災難にあったサニーだが、実は出身は国境沿い、パンジャブ州のアムリトサル。だから村人ともパンジャブ語で話ができる。映画スターのモノマネをして子供達には大人気だし、若い時はデリーにもアムリトサルにもよく行ったという老医師と語り合い、分断前のラホールに住んでいたという祖父の姿を重ねたりもする。

分断を経験したものにとっては、インド映画を見ることは、もう足を踏み入れることのできない懐かしい場所を訪れることができる唯一の手段だという。またバリウッドスターの中には分断前のパキスタン出身だったり、北インド出身のイスラム教徒も結構いて、村人達は違法DVDを見てそんな俳優達を熱烈に支持していたりもする。夜になるとアフターブが違法DVDの上映会を開くのだが、子供も大人も目をキラキラさせながら見入っている。そんな人々を横目で見るテロリスト達。

国境や宗教で分断されていても、バリウッド映画を通じて人々の心はつながっている、というのがこの映画のメインポイントではあるのだけれど、アフターブとサニーが語り合うシーンで「俺たち言葉も同じ、食べるものも同じなのにな・・」と言う場面があり、食べ物のことしか考えていない身にとってはそのセリフのほうが妙にグッときてしまった。宗教上の理由で国境が後から引かれた場所だから、食べているものも本来は同じ。人質サニーが食べていた食事は、ナンてことはない、「いつも食べてるのとおんなじ」食事だったのでした。

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