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つきのむら(創作小説・短編集)

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自作短編小説です
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2018年1月の記事一覧

タコ踊り

タコ踊り

 とげぬき地蔵をお参りしていたら、偶然再会したのだと言う。

「高校の時の先輩やってん。お互い、全然変わってなかったからすぐにわかったんや。それで、一杯飲みに行って話してんねん。先輩、会社辞めて、新しい事業を始めようとしてるんやて。手伝ってくれないかって言われた」
「ふうん」

 恋人のたっくんは、親の都合で引っ越しが多かったため、関西弁と東京弁が混じったような変な言葉遣いをする。

 たっくんは

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ショクブツカレシ

ショクブツカレシ

 初めて入った飲み屋で、酔っぱらいながら、
「これからの時代はポジティブにガンガンやることだと思うんですよー」
 と話したら、
「君の感性はおもしろい!」
 たまたま店にいた出版社の人に気に入られ、『君ならできる! ガンガン進め』というエッセー本を出したら、ベストセラーになった。

 編集さんとの打ち合わせで酔っぱらいながら、
「ポジティブもそろそろ疲れてきましたよね。ゆるく生きたいですよね」
 

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No Expectations

No Expectations

 小学校に上がる前、両親が離婚した。わたしは母親に引き取られたが、母親には恋人がいて、家を留守にしがちだった。父親が会いに来ることもなかった。一度だけ、こっそりと父親に会いに行った。父親は再婚していて、わたしの知らない人たちと新生活を始めていた。
 大人になったら、絶対にしあわせな家庭を持ちたいと思った。自分の子供には、わたしのような想いはさせまいと。

 結婚願望が強かったわたしは、学生時代から

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お金より大切なもの

お金より大切なもの

 ある村に、農民がいました。
 彼は親から継いだ畑を毎日耕していました。
 雨の日も、風の日も、日差しが強い日も。

 一生懸命、耕してもうまく実らない年もありました。
 それでも、来る日も来る日も畑を耕していました。

 ある日、彼が畑に行くと、実った作物が盗まれていました。

 犯人はその村では有名な富豪の一家でした。彼らはパーティーの余興で、畑の作物を盗ってくるゲームをしたのです。

 農民

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犬

 彼女のことが嫌いだった。

 同じ職場で働く新人。彼女はいつも元気で笑顔を絶やさない。私に対しても礼儀正しく感じよく振舞う。でも私はその愛想のよさに嘘を感じてしまう。

「年齢が近い先輩が職場にいてくれると心強いです!」

 彼女は満面の笑みで私に言う。その言葉を嬉しいと思いながらも、やはり疑う気持ちが出てきてしまう。本当にこれは彼女の本音?

 彼女は部長に飲み会に誘われて、飛び跳ねて喜ぶ。で

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コメは地球を救う

コメは地球を救う

 5、4、3と父ちゃんがカウントダウンを始めた。
「ちょっと待って!」
 母ちゃんが金切り声をあげ、父ちゃんは安全装置を外す手を止めた。

 俺が小学生になる頃、父ちゃんは重大な任務を担った。

 散歩をしていたら、突然目の前に円盤が現れ、中から出てきた宇宙人に、”ひと押しで地球を破壊させるボタン”を手渡されたのだそうだ。

 次の瞬間には宇宙人も円盤も消えていたが、父ちゃんの手の平には、小さな円

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