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【読書】足軽になってからが面白い~『姉川忠義 北近江合戦心得(一)』(井原忠政)~

「三河雑兵心得」シリーズのスピンオフ作品とでも言うべきシリーズです。

↑kindle版


「三河雑兵心得」シリーズの主人公の茂兵衛が足軽出身で、武士の忠義というものに半ば批判的なのに対し、こちらの主人公の与一郎は、浅井家に仕える武士として、愚直なまでに忠義を貫こうとします。


とはいえ、何の疑問も持っていないわけではないようですが。

義とか忠とか、古臭い徳目に固執した者が滅びる世の中だ。「忠義専一」などと煽てられた父は、最後まで義に殉じ、倅の目前で惨殺されて果てた。
(俺はこれから如何に生きるのか? 父のように義に殉じて滅びるのか? 世相におもねて生き永らえるのか?)

p.26


まず与一郎は馬から下りた。手綱さばきが自慢の彼としては、源平の弓武者を気取り、馬上で颯爽と弓を構えてみたいところだが、如何せん敵鉄砲の格好の標的になってしまう。当節では、馬から下り、身を低くして膝を突き、できれば物陰からこっそり射るのが弓兵の心得だ。

p.13

まるでスナイパーのようで、これはちょっと意外でした。与一郎自身、「なにか、とてつもなく卑怯な戦い方をしているように思えて不快」(p.14)と言っていますが、時代劇のように「絵になる」戦い方をしている場合ではないということですね。


鯨声、鬨の声は、各家で様々に異なるが、元々は、武将が「えい(鋭・元気か)?」と問いかけ、兵卒が「おう(応・勿論だ)」と答える、問答形式の掛け声から始まった。死地に赴く将兵の恐怖を緩和し、味方の一体感を強め、敵側を威嚇圧倒する効果がある。また、勝利の後に凱歌として声を合わせれば、すなわち「勝鬨」ともなる。

p.60

これ、チコちゃんでも言っていた記憶がありますが、備忘録として書いておきます。


羚羊(レイヨウ)がカモシカのこととは知りませんでした。確かに「かもしか」で変換すると、「羚羊」が出てきますね。また、「あお」とも言うそうです。


永楽銭一文が、現在の百円ほどの価値を持った。重さは一枚二・八グラム。これが基本となる。永楽銭千枚を紐で束ねたものが銭一貫文――これが今の十万円に相当した。重さは二・八キログラムだ。

p.170

こう説明されると、分かりやすいです。


読み始めてしばらくは、「三河雑兵心得」シリーズの方が面白いかなと思っていました。与一郎の忠義を貫こうとするための要領の悪さが、ちょっと付いていけなかったので。でも与一郎が織田家の足軽になってから、俄然面白くなってきました。浅井家に仕えていた与一郎が、なぜ宿敵の織田家に仕えることになったかというと、1つには浅井家が滅び、牢人になったからです。もう1つの理由は、ネタバレになるので書けませんが。


ともあれ、続きが楽しみです。


見出し画像は、岐阜城から見下ろした長良川です。与一郎と弁造がよく、長良川の河原を密談の場としているので。


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