【読書】外伝で良かったのでは~『烏の緑羽』(阿部智里)~
この『烏の緑羽』は2022年10月に出ているのですが、そのことに気づいたのは2024年1月でした。なぜ気づかなかったのかは謎。
↑kindle版
序章冒頭からグロテスクなシーンで始まることに、うんざりしました。話の展開上グロテスクなシーンが必要なら、それは仕方がないことですが、最初からそうだと、ちょっと読む気が失せます。そもそも今巻は暴力シーンが多めで、少々うんざりしました。
第一章の奈月彦と長束の会話は、口調の不自然さが気になってしまいました。長束の口調に、臣下としての口調と兄としての口調が混ざるのは良いです。同様に奈月彦の口調に、主君である金烏としての口調と弟としての口調が混ざること構わない。でも弟としての口調の中にも、長束に敬語を使う部分と、ため口的な部分が混ざるのです。そして奈月彦・長束共に、全体的に貴種というより庶民としての言葉遣いにしか思えない。この山内の世界の表現を使うなら、宮烏ではなく里烏か山烏ではないかと思ってしまいます。
この3ヶ所に見られるとおり、作者の阿部さんは「人が、特に子どもが道を誤るのは、周囲のせい」と思っているようです。
ただ同時に、不幸な目にあう原因は、自分にもあると考えている節がある。
それ自体を否定する気はありませんが、だとすると真の金烏たる奈月彦が殺されねばならなかったのは、奈月彦と彼を取り巻く者たちに遠因があるということになってしまいます。そして、今巻のテーマの1つとして、格差社会への異議申し立てがある気がしますが、谷間に象徴される恵まれない存在が不幸なのも、一歩間違うと自己責任ということになりかねません。もちろんそれに抗うために、長束は人々の声を拾い上げているわけですが。
読んでいる途中で、これは本編というより外伝で書くべき話ではと思っていたら、作者自身、もともとは外伝のつもりだったようですね。でも作者へのインタビューによると、「思っていたより本編に食い込んだ内容になったので、いっそのこと第二部の3巻目として書いてみよう、というのが本作の経緯」だったそうです。
読了しても、やはりこれは外伝で良かったのではという思いは最終的にぬぐえませんでした。ただ、いよいよこの後本編では話が本格的に動き出すのでしょうから、その予感を与えられた点は良かったと思います。
次に発売されるであろう本編に期待します。
↑単行本
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