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ヴラド計画は成功したのか~『創竜伝3<逆襲の四兄弟>』(田中芳樹)~

講談社ノベルス版では、この巻から表紙だけではなく口絵のミニポスターや挿絵も、天野喜孝のものになります。だからというわけではないですが、「創竜伝」というシリーズのキャラが固まり、シリーズとしての安定感が出てきたように感じました。


1988年発行のものの画像は、以下のとおりです。



この巻では、世界を陰で操る「四人姉妹」が日本に仕掛けたヴラド計画について触れているのですが、読んでいて暗澹たる気分になりました。吸血鬼ドラキュラのモデルとなったヴラド=ツェペシュの名にちなむこの計画は、日本人を精神的に劣化させることが目的です。その結果生まれるのは、文中の表現を借りれば、こんな人間。


きたない、外見が他の者とちがっている、というだけで、相手の生命を奪って平然としていられる(中略)彼らの特徴として、かならず複数でひとりを、多数で少数を襲うこと。一対一の闘いなど絶対にしない。相手を一方的に傷つけ、けっして自分は傷つかず、自分ひとりで責任をとることはない。


これが書かれた当時は、ホームレスを集団で襲うとか、匿名で嫌がらせの手紙を送るといった行為が行われていたわけですが、21世紀の現在、SNSの登場により、この傾向に拍車がかかっているのは間違いないです。いわゆる「炎上」で、相手を死にまで追い込んでしまうのですから。


作中にあるように、「四人姉妹」の陰謀で日本がそうなってしまったのなら、ある意味ましです。でも陰謀でも何でもなく、そうなる道を自分自身で選んでしまったのでしょう。


そして20世紀の当時も21世紀の今も変わらない真実は、以下の言葉。

人をあやつろうとする者にとって、批判的認識力というものは最大の障害物


だからこそ香港では周庭(アグネス・チョウ)をはじめとする民主化を求める人々が弾圧され、ロシアではナバルヌイが毒殺未遂の挙句に拘束されているわけです。彼らに寄り添う心を、失いたくないものです。


一方で、心に刻むべき、希望を感じる言葉も見つかりました。


小さな一歩だ。だが一歩を進めることを否定する者は、いつか一万歩を後退することになるのである。
改革者はすべて反逆精神の所有者だった。現状を無批判に受け入れ、ぬくぬくとそこに安住し、つねに多数派に所属して少数派を疎外するような人たちが、あたらしい歴史をつくった例はない。


むやみやたらと反逆するのが正しいとはもちろん思いませんが、批判精神は持ち続けたいものです。




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