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世界は変わったような、変わっていないような~『創竜伝1―超能力四兄弟―』(田中芳樹)~

少し前に、『創竜伝15<旅立つ日まで>』が出たことを偶然知りました。へーと思い、本棚を見たところ、私が持っている最後の巻は13巻であることが判明し、愕然としました。そもそも2019年に14巻が出ていたことを、知らなかったのです。



これくらいで「愕然」という表現も大袈裟ですが、なぜ14巻が出たことに気づかなかったかというと、書店に行っていないからです。それこそ「創竜伝」シリーズを夢中になって読んでいた学生時代は、書店めぐりが趣味の1つでした。特に目的の本がなくても、学校帰りはよく本屋に行き、どんな本が出ているかをリサーチしていたものです。しかも大抵同じ日のうちに、複数の本屋に行っていたという……。いったい何の市場調査をしていたのやら(^-^; 就職してからも数年間は、頻度こそ落ちたものの、仕事帰りに本屋に行っていました。


なのになぜ本屋に行かなくなったかというと、それほど暇ではなくなったというのもありますが、そもそも本屋自体が減ってしまったからです。通勤経路から少しずつ本屋が減っていき、残っている本屋も品揃えが悪くなってしまえば、本屋に行く気自体が減退してしまいます。御多分に漏れず私も、Amazonをはじめネット書店のお世話になることが増えましたし。


そう、私はそれなりにAmazonを使っているのに、『創竜伝』の14巻も15巻も、Amazonの「おすすめ商品」のところに掲示されなかったのです。Amazonのアルゴリズムも、まだまだなんですね、私が『創竜伝』のファンなことは見抜けなかったのですから(笑)。


ともあれ、出ていることを知ったのですから、14巻も15巻も読むつもりです。でも何せ13巻が出たのは2003年のことであり、さすがにいろいろ記憶が曖昧なので、思い切って1巻から読み返すことにした次第です。



はい、言うまでもなく私が持っているのは、上記の天野喜孝が表紙を書いているバージョンです。竜堂四兄弟の三男である終と同い年だった頃に読みはじめました。その後次男の続の年、そして長男の始の年を超え、それでももちろんシリーズは終わらず……。


今回1巻を読み返し、これまた愕然としたのは、竜堂兄弟の叔母にあたる冴子が48歳に設定されていること。……うーん、気づけば冴子さんの年齢に近づいているという。はぁ、年は取りたくないものですね。


愕然というより苦笑したのは、いかに当時の世界と変わってしまったかということです。始と従姉妹の茉理が映画を観にいく時、「情報誌をのぞきこん」でいるのですが、今ならスマホでちょちょいですよね。ソ連ももうないし、防衛庁は防衛省になってしまったし……。


一方で腐敗している政治家は、今も健在ですね、残念ながら。日本政府がアメリカの顔色を窺ってばかりなのも。そういうものこそ、20世紀の遺物であってほしかったのですが。


心に残ったのは、以下の始の言葉。

「私利私欲のために悪事をはたらく人間なんていないさ。ヒットラーがユダヤ人やスラブ人を四〇〇〇万人も殺したのは、ゲルマン民族の千年王国を地上に建設するためだ。世のなかに悪人なんてひとりもいない、正義の味方で満ちあふれているから、こういうすばらしい世界ができあがったのさ」

政治家だけでなく民間人も、自分が信じる正義を振りかざし、その結果人を傷つけることも辞さない現在だからこそ、この言葉は重いと思います。


見出し画像は、2011年に陸上自衛隊の総火演を観にいった時のもの。1巻のクライマックスの舞台が、東富士演習場なもので。



以上、感想というより、『創竜伝』をめぐって想起したことを語るエッセイでした。『創竜伝』と並び、もはや完結しないのかと思われていた『アルスラーン戦記』の最終巻の感想は、以下のブログ記事をご覧ください。




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