【読書】咲くはわが身のつとめなり~『続 窓ぎわのトットちゃん』(黒柳徹子)~
昨年の発売時に話題になった『続 窓ぎわのトットちゃん』です。図書館の予約を待っていたら、発売から1年経っていました。
↑kindle版
『窓ぎわのトットちゃん』より前のエピソードや、『窓ぎわのトットちゃん』からこぼれ落ちたのであろうエピソードを拾いつつ、メインはもちろん『窓ぎわのトットちゃん』より後の、戦時中の出来事です。トットちゃんの家は一般家庭より裕福であったであろうに、それでも食糧不足に悩まされます。
そんなトットちゃんが風の寒さに涙を流していたら、おまわりさんに「戦地の兵隊さんのことを考えてみろ」と怒られるエピソードは、理不尽です。
泣くのをがまんするようになったトットちゃんが泣いたのは、後年、香蘭女学校の担任の先生が辞める時です。
ソ連の末期と同じですね。どちらも理不尽な状態でしたが。
出征式で日の丸の小旗を振るともらえるスルメの足欲しさに、出征式を心待ちにしたトットちゃんの姿もせつないです。
あの時代に無責任だった人すべてに、戦争責任があります。トットちゃんよりはるかに強く戦争責任を感じねばならない人ほど、無自覚でしょうけど。
そもそも軍服の支給の都合を考えての乙種・丙種合格があった時点で、日本に戦争を戦い抜く力はありませんよね。
トットちゃんの野生の勘で、青森大空襲から逃げのびたのは、神様のお導きでしょうか。
香蘭女学校初日の、讃美歌とお経が入り混じるシーンは、シュールでおかしいです。校舎が焼けてしまったため、お寺の建物を借りていたからですが。
香蘭の校歌の、「咲くはわが身のつとめなり」という一節は、とても良いですね。トットちゃんだけでなく、卒業生すべての心に染み込み、生涯を支える言葉となったことでしょう。
トットちゃんがもらった、「ふかしたてのサツマイモのようなあなたへ」というラブレターも、シュールながらせつないです。トットちゃんが後から考えたように、食糧難の時代ならではだったのでしょう。
ケストナーとその翻訳者の高橋健二、そしてリンドグレーンから手紙をもらったことがあるトットちゃん、すごいです。
すごいと言えば、16歳のトットちゃんの手相を観た手相見の人。「結婚は、遅いです。とても遅いです」、「お金には困りません」、「あなたの名前は、津々浦々に広まります」って、大当たりですよね。
NHK劇団員の養成時代も、正式に劇団員になってからも、トットちゃんをさり気なく気にかけてくれた大岡龍男先生、教員としてかくありたい姿です。
個性を引っ込める、と言ったトットちゃんに、「そのままでいていい」と言った飯沢匡(ただす)先生も。
死ぬまで病気をしない方法を聞いたトットちゃんへのお医者さんの答えも良いです。
自分から進んでやりたいと思う仕事だけをやるというのは現実には難しいですが、せめて嫌々やらないようにしたいものです。
それにしてもトットちゃん、ものすごく文章が達者です。もちろんこれだけの分量を、すでにご高齢のトットちゃんがすべて一人で書いたかは、疑う人もいると思います。恐らく事実関係などは、秘書か編集者の方が調べたのではないでしょうか。でも前作の『窓ぎわのトットちゃん』と語り口は同じなので、ほとんどご自分で書いたと私は思います。例え口述筆記だったとしても、書きおこしをした人は、前作の文体と同じにできたということで、それはそれですごいですよね。
見出し画像は、弘前市のご当地ポストの上に乗っていた巨大リンゴです。トットちゃんたちが疎開していたのは弘前市ではありませんが、真っ赤なリンゴに目を奪われる戦時中のエピソードにちなみました。
↑単行本