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読んだ本

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読んだ本の感想です。基本、ネタバレはありません。
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#推薦図書

【読書】不条理さに満ちた絵本~『優雅に叱責する自転車』(エドワード・ゴーリー著、柴田元幸訳)~

柴田元幸さんの訳であること、そしてスタイリッシュなような不条理なような表紙に惹かれ、手にしました。 『優雅に叱責する自転車』という題名からして奇妙ですが、この自転車が登場人物2人を叱責しているシーンはありません。でも無言で2人と旅をすることを通じ、2人の行いを叱責しているのかもしれない、とも思えます。 原文と日本語訳を見開きで見ることができるので、英語の勉強にもなるかな。もっとも、簡単な英語ながら不条理さを含んでいるので、やはり柴田さんの日本語訳抜きでは無理ですが。 「

【読書】予想外の展開が待っている~『大力のワーニャ』(オトフリート・プロイスラー作、大塚勇三訳)~

プロイスラーファンなのに未読だったので、読んでみました。 題名のみを知っていた時、勝手に「ドイツの元気な女の子の話」だと思っていました(多分、『長くつ下のピッピ』と混同している)。読み始めたら「ロシアの怠け者の男の子(というか、もはや青年)の話」で、びっくりしました。なるほど、ワーニャはイワンの愛称なのね。 その怠け者のワーニャを、父親のワシーリとおばのアクリーナが甘やかすので、いっこうに怠け癖が抜けないわけです。ワーニャの兄2人にしてみれば、たまらないですよね。でもおば

【読書】映画のノベライズとしては、良くできている~『時の翼にのって ファラウェイ・ソークロース!』(田村源二)~

*この記事は2019年2月のブログ記事を、再構成したものです。 私は映画「ベルリン・天使の詩」が好きです。 だから続編である「時の翼にのって ファラウェイ・ソークロース!」も、一度はぜひ観てみたいと思っています。 しかしアマゾンプライムでは観ることができないし、DVDを買おうとすると、何と現在7,000円以上もします(2024年2月21日現在)。 よって、せめてノベライズ版を読もうと思ったら、こちらも3,000円以上します(2024年2月21日現在)。 そんなわけで

賢治らしい作品~『氷河鼠の毛皮』(宮沢賢治)~

これを読んだきっかけは、テレビで「氷河ネズミ」という名のコケがある事を知り、そういえば宮沢賢治の作品に『氷河鼠の毛皮』という作品があるけど、読んだことがないなぁと思ったことです。 ↑kindle版 ↑kindleユーザーではない方は、青空文庫版をどうぞ。 「十二月の二十六日の夜八時ベーリング行の列車に乗つてイーハトヴを発つた人たち」の物語ですが、登場人物の一人にイーハトーブのタイチという、嫌な奴が出てきます。寒さ対策に自分が様々な動物の毛皮を持っていることを自慢している

最後の最後まで、意外な展開が待っている~『みかづき』(森絵都)~

*この記事は、2019年5月のブログの記事を再構成したものです。 塾を中心に教育業界に携わってきた大島一族3世代をめぐる物語です。ようやく読み終わりました。いや、長かった……。 長いだけでなく、これほど主要な登場人物の誰にも共感できない小説を読むことも、あまりないです。もちろんその時々の感情には共感できる面もありましたが、人間存在としては、受け入れがたい人ばかり。 なのになぜ読了できたかといえば、読み始めたからには、途中で投げ出すのは嫌だという意地もありました。でも何よ

苦手意識が薄らいだ~『グリーン・グリーン』(あさのあつこ)~

私は個人的に、あさのあつこの作品が苦手です。苦手と言いつつ、結構な冊数を読んでいるのですが、ある段階で「あさのあつこの作品は、もう原則読まない」と決めました。 もちろん私が読んだ作品の他に、良いものがたくさんあるであろうことは承知です。でも読める本の冊数には限りがあるので、苦手な作者の作品を読む時間を、他の作者の作品を読む時間に当てた方が良いと思ったので。 ですがこの「グリーン・グリーン」シリーズは、たまたま作品紹介を読み、ちょっと面白そうだと思ったので、読むことにしまし

年に1度のお馴染みの世界~『こいごころ』(畠中恵)~

畠中恵の「しゃばけ」シリーズ第21弾です。 ↑kindle版 マンネリもマンネリ、もうこのシリーズは読むのをやめても良いかなと思いつつ、新刊が出ると、一応チェックしてしまいます。とはいえ買わずに、図書館で借りて済ませているので、たいてい読むのは1年後くらいなわけですが。 今回も、何だか謎解きの詰めが甘い話があったりして、ちょっともう一つでした。中でも「せいぞろい」は、そもそもなぜ千両箱が川の中にあったかが説明されておらず、もやもやしました。まぁ私が読み落とした可能性もあ

矛盾はあっても、面白い~『横浜大戦争 明治編 』(蜂須賀敬明)~

*この記事は2020年1月のブログの記事を再構成したものです。 横浜の各区を司る土地神たちが活躍する、『横浜大戦争』の続編を読んでみました。 ↑kindle版 今回は保土ケ谷・中・西の3人の土地神が明治時代にタイムスリップし、現代に帰ろうとする過程で事件を解決する話。ちょびっとだけ、ロマンスもあり。文章力も物語の構成力もついたようで、前作より格段に面白いです。ただ相変わらず文法的な間違いは、前作より減ったものの、結構あります。私はハードカバーで読んだのですが、文庫化する

ハマっ子心をくすぐる意欲作~『横浜大戦争』(蜂須賀敬明)~

*この記事は、2019年12月のブログの記事を再構成したものです。 小野不由美の『白銀の墟 玄の月』の一・二巻を有隣堂横浜駅西口ジョイナス店に買いにいった時、そのすぐそばに、『白銀の墟~』ほどではないものの、結構な分量で平積みになっていた本がありました。それがこの、『横横浜大戦争』です。 ↑kindle版 裏表紙によれば、こんな感じの話。 いや、ハマっ子心をくすぐるじゃないですか。というわけで、読んでみました。 正直ラノベ的で、よくこれを文春文庫で出したなぁという感

成瀬あかり史を見届けたい~『成瀬は天下を取りにいく』(宮島未奈)~

NHKのラジオで取り上げられていたのを聞き、読んでみたいと思った作品です。 ↑kindle版 短編6本からなるのですが、1本目の「ありがとう西武大津店」の「島崎、わたしはこの夏を西武に捧げようと思う」という書き出しの成瀬の言葉から変で、かつ引き付けられました。 読み始めて分かったのが、これが一種のコロナ文学であること。なぜ成瀬が「この夏を西武に捧げる」、つまり閉店が決まった西武大津店からの生中継に毎日映ることを決意したかというと、理由の1つはコロナ禍で思うように作れなか

毒食らわば皿まで~『ファイブスター物語17』(永野護)~

もはや「毒食らわば皿まで」の心境で読んでいる「ファイブスター物語」の最新刊です。読むのをやめても良いのだけど、新刊が出ると、つい買ってしまいます。 まず冒頭の「登場人物」だけで、結構読みでがあります。でもこれをこなして頭に入れておかないと、本文がますます分からなくなるので、がんばって読まねば。ヘアード・グローバーの説明中の、以下の言葉には、現実世界とのリンクを感じてしまいました。 今の国連は、まさに「大国の都合に振り回され」ていますよね。今の地球には星団法ならぬ「地球法」

谷崎先生はシンプリスト~『陰翳礼讃』(谷崎潤一郎)~

先日読んだ『シンプリスト生活』に出てきたので、読んでみました。 ↑kindleユーザー以外の方は、青空文庫のものをどうぞ。 実は『陰翳礼讃』は、中学校だったか高校だったかの現代文の授業で、一部を読んでいます。当時は何せ女子中学生(女子高生)なので、同級生たちが異常に嫌がっていたのを覚えています。谷崎が良しとする物の、どこが良いんだか分からなかったわけですね。感性とか言われても、意味不明というか。 でも実は当時、私自身は「そこまで嫌がらなくても」と思っていました。別に私に

懐かしい仲間たちとの再会~『龍花艶舞~四龍島夜曲~』(真堂樹)~

「四龍島」シリーズは最初の数巻を除き、発売と同時にリアルタイムで読んできた作品です。なのにこの『龍花艶舞』が、電子書籍限定で2年半も前に出ていたとは、不覚にも知りませんでした。 表題作の「龍花艶舞~四龍島夜曲~」は、懐かしい仲間たちに再会したような嬉しさを感じつつ、楽しく読み進めることができました。真堂さん自身、「あとがき」で「故郷に還ってきた気分」「物語の流れと自分の呼吸が一つになって、うねり、息づき、疾走する感覚が懐かしい」と書いていますが、同感です。真堂さんはやはり「

ヘタレっぷりを見るのも、これで最後~『お坊さんとお茶を3 孤月寺茶寮三人寄れば』(真堂樹)~

*この記事は、2018年11月のブログの記事に加筆修正をくわえたものです。 「お坊さんとお茶を」シリーズの最終巻です。短編が3本収録されています。主人公の三久のヘタレっぷりを見るのもこれで最後かと思うと、ほっとするやら、さびしいやら、といったところでしょうか。 ↑kindle版 「秋の夜の月」で、三久がへとへとになるまでがんばり、限界だからこそ「ちょっとくらい」という気持ちでゴミの始末を怠ったら、ボヤ騒ぎにつながってしまうシーン、身につまされました。 ありますよね、そう