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読んだ本

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読んだ本の感想です。基本、ネタバレはありません。
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2020年12月の記事一覧

嫌な奴の赤ん坊の頃を想像してみる~『カラーひよことコーヒー豆』(小川洋子)~

このエッセイ集は雑誌「Domani」の連載に書下ろしを加えたものです。女性誌の連載に相応しく、1本は1本はさらっと読め、でもちょっとだけ考えさせられるものもある、という感じです。 雑誌、特にファッションに重点を置いた女性誌のエッセイに求められる点の1つは、基本的にはその時だけ楽しんで、あとは読んだことすら忘れてしまう軽さかと思いますが、そういう意味で成功しています。 ↑文庫版 実はこの本、小川糸の『育てて、紡ぐ。暮らしの根っこ』と『針と糸』を借りた時、これも小川糸さんの

春樹さんの声が聞こえてくる~『猫を棄てる 父親について語るとき』(村上春樹)~

副題どおり、春樹さんがお父さんの人生や、お父さんとの思い出について語った本です。春樹さんが目の前で、とまでは言えないまでも、ラジオを通して語っているのを聞いているような気分で読むことができました。 ↑kindle版 私は図書館で借りて読んだので、帯のない状態だったのですが、帯には「時が忘れさせるものがあり、そして時が呼び起こすものがある」と書かれていたようです。それを踏まえると、この本がさらに大きな意味を持つ気がします。無料で読んでいて注文をつけるのも何ですが、こういう帯

小川糸作品は、しばらくお休みにしようかな~『針と糸』(小川糸)~

『ツバキ文具店』に始まり、割と集中的に小川糸さんの小説とエッセイを読んできました。 でも今回の『針と糸』を読み、しばらく小川糸作品はお休みにしようと思いました。 決してこのエッセイが、良くなかったという訳ではありません。作家研究というか、小川糸作品の背景にあるものを知るには、良いと思います。小川糸さんの小説には、「祖母(あるいは祖母的なもの)から孫への継承」、「問題のある母との確執」、「父親の不在」、「再生」など、共通するテーマがありますが、それらはそのままではないにせよ

内容が古くないのが哀しい~『閉された言語・日本語の世界』(鈴木孝夫)~

この本は題名通り、日本語についての様々な角度からの考察からなるのですが、印象に残ったのは、本筋とは別の部分です。 ↑kindle版 まず面白かったのは、日本の旅館の食事についての考察。ご承知のとおり、旅館では食べきれないほどの食事が出てくるのが常ですが、それはある意味客の好き嫌いへの対策だというのです。つまり「出す料理の種類を多くして、客が自分の食べるものを選択できる幅を与えておけばよい」ということ。 あと著者は、1970年のクリスマスイブに「日航のスチュワーデスがサン

小川糸作品の初心者には、ちょっと厳しいかも~『リボン』(小川糸)~

少し前に、小川糸の『つばさのおくりもの』のレビュー記事をアップしました。 『つばさのおくりもの』とセットというか、その本編にあたるのが、今回ご紹介する『リボン』です。 ひばりが祖母の「すみれちゃん」と協力して孵したオカメインコのリボンが、出会った人々の人生の方向を、少しだけ変えていく話です。本来は『リボン』を先に読んで、『つばさのおくりもの』を読むのでしょうが、私のように逆の順番で読んでもまったく違和感はありませんし、それはそれで味わい深いものがあると思います。 私はも

ゆるさが良い~『村上T 僕の愛したTシャツたち』(村上春樹)~

春樹さんが所蔵されているTシャツの写真に、エッセイを添えたものです。 ↑kindle版 発売当時、「いくらなんでもゆるすぎない?」と思い、単行本で税込1,980円、kindle版でも1,710円という値段もあり、買いませんでした。実は今回読んだのも、図書館で借りてのことです。そりゃ、ただならね(^-^; とはいえ実は、買って読んでも良かったかなと思いました。読み返したくなったら、kindle版を購入すると思います。想像にたがわずゆるいのですが、良い意味でゆるく、読んでい

取り入れたい習慣~『育てて、紡ぐ。暮らしの根っこ』(小川糸)~

「ツバキ文具店」シリーズや『食堂かたつむり』をきっかけに、「小川糸月間」に突入しつつあります。今回はエッセイを読んでみました。 ↑kindle版 「日々の習慣と愛用品」という副題がついている通り、糸さんの暮らしのルールや実際に使っているものが、多くの写真も添えて紹介されています。 読んでいて、取り入れたいなと思う習慣も少なからずありました。例えば千切りショウガの蜂蜜漬けや、小物を棚の扉の中など、あえて見えない場所に飾るというのは、ぜひやってみたいです。 一方で、化粧水

使命を全うすること~『つばさのおくりもの』(小川糸)~

オカメインコの視点で書かれた物語で、挿絵も多いので、小学生でも読めます。 GURIPOPOの絵のタッチは物語の雰囲気によく合っているのですが、残念ながら顔といい体つきといい、セキセイインコにしか見えません。オカメインコはインコという名前でも、オウムなのに。というわけで見出し画像には、オカメインコの写真を使わせていただきました。 ヨウムのヤエさんとの出会いから物語は始まり、人間の女の子「みゆきちゃん」とのエピソードがメインです。みゆきちゃんと別れ、長い旅に出た末、たどり着い

作品世界の追体験に役立ちます~『ツバキ文具店の鎌倉案内』(ツバキ文具店)~

『ツバキ文具店』と『キラキラ共和国』に出てくる寺社やお店の紹介に、ミニエッセイが添えられた本です。 あえて写真ではなく、「しゅんしゅん」の白黒イラストを添えており、それが成功していると言えます。でも写真でも良かったかなという気もします。 鎌倉はそれなりに知っている土地なのですが、行ったことのないお寺、食べたことのないものも多く載っており、機会があれば行ってみたいなと思いました。 「ツバキ文具店」シリーズのファンの方には、作品世界を追体験するのに役立つという意味で、お勧め

本編の奥行きが増す~『祝祭と予感』(恩田陸)~

ピアノコンクールを題材とした『蜜蜂と遠雷』の、番外編にあたる短編集です。 ↑kindle版 本編の後日談や前日談、背後にあったエピソードからなります。 時に番外編や外伝は、本編の出来が良いほど、時にその世界を壊すことがありますが、この『祝祭と予感』はその恐れはまったくありません。むしろ本編のファンは、ぜひ読むべきだと思います。本編では語られなかった様々なことが分かり、本編の話の奥行きが、さらに増します。 読み応えたっぷりだった本編とは打って変わり、1つ1つの話も短いし

話を半分に割り引いても、怖い~『新版 ショック!! やっぱりあぶない電磁波 忍びよる電磁波被害から身を守る』(船瀬俊介)~

ショッキングな本を読みました。 題名そのままで、私たちの身の回りにあり、かつ増えつつある人工的な電磁波の恐ろしさを説いた本です。 リニアや5Gの危険性は理解できたし、私もなるべく電磁波を浴びないようにしようとは思いました。ただし、ちょっと書いてあることをそのまま100%受け入れる気にはなれません。その理由はというと、 ①同じことの繰り返しが多い 筆者は恐ろしさを訴えるため、何度でも同じことを繰り返したいのだとは思いますが、逆にしつこいと取られ、耳を傾けてもらえなくなる