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オオカミである罪【掌編】

「動物占いしたことある?」
と彼は聞いてきた。
彼と僕はバイト先でまだ知り合ったばかりだったので、そういった類の質問を繰り返していたのだ。

大学、学部、年齢、血液型、家族構成・・・云々。

そうやって、お互いの情報を共有することで、その人の輪郭を確かめ合い、その人が分かったような気になるというわけだ。

「動物占いか、昔本で読んだことあるよ。」僕は中高生くらいの時の記憶を手繰り寄せながら答えた。「僕は確か、オオカミだったな。」
彼は出会った時から見るからに爽やかな好青年といった笑顔をしていたが、僕の「オオカミ」という言葉を聞いた時、一瞬だけ彼の表情が固まったように見えた。
「・・・おお・・・そうなんだ!オオカミか。・・・ちなみに俺は、サルだったよ。」
彼はすぐに笑顔に戻ってそう言うと、僕をちらっと見て、すぐに目を逸らした。心なしか、彼と僕との間に少し距離ができてしまったような気がした。

*

「昔一緒に働いていたやつにさ、動物占いがオオカミの人がいたんだよね。」
休み時間に彼は唐突に語り出した。
「それでさ、そのオオカミの人が俺の上司的な役割をしていたんだよね。でも、ほら、オオカミって優秀だけど独善的で相手の気持ち考えずにガンガン言ってくるタイプの人が多いだろ?まさに、その人もそういうタイプだったんだよ。」

僕はスマホから顔を上げ、彼を見た。
「そりゃ、大変だったろうね。」
正直、オオカミがどのようなタイプなのかはあまり覚えていなかったが、なんとなくそんな上司は想像できた。

彼は少しうつむき、小さくため息をついた。
「大変ってもんじゃなかったね。アメとムチのうち、ムチしか持っていないような人で、俺はいつも詰められてばかりだったよ。俺が作業をうまくできた時でも、それが当然だって言うように褒めてもらえなかったしさ。お陰で、あの時期は結構つらくて、毎日のようにお腹を下してたわ。」

「•••なかなか、厳しい人だったんだね。」
僕はそれ以上彼に言うべき適当な言葉がみつからなかった。彼は、黙っている僕をじっと見つめていた。

「•••••この数週間、お前と仕事して思ったんだけどさ。お前もやっぱりオオカミだなって思ったわ。うん、オオカミだわ。」
この時、彼の中で僕は完全にオオカミとなったようだった。

それからというもの、僕が彼の前で「オオカミらしい」言動をすると、彼からいつも指摘されるようになった。

「やっぱり、オオカミってそういうところがあるよね。」

「ああ、あの人と同じこと言ってる。やっぱりオオカミ同士、言うことが似てるんだな。」

・・・等々。

どうやら、彼の中で、彼を傷つけたオオカミの人と、僕のオオカミ的な要素が重なり合って、あたかも同一人物のように扱われているようだった。

その人が僕で、僕がその人になった、ということだ。

仕方ないので、僕はその人に代わって彼に謝った。

「ごめんね。」

いや、僕はその人として彼に誤った。

「あの時は、ごめんね。」

いやいや、僕は自分の罪として彼に謝った。

「オオカミで、ごめんね。」

彼は僕を通してその人のことを許してくれるかな。
また、その人を許すことで、この僕のことも許してくれるかな。

とりあえず、世界中のオオカミは彼に謝るべきだ。これは、オオカミであることの連帯的な罪なのだ。

そして、今日もオオカミに傷つけられている全ての人に、心からの謝罪を!!

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