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「好きなことって、仕事にしなきゃダメ?」趣味が聖域だったアラサーOLの、静かなる挑戦

コピーライターの阿部広太郎さん主宰の連続講座「企画でメシを食っていく」、通称企画メシ。
この記事は、本講座の2022年度参加者=企画生の一人である私Marfyが、他の企画生一人ひとりに「なぜ、あなたは今ここにいるの?」と尋ねていく自主企画です。
かつて講座を受けていた方には「今はこんな人がいるんだ」という興味のきっかけに、これから応募を検討している方には「参加者はこんな人たちなんだ」と参考にしていただけますと幸いです。

「好きなことでメシを食っていく」生き方は、今や現実的な選択肢のひとつとなりました。

その気になれば、Twitterで漫画を描き続け書籍化させることも、動画配信で会社員以上の収入を得ることも、自作の音楽を地球の裏側にいるファンに届けることも、パソコン一つで可能な時代です。

しかし、2022年度企画生のゆなてぃーさん(仮名)は「好きなことは仕事にしたくない」と語ります。
そんな彼女の信念は、どのように形作られたのか。
そして、彼女が企画生としてエントリーするに至った理由とは。
今回じっくりと、お話を伺うことができました。

好きなことを、嫌いになんてなりたくない

読書、ディズニー、野球観戦、アイドル鑑賞など、幅広い趣味を持っているゆなてぃーさん。その多趣味さと熱量は、「企画メシ」に提出した課題作品からもうかがえます。

(企画メシ初回課題「広告の企画」より 一部切り抜き)

彼女自身「特に大好き」と語るディズニーに関しては、自宅のある東海地方から舞浜まで毎週新幹線で通っていたというほど。彼女の好きなことに対する情熱は並々ならぬものがありますが、反面「趣味は趣味のままでいたい」と、趣味と仕事の間で明確に線引きをしています。

「ディズニーが好きだ」と言ったら、「じゃあ、パークのキャストになれば?」とか「オリエンタルランドで働けば?」とよく問われるんですけど、 私の答えはいつでも「ノー」です。
当然、運営側だからこその楽しさもあると思います。けれど仕事である以上好きなことであっても「嫌だ」と思う時って必ずあるじゃないですか。
たとえキャストとしてでも「今日、ディズニー行きたくない」なんて、私は絶対に思いたくはないんです。

消費者として何かを好むことと、提供者として何かを好むことは似て非なるものです。世の「好きなことを仕事にして失敗した」事例の大半は、これら2種類の「好き」を混同した結果起こってしまうものです。

ゆなてぃーさんは、両者を混同することの危険性を理解していました。
そして、自分が消費者として好きなものを仕事にしたことで嫌な思いを経験し、その結果最終的に自分の中にある「好きという気持ち」が失われてしまうことを何より危惧していました。

しかし、彼女が好きなことを仕事にしない理由はそれだけではありません。
その原点には、職業選択とアイデンティティの確立に頭を抱え続けていた、学生時代の経験がありました。


「私に何ができるか?」が、仕事選びの出発点

小さい頃からの夢が、行政書士になることだったんです。

幼いころから、誰かを陰で支えることが多かったゆなてぃーさん。小学生の時に観たテレビドラマの影響で、行政書士を志すようになりました。前面に立ち人々を守る弁護士よりも、一歩引いたところから人々を支える姿が自分の性格に合っていたと語ります。

県内トップの高校を卒業したのち、大学は法学部に進学。資格取得のためのカリキュラムが充実していた学校だったこともあり、2年生から本格的に行政書士の勉強を始めました。

夢に向かって順調に歩みを進めていたゆなてぃーさんでしたが、ある日の授業中、講師の口から発せられた何気ない一言をきっかけに、自らの進路を考え直すようになりました。

大学の資格講座の先生が、行政書士の方だったんです。その方が授業中の雑談で何気なく「書類を書くだけで報酬をたくさんもらえるから、行政書士は良い仕事だよ」と話されていたのを聞いてしまって。
小さい頃から憧れていた職業の方が、やりがいよりも先に収入を訴求していたことにギャップがあったというか。「本当に、これでいいのかな?」と、自分の選択に疑問を持つようになりました。

将来の夢が現実味を帯びてくるにつれて、綺麗ごとだけではない実態も知るようになり、それまで揺らぐことのなかった信念が揺らぎ始める。何かに真剣に打ち込んだことのある方なら、同じような気持ちになった経験があるのではないでしょうか。

ゆなてぃーさんもまた、幼いころからの夢であった行政書士への就職に疑問を持ち始め、民間企業など他の選択肢も視野に入れるようになりました。

ここまでのいきさつを聞くと「この人は自分が憧れていた人たちの俗っぽい一面を知って、嫌気がさしてしまったのだろう」と考える方もいるかもしれません。
けれど実際は、彼女の違和感はもっと深いところ、自らの存在意義に端を発していたのです。

就職活動が近づくにつれて、「働く」という行為をだんだん自分ごととしてとらえ始めますよね? 私はそのとき「何を為して得たお金なら、胸を張って受け取れるだろう?」という視点を第一に考えていました。
当時の私には、書類を書くだけで多額の報酬を貰える行政書士の仕事が分不相応に思えて、急に怖くなったんですよね。自分が過大評価されているようで。「本当にそれだけでいいの?」と思ってしまった。

多分、自己評価が低いんですよ。前提として、自分が社会の役に立てるはずがないと思っていた。何も誇れるものがないちっぽけな私だけど、それでもお金を稼いで生活していかなきゃならない。じゃあ、どんな仕事なら納得できるだろう? 何をすれば、自信を持ってお給料を受け取れるだろう?
 思い返せば、就活は他の人とはかなり違う動機で動いていた気がします。

仕事を通じて世の中に貢献し、その対価として給料を受け取る。両者の関係性を考えた時に、バランスがおかしくなっていやしないか。自分が手にする対価が、世の中への貢献量に見合っていないのではないか。

 再び自分自身を、世の中を見つめ直し、本当に自分が納得できる選択を模索し始めたゆなてぃーさん。興味のある業界を片っ端から調べた末に、選んだのは保険業界。
その理由は、世に数ある商品やサービスの中でも特に、困っている人に手を差し伸べられる仕事だったからだそうです。

保険という商品は「お客様に嫌なことがあったときに、助けてあげられる」という点が特徴的で、そこに魅力を感じました。
旅行やエンタメの場合、お客様は楽しさを求めてそれらのサービスを購入すると思うんですけど、保険はそれとは真逆。お客様が困っている時に、救いの手を差し伸べてあげるサービス。
多分「困っている人を助けたい」って気持ちが根底にあるんでしょうね。

 何もできない自分でも、これなら誰かの役に立てるかもしれない。
幼少期に思い描いていた姿と違う形にはなったものの、「困っている人を助けたい」気持ちはそのままに、ゆなてぃーさんはご自身のキャリアをスタートさせたのでした。


このお金は、本当に私が稼いだもの?

新卒で入社した会社では東海エリアの支店に配属され、事務職員として主に顧客に対しての保険金支払い処理を担当。自分の働きぶりが人々の役に立っていることを直に感じられ、充実感をもって働くことができたといいます。

仕事は楽しかったです、すごく。「お客様一人ひとりの事例に対して、約款やマニュアルを根拠にして適正な支払金額を決めていく」という仕事内容がすごく自分に合っていました。その作業を、どれだけ早く正確に数こなせるかによって、自分がどの程度お客様の役に立っているかが可視化される点もよかったです。

 「困っている人を助ける」という信念を、自らの仕事で体現させたゆなてぃーさん。部署内での成績も優秀だったそうで、「とても楽しかった」と当時を振り返っていました。

同業他社への転職を経て、気づけば20代も終わりに差しかかるころ。
これまでのキャリアを改めて振り返る中で、彼女は自身の報酬への考え方が変化していることに気づきました。

20代の最後に「20代のうちにすべきこと~」みたいなタイトルの本を読み漁りたいと思って。目についた本を片っ端から手に取ったんですよ。「社長に尊敬の念を持て」とか「失敗はたくさんしておけ」とか、本によってそれぞれ違うことが書かれていたんですけど。それでも、お金に関することって、どの本でも何かしら言及がされているんですよね。
読書を通じて自分と向き合っていく中で、「自分がお給料をもらえるのは会社の存在があってこそだ」と考えるようになって。「会社の看板がないと、私は生活すらできないんだ」って、改めて気づいたんです。

 「自分が給料をもらって生活をできているのは、会社という大きな傘の中にいるからだ」
「ひょっとしたら私は、私自身の力で生活できていないのかもしれない」

自らのキャリアと将来に不安を感じ始めたゆなてぃーさんは、今度は「自分の力で稼ぐ力をつけたい」と考えるようになりました。


毎月もらう何十万より、重みを感じた1000円

 これまで自分がもらっていた給料は、真に自分の力で稼いだとはいえないかもしれない。じゃあどうすれば、「自分の力で稼いだ」といえるだろう? 
日夜思案を重ねた末に、ゆなてぃーさんが導き出した答えは「企画すること」でした。

営業の仕事は、自分の契約分がそのまま会社の利益になるという点で、お給料を「自分で稼いだお金」と実感できると思うんです。けれども、じゃあ自分が営業できるかと問われたら、ちょっと自信もなく。
それに、何か物を売って押し売りみたくなるよりは、自分自身を売る方がいい。そう考えたときに「自分の企画で勝負する」って面白そうだし、かっこいいなと思ったんです。

 形のあるモノではなく、無形の商品を扱う仕事。その中でも「自分のアイデアや調整力」をそのまま商品として提供できる企画の仕事に、ゆなてぃーさんは一筋の可能性を見出しました。

実際、その選択は彼女にとって、まったくの思い付きというわけでもないのです。
新卒で入った会社では、将来は業務企画の仕事をしたいと考えていたそうです。業務の指針制度を作る部署へ異動し、現場で感じた現状の不満点を解消することが当時の目標でした。

自分にとってまったく新たなスタイルを模索する最中、ゆなてぃーさんにとって小さな転機となる出来事が。
試しにとWebメディアに寄稿した記事で、見事賞金を獲得。得たものは額面上こそ些末なものでしたが、彼女にとってはとても大きな意義があったといいます。

「記事を書いて選ばれたら、賞金がいくらもらえます」みたいなコンテストに、たまたま仕事でモヤモヤしていた時期に一度だけ参加したことがありまして。テーマは確か「仕事に対する想い」だったかな。その時、賞金として1000円をいただいたんですけど。そのたった1000円が、いつももらっているお給料の何十万円よりもずっと価値のあるもののように思えたんです。
こういうお金のもらい方ができたらいいな、と思いましたよね。

 記事を通じて、自分の経験や考えをアウトプットしたところ、賞金となって帰ってきた。

ゆなてぃーさんにとって初めての、真に自分の力で手に入れたお金。
毎月銀行口座に入ってくる給料の金額よりずっと少ないながらも、その有難さはまるで違ったといいます。
「もしかしたら、自分の力で稼げるかもしれない」と、かすかな手ごたえすら感じたそうです。

 同時期に、SNS上の告知によって企画メシの存在を知ったゆなてぃーさん。『心をつかむ 超言葉術』を読んで以来、阿部さんのTwitterはフォローし続けていたそうですが、ちょうど自分の志向と募集告知が重なったタイミングだったこともあり、思い切って参加を決意しました。


挑戦と葛藤、そしてその先へ

 こうして、晴れて2022年度の企画生となったゆなてぃーさん。
企画生としての存在理由を尋ねると、一言で「挑戦」と表現してくれました。

やはり、皆さん仕事で企画に携わってきた方が多いなという印象です。これまで企画とは縁遠かった会社員の私が、何で企画生としてここにいるのかって問われたら、確かに「なんでだろう?」と思っちゃいます。それでも「自分発案で何かできたら、面白くなるな」っていう感じで。
「挑戦」という言葉が一番しっくりきます。

これまでとは違う働き方、新たなステージへと向かって、歩み始めたゆなてぃーさん。それと同時に、これまで感じることのなかった葛藤が自分の中に生じてきたと語ります。

「企画」という職能を活かして自分の力だけで稼ぐとなったときに、それまで明確に線引きをしていた「好きなこと」と「仕事」の2つを切り離せなくなるのではないか、と心配しています。
もちろん、「自分で稼ぐ」と「好きなことで稼ぐ」はイコールではないですが、私自身が世の中にどんな価値を提供できるだろうと考えたら、やっぱり「好きなこと」が第一候補になってくるんですよね。

これまでは、趣味と仕事を明確に区別できた。でも、これから自分のありたい姿を追及していく過程で、いつか両者を切り離せなくなる日が来るかもしれない。

期待と不安を赤裸々に語りつつ、その葛藤を乗り越える手立ては「今後、企画メシの課題や講座を通じて明らかにしていけたらいい」と、はにかみながら答えてくれました。

「私は世の中の役になんか立てない」と、不安がっていた少女はもういない。
仕事で誰かを支えたい。自分の「好き」もあきらめない。
しなやかに。したかかに。それがレディの流儀というわけです。

今回、インタビューにご協力いただいた方

ゆなてぃーさん

多趣味でフットワーク軽めなアラサー。
金融関係の会社員。
企画メシで出会ったご縁を大切に…
真摯に向き合い日々奮闘中。
Twitter:@micchannn_37


あなたのちょっとのやさしさが、わたしの大きな力になります。 ご厚意いただけましたら、より佳い文章にて報いらせていただきます。