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ふたりの巨人は龍に乗って。『空をゆく巨人』感想

僕は「規格外の稀な人」を追う稀人ハンターを生業にしている。開高健ノンフィクション賞を受賞したワイフの著書『空をゆく巨人』に登場する実業家・志賀さんと、中国出身の世界的現代美術家・蔡國強さんはスケールがでかすぎて、常識とか国境とかしがらみとかそういう窮屈な箱を突き破るようにドッカーンとはみ出していて、もはや稀人でもなく、まさに巨人だ。

ジブリのプロデューサー、鈴木敏夫さんが、帯文に「ひとりでできることなどたかが知れている。しかし、ふたりになると奇跡が起こる」と書いていて、なるほど、と思った。志賀さんと蔡さんはきっと、胸のうちに真っ赤なマグマを抱えている。ふたりが出会ったことで、川の支流が合流して大河になるように、とてつもなく大きな熱を放つマグマがあふれ出したのだろう。

妻が『空をゆく巨人』を描いたことで、僕はなんともラッキーなことに志賀さん、蔡さんと知り合うことができた。ふたりにお会いして感じたのは、ふたりは計り知れない巨人だけど傍若無人ではないということだ。

巨人ってでかすぎて足元が見えないから、建物を踏みつぶしたり、人間を蹴散らしたりする印象がある。でも、志賀さん、蔡さんのふたりはむしろ気遣い、心遣いの人で、周囲の人たちを決しておろそかにしない。ふたりのマグマは周囲を焼き尽くすのではなくて、大河のように人を惹きつける。だからこそ、ふたりのもとには大勢の人たちが集うのだろう。

東日本大震災の後、志賀さんが作り上げたいわき回廊美術館は、蔡さんのアイデアで空を駆けめぐる龍のような、躍動感ある構造をしている。ふたりの巨人はきっと宙を舞う龍にまたがりながら、次はどこに行こう、なにをしようと考えているに違いない。

ふたりの巨人がいかにも楽しそうに決断と行動を繰り返しているいる姿を見ると、自分も「なにか」できるんじゃないか、という気がしてくる。巨人のでっかい手で背中をドンッと押されるというより、巨人の笑い声が追い風になるような感じ。『空をゆく巨人』は紛れもない大作だけど、ワイフがこれを書き上げることができたのも、ふたりの巨人に触発されたからだろう。

もうすぐいわきの山の桜が満開になる。これは今、志賀さんが取り組んでいて、蔡さんもサポートしている「250年かけていわきの山に99000本の桜を植える」というプロジェクトだ。なにせ、完成するのは250年先でまだ始まったばかりだから、あなたも参加もできる。いわき万本桜プロジェクトの主催で、夏を除いて毎月1回、桜の植樹会を開催しているのだ。

ただ桜を植えるんじゃない。奇跡に参加するのだ。と思うと、ワクワクドキドキしてくるのは僕だけじゃないだろう。

あなたも奇跡を目撃しにきませんか?奇跡に参加しませんか?

『空をゆく巨人』川内有緒

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