三月うさぎ(兄)

ウサギです

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最近の記事

ジョイス『下宿屋』(ダブリナーズ)

このノートは、「Deep Dubliners — ジェイムズ・ジョイス『ダブリナーズ』オンライン読書会」の予習メモです。 読んだのは下記。 『ダブリン市民』安藤一郎訳 新潮文庫(昭和58年11月20日 43版) 『ダブリンの人びと』米本義孝訳 ちくま文庫(2008年2月10日 一刷) 『ダブリナーズ』柳瀬尚紀訳 新潮文庫(平成22年3月1日 一刷) 引用は柳瀬訳から。 どの訳も芝浜を一席始めそうな口調でけっこうノリノリの出だし。明らかに喜劇風で米本義孝解説ではオペラの

    • ヨン・フォッセ『だれか、来る』

      『だれか、来る』 ヨン・フォッセ 河合純枝=訳 白水社 ニーノシュクから訳せる人は日本にはほとんどいない。これはドイツ語からの重訳だが、「著者と20年以上親交を重ねてきた」友人による翻訳だそうだ。 戯曲として読むと、詩のようにぶつ切れで台詞に感情を込めづらくかなり難渋する。わたしは半ばを過ぎたあたりで、「これは一人の台詞でも会話のように読むべきではないか」と思い始めた。テーマとも密接につながるので、読み方としては間違っていない気もする。例えば、p.106-107の「彼女」

      • パラダイムということ

        トマス・S・クーン(イアン・ハッキング序説)『科学革命の構造』青木薫訳 みすず書房 パラダイムとか通約不可能性とかよく使われる割に概ね間違われる(というか科学じゃないところに使われる)可哀想なクーン。 とか言いながら、読みながら再認識したのは、ぼくも主に文学に敷衍して、「通常文学」の最先端でパラダイムシフトするような作品が読みたい、と思っているのだなということでした。 そもそも「通常文学」ってなんだ?ということで、ぼくは何十年にもわたって、あちこちでずっとこんなことを言い続

        • セミコロン かくも控えめであまりにもやっかいな句読点

          セシリア・ワトソン 萩澤大輝/倉林秀男 訳 左右社 概念(表現したいこと)の「厳密さ」を言葉の定義(ルール)で決定できるものなのか、言葉の運用(コミュニケーション)で近づくものなのか、という点で著者のセシリア・ワトソンは、言葉をルールで縛っても常に裏をかかれ変わっていくのは当然なので、静的な定義はない。曖昧さこそが豊穣さの土台だと訴えている。 著者は科学概念・科学史の専門家とのことで、以下のような話は当然わかった上で書いているのだろうけれど、自分が攻撃している「言葉の政治

        ジョイス『下宿屋』(ダブリナーズ)

          ジョイス ダブリナーズ『エヴリン』

          ネタばれかもしれないので注意。 このノートは、「Deep Dubliners — ジェイムズ・ジョイス『ダブリナーズ』オンライン読書会」の予習メモです。 読んだのは下記。 1.『DUBLINERS』NORTON CRITICAL EDITIONS Edited by Margot Norris 2006 2.『The Collected Works of James Joyce』THE CASTANEA GROUP (kindle版) 3.『ダブリン市民』安藤一郎訳 新

          ジョイス ダブリナーズ『エヴリン』

          『恋するアダム』イアン・マキューアン(読書会メモ)

          このブログは、第4回「終わらない読書会―22世紀の人文学に向けて」の予習用メモです。 以下、たくさんの刺激的なトピックリストは、講師をされる予定の濱野ちひろさん(大阪公立大学 UCRC 研究員/ノンフィクション作家・『聖なるズー』の著者)の提供です。ありがとうございます。 読んだのは、イアン・マキューアン『恋するアダム』(村松潔訳, 新潮社, 2021) 1. アダムは人間にそっくりな姿をしているように描かれているが、どこがどのくらい似ているのか? またどこは似ていない

          『恋するアダム』イアン・マキューアン(読書会メモ)

          ダブリナーズ『アラビー』読書会用トピックリスト(なんかよく分からんから)

          ネタばれかもしれないので注意。  このノートは、「Deep Dubliners — ジェイムズ・ジョイス『ダブリナーズ』オンライン読書会」の予習メモです。 https://www.stephens-workshop.com/deep-dubliners/ 「何これ」と思うような拍子抜けの作品で、全くわからんので、えらそうにトピックリストをあげてみます。 読んだのは下記。 『DUBLINERS』NORTON CRITICAL EDITIONS Edited by Mar

          ダブリナーズ『アラビー』読書会用トピックリスト(なんかよく分からんから)

          ミシェル・ウエルベック『ある島の可能性』 読書会用の終わらないメモ(ネタバレしてます)

          このブログは、第3回「終わらない読書会―22世紀の人文学に向けて」の予習用メモです。 以下、たくさんの刺激的なトピックリストは、講師をされる予定の八木悠介さん(ロレーヌ大学博士課程)の提供です。ありがとうございます。 頁番号は、ミシェル・ウエルベック『ある島の可能性』中村佳子訳 河出書房新社 2016 年(文庫本版) ただし、私はKindleで読んだので頁がわからず、引用元なしは全て「ある島の可能性」で引用頁は省略しました。すいません。 1 献辞の宛先、アントニオ・ムニョス

          ミシェル・ウエルベック『ある島の可能性』 読書会用の終わらないメモ(ネタバレしてます)

          ジョイス ダブリナーズ『出会い(An Encounter)』(解答篇)

          【問題】 「ぼく」のこの麻痺(パラリシス)は、一体、何が原因なのか? 男は、一度、2人から離れ、野原のはずれで「He’s a queer old josser!」(D En.248)(「あいつ、変態爺いだぞ!」(D-Y En.39))とマホニーに評される何事かをしてから、戻ってくる。 マホニーは、猫を口実に早々と逃げ出すが、「ぼく」は迷ったまま麻痺している。 男はまた話し始めるが、 それは、「新しい中心」の周りをゆっくりと輪を描くようにうっとりと、なされる。 男が「ぼく

          ジョイス ダブリナーズ『出会い(An Encounter)』(解答篇)

          ジョイス ダブリナーズ『出会い(An Encounter)』(問題篇)

          ネタばれかもしれないので注意。  このノートは、「Deep Dubliners — ジェイムズ・ジョイス『ダブリナーズ』オンライン読書会」の予習メモです。 https://www.stephens-workshop.com/deep-dubliners/ 読んだのは下記。 『DUBLINERS』NORTON CRITICAL EDITIONS Edited by Margot Norris 2006 『The Collected Works of James Joyc

          ジョイス ダブリナーズ『出会い(An Encounter)』(問題篇)

          読書会(2023/4/21)トピック・メモ

          2. クローンたちの名前にある(大文字.)は名字の略なのか? イニシャルのある登場人物 ■第一部 キャシー・H、ジェニー・B、グレアム・K、レジー・D、スージー・K、アーサー・H、アレグザンダー・J、ピーター・N、キャロル・H、ロイ・J、ポリー・T、シルビー・C、マージ・K、モイラ・B、クリストファー・C、ミッジ・A、ピーター・J、クリストファー・H、ゲリー・B、ロブ・D、ハリー・C、シャロン・D、パトリシア・C、シャルロッテ・F ■第二部 シンシア・E(ヘールシャム)、ロ

          読書会(2023/4/21)トピック・メモ

          ジョイス ダブリナーズ『姉妹』

          ネタばれかもしれないので注意。  このノートは、「Deep Dubliners — ジェイムズ・ジョイス『ダブリナーズ』オンライン読書会」の予習メモです。 https://www.stephens-workshop.com/deep-dubliners/ 読んだのは下記。 『DUBLINERS』NORTON CRITICAL EDITIONS Edited by Margot Norris 2006 『The Collected Works of James Joyc

          ジョイス ダブリナーズ『姉妹』

          ネタばれ注意 『クララとお日さま』

          『クララとお日さま』カズオ・イシグロ 土屋政雄=訳 かなりnegativeで断片的な感想を羅列する。  AFが何の略称なのかは作中では明かされていない。解説で人工親友と書いてあるのを見ると、どうも Artificial Friend ととるのが一般的なのか。しかし、ラストの廃品置き場のシーンを見ると、とても Friend の扱いとは思えないので、Artificial Figure か、あるいは Artificial Flower で太陽光発電ではなく、光合成しているのかも

          ネタばれ注意 『クララとお日さま』

          ネタばれ注意 『忘れられた巨人』

          『忘れられた巨人』カズオ・イシグロ 土屋政雄=訳  前作『わたしを離さないで』までは、一貫して個人の記憶と認識と語りの曖昧さやズレを追求してきたが、今作では共同体や社会、民族、国の記憶を扱っている。  アーサー王の少し後の時代設定だが、そもそもガウェインが甲冑をつけている時点で時代考証もおかしいので、アーサー王の「物語」を背景にして虚構を強く意識させるイシグロの意図が感じられる。もちろん、竜が出るんだから「寓話です」と言い切っちゃえばそれですむんだけど。  寓話として「

          ネタばれ注意 『忘れられた巨人』

          『忘れられた巨人』三分の一時点のネタ予想

          あれだ、登場人物のみんなか一部か、絵画のなかの存在だね、これ。

          『忘れられた巨人』三分の一時点のネタ予想

          ネタばれ注意 『わたしを離さないで』(2023/02/11 文末追記)

          『わたしを離さないで』カズオ・イシグロ 土屋政雄=訳 2006年4月30日初版だから、17年ほど発酵させました。 当時、盛大にネタをバラされたのでそれを忘れるまで積んでおこうと。 結果まったく忘れられず、余計に先入観を持ってしまいました。 「子どもたちはクローン人間で内臓を提供するために育てられている」  ところが、1ページ目から「提供者」「介護人」「回復センター」など、けっこう明からさまに匂わせていて、あまり隠すことはしていないし、かなり早い段階で内臓の話が出るので、

          ネタばれ注意 『わたしを離さないで』(2023/02/11 文末追記)