ブレーメン

もどりますか

「石を投げればいいんですよ」

知り合いのテレビディレクター(以下、Dさん)が、教えてくれた。
子どもの頃、近所で大人に追いかけられた時に学んだという。

だいたい、地域にひとりくらい、エキセントリックな名物おじさんって
いますよね?いるいる⤴

直接危害を加えるわけではないけど、子どもが逃げるのを面白がって追いかける人。子どもにしてみたら、えらい恐怖だ。トラウマになりかねない。

子どもだったDさんは、ある日、標的にされて逃げ惑う中、何を思ったか、急に振り返ると近くにあった石を投げたという。窮鼠(きゅうそ)猫噛みだ。当たりこそしなかったが、エキセントリックおじさんは、一瞬フリーズしてから退散したという。まさか子どもが石を投げ返してくるなんて、過去データになかったのだろう。

その経験からDさんは「人は想定外の逆襲を食らうと思考停止に陥り自己防衛に転じる」ことを学んだという。たいそうに言うほどじゃないけど…

最近はエキセントリックおじさんよりもっと物騒な人がいるから、呑気なこと言ってらんないが、この話は参考になる。自分も野良犬に追いかけられた時、石を投げればよかった。(よい子はマネしないでください)

「想定外の反撃→思考停止」の話で、青春の一コマが甦った。

不遇の男子校時代、瞬間最大風速100m級のモテ台風に襲われたことがあった。

文化祭の最終日午後、大講堂で恒例の “のどじまん大会” に出場した時のこと。自分はバックダンサー4人を従えての”出し物(歌)”を披露した。

特に賞をもらったわけではないが、やりきった満足感にひたりながら校舎の催しの撤収作業に向かおうとした。すると、観に来ていた女子高の子たち5~6人に囲まれた。

「出待ち」ってやつだ。どんなアプローチだったかも会話の内容も覚えていないが、女子高生に囲まれ「思考停止」してしまった。だが、今回甦った「思考停止」の主役は自分ではない。

100年に一度あるかないかのような非常事態。思わず平常心を失っていたら、あっちの方向から生活指導部長の先生がツカツカと近づいてきた。

細身で切れ長の目に眼鏡。しゃべり方がしゃくれ気味で口やかましい、生徒から恐れられている存在だ。

部長先生は、私たちの一団にロックオン。まっすぐ向かってくると開口一番「なにやってんだ!もう片付けの時間だぞ!さっさと戻れ!」と、いつもより2割増しくらいで、しゃくれてきた。

普段の私なら「あ、すいません、すぐ戻ります」と、縮こまるところだが
平常心を失っていたせいで、自分の意思と無関係な言葉が口をついて出た。

「あ、あぁ… 今、ファンの集いやっているんで戻りません」

多分、多分だが、動揺を遥かに通り越して堂々としていたと思う。なにせ、さっきまで後ろにいたのは野郎のバックダンサーだったのが、今はバックに女子高生だ。鬼に金棒。

すると、部長先生は一瞬フリーズした。あの沈黙の瞬間はよく覚えている。お手本のような「思考停止」だ。思い返すと私はとんでもないことを口にしてしまったのだが、部長先生は出鼻をくじかれ「あ、あぁ、そうか…」と、なんだか”ばつが悪そう”に去って行った。自分にとっても想定外。そのあと注意された記憶もない。無敵の生活指導部長でも想定外の事態への対応マニュアルは持ち併せていなかったようだ。

スマホもLINEもなかった時代。女子高生たちと連絡先を交換するでもなくモテ台風は一瞬で過ぎ去り、自分は一兵卒として撤収作業に戻っていった。

落ち着いて平常心を取り戻してから悔やんだ。あ~~聞いておきゃよかった… 番号。

大切だな… 平常心。


沖縄出身のお笑い芸人さんが命名してくれたペンネーム/テレビ番組の企画構成5000本以上/日本脚本家連盟所属/あなたの経験・知見がパワーの源です