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不戦は食卓から

 平和を願うなら、まずは平穏な心を保たねばならない。そして、言語、文化、習慣が違う外国人同士が仲良く暮らすためには、謙虚な姿勢、相手を尊重する大らかな気持ちが必要だ。

 わが街クイーンズ区アストリア36番街には争いがない。現在は異国人が共存しているが、以前はギリシャ人が数多くいて、伝説のソプラノ歌手マリア・カラスなどが住んでいたことでも知られる。そんな偉人までもがここで生活していたかと思うと、それだけで興奮するが、街を歩けば鳥がさえずる、実はのどかな住宅地である。

 しかし、通りに出ればお店やレストランがにぎやかに軒を並べる。最近のお気に入りはイタリアンカフェ。ナポリ出身の主人はいつも陽気で、本場のパンやケーキが気楽に味わえ、くつろげて、まるでイタリアに来たみたいでうれしい。

 レストランでは、片言の英語しか通じない店員が優しく接客してくれるエクアドル料理店がいい。先日のランチは、トロピカルジュース、ラーメン並みの器に入ったスープ、メインにはライス&ビーンズとサラダにフライドチキンが大皿に盛られて、わずか10ドル。この日は朝食を食べていなかったが、たらふく食べたら、夕食も必要なくなってしまった。

 それ以外にもレストランで言えば、1つの通りにフランス、ギリシャ、メキシコ、ベネズエラ、ブラジル、中国、日本、バングラデシュ、アフガニスタン、インドなどがひしめき合っている。にもかかわらず、ここの人たちは温厚で、どの店も温かくお客さんを色眼鏡で見ることなく受け入れる。

 この通りでは誰も争うことなく生活を営んでいる。それは、自分たちが作る郷土料理をみんなにおいしく食べてもらいたい、そんな素朴な思いが背景にあるのかもしれない。一つの食卓を囲み、同じ料理を食べることができれば、戦争は起きないと聞いたことがあるが、平和を願うなら、まずは世界各国のおいしい料理を食べ歩いてみるのもいいかもしれない。小さなレストランにも小さなコミュニティーがあり、そこにある外国を体験することで異国を知り見聞を広めることもできる。それこそ満腹になれば腹が立つこともないだろう。【河野 洋】

羅府新報(Vol.33,788/2021年8月31日号)『磁針』にて掲載

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