見出し画像

「推し」=「案件」マインドで書けたなら

おすすめしたい1冊
『推しの素晴らしさを語りたいのに「やばい!」しかでてこない 自分の言葉でつくるオタク文章術』              書評家 三宅香帆



自分に「推し」は特にいない。そう思っている人でも、web上で文章を書く人にはよかったら読んでほしい!
自称オタクの筆者がつづる、推しにまつわる文章を書くためのテクニック本。だけど「推し」がいるか、自身がオタクかどうかに関わらずweb上で文章を書く人が肝に銘じておきたいコンテンツがたわわに実っている本。
推し=アイドルなど人物について語る目的で読むのももちろん良し。
推しのジャンルは人に限らず、好きなものならなんでも。
推し=商材・題材と当てはめたら、webライターの文章力を上げるための参考書に!
執筆案件やアフィリエイト目的のブログを書くときでも、「推し」のように「題材」にも「読者」にも愛情のこもった記事を書こうと思わせてくれる一冊。



初めは「推し」=アイドル系のことかなと思っていた。
現在推してる「人」は特にいない私。あまり関係のない本かなと思っていたのだけど。
ふと手に取って読んでみたらとっても学びが多かった!

「推し」がいる人って夢中になっている姿がかわいくて個人的に大好き。「推し」のあれこれに感情が動いている様子が、躍動感があって。
「推し」がいる方々はそんな活き活きした印象が強いけれど、実は悩みもあるようで。
この本の作者の三宅香帆さんは「推し」について語りたい、感想を発表したいと思いながら「やばい!」以外の言葉が出てこない人たちへこの本をつづられている。

一番ハッとしたのは
『他人の感想を、自分の言語化の前に見てしまうことは一番NG』という部分。
え!そうなの??ついやっちゃう!
映画でも本でも、自分の感想をさぁ書こうと思ったとき、ふとみんなはどんな感想を持ってるのかな?と検索してみたくなることってないだろうか。
でもNGなんだそう。

子どものころ、作文や読書感想文が得意で書くことに苦手意識はなかった私。
ミクシィやFacebookなどSNSの黄金期ももちろん謳歌。自分の好きなことや考えていることを書いて、身近な人に読んでもらえるのがとっても楽しくてうれしかった。
得意を仕事に、とwebライターとして仕事を受注させてもらったり、自身のブログを開設したり。
書くのは得意。のはずだった。
でもweb上の文章は自分の同じクラスの友だちに見られるだけじゃない。顔を知らない誰かが自分の書いたものを目にすることがあるかもしれないと意識したとき。
書く内容が、自分の本心であればあるほど心細い…!何をどんな風に書いたらいいのか、迷う!

これを読んだ人はどう思うんだろう。自分の書くものを「これって大丈夫なのか」確認したい気になる。大丈夫か、聞いてみたいのは顔の見えない不特定多数の「みんな」。「みんな」って誰だよ~。
そんな誰かわからない「みんな」に向けて「こんな感じで合ってる?」ってついつい、聞きたくなってしまう。一般的な意見とか世間の空気感を確認した上でしか、自分の意見を世に出すのはこわいような気がする。ズレたくない。ズレるとしても意図的でいたい。

でも作者は言う。
「他人の感想を先に見るのはNG」                  
自分の文章を大切にしてほしい、他人の意見に臆しないで。自分の言葉を作って。
そうか…
た、確かにそうだー!!!
私の気持ち、私の文章は本来私のもの。
「自分の思考、自分だけの言葉は手放さないように」と作者が言うように、他人の感想を見ることで自分が思ったこと・書きたかったことを見失ってしまうのはもったいない。

もちろん、webライターが案件を受注して書く文章は、まるまる自分の考えを書き表すものとは違うけれど。
実際に文字にするかどうかは置いておいても、自分の文章=気持ちを守ろうという考え方は本当に忘れちゃだめだなぁとしみじみ。
誰かとかぶらないように、と思う必要もないと作者。
自分が「推し」に対して思ったことは、自分と「推し」の間だけに起きたこと。誰かと同じようなことを書いたとしても、本来他人がそれをどう思うかは関係ないと。

とは言え、似たような文章・感想の中に埋もれるよりはオリジナリティが出せたらと思う気持ちもある。本のタイトルにあるように「やばい!」を何度書いたとしても、自分の心の中にある「やばい!」の中身は他者には正しく伝わらない。

作者は「言語化とはいかに細分化できるか」と言う。
「やばい!」で終わってしまわずに、その中身を細かく細かく分析していくことが大事だと。細分化することで横並びの「やばい!」ではなく、オリジナルの文章が書けるようになる。

文章に必要なのは、常套句に逃げずに「工夫しようとする志」と作者が言うように、自分の思ったことがありきたりに思えても、細かく細かく分析して、書き方を工夫することが大切。細かく分析するときに費やす手間やパワーを捻出できるか、どう書けば伝わるのかを考え抜く姿勢を持てるかで出来上がる文章は全く違うものになるんだろうなぁ。

この本の作者の三宅香帆さんは、とってもチャーミングでやさしい人だなと思う。書くことのメソッドが書かれている本のところどころに、推しに対する気持ちの高まりがにじみ出ている感じ。
あとがきを読んで、三宅さんの文章にあたたかみを感じる理由がわかった。
三宅さんは「SNSで出回っている言葉、言い方がものすごく強くて(中略)劇薬すぎる」、「誰かの心に届きやすすぎる」、「ずっとドキドキしていた」という。だからこの本を書いたと。
自分の気持ちを大事にしてね、他人の感想を見て自分の意見をひっこめなくてもいいんだよと語りかける一方で読み手に対しての配慮を忘れない文章の書き方も示してくれている。

自分と、「推し」と、読んでくれるすべての人を優しく包むマインドが、この本を読むことでダウンロードされていく気がした。

私には今、日々一喜一憂するような、感情を揺さぶられるような「推し」はいない。
だけど「推し」を語るようなテンションと熱量でライターの案件やブログの題材を語ることを始めてみよう。記事のテンションは調整が必要だけど、愛情を込めるという意味で、書く「題材」を「推し」のように取り扱いたい。そして記事を読んでくれるかもしれない見えない相手も。
実はこの本を「やばい!好き!」と思って、感想を書きたいと思ったときについつい「みんなはこの本にどんな感想持っているんだろう」と調べてみたくてたまらなくなった。
でも、自分の言葉でまず感想を書かなくちゃ…!
書けば書くほど、「うまく書けない」と投げ出しそうになったけど、「やばい!」の先を掴んでみたい。
本の中で三宅さんが「私はあなたの感想が読みたいのです!」と書いてくれている。
三宅さんはこの本の感想書いてねーと言っているわけではなくて、自分の言葉で書いて発信すること自体を応援してくれているのだけど。待っててくれる人がいる!と思えて嬉しくて。なんとか最後まで自分で書きたい!と急いだ。
まだまだ「やばい!」の中身は全部書ききれていない感あり。
でもこの本という「推し」をどうしても語りたかった。誰かにも読んで欲しい!これ書き終えたら、他人の感想、見てもいいですか?「推し」のいろんな側面が見たいのです!!

   nouchi | 絵と日記さんのイラストをお借りしました。かわいいです!


この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?